第10話 選定試験~集まる者達~
書いちゃいました。
――遺跡探索班
それは神器の回収と新技術の発見を目的とした遺跡探索のプロフェショナル集団。エリート中のエリート。
各分野のエキスパート達が勢揃いしており、皆が強力な異能者でもある。
それもそのはず、未知の遺跡の周りは未開拓地帯が広がっており、過酷な旅がつきものだ。
何があっても良いように広い分野での優秀な人材が求められる。
未踏破の遺跡には知られていないような強力な魔獣などもおり、常に危険がつきまとう職業である。
真人の関わり合いになりたくない職業ランキングNo.1でもあった。
「遺跡探索班所属?……アレっ? 真道寺先輩って実戦班じゃ?」
「ああ、僕は元々、貸し出す神器の監視と回収のために一時的に実戦班にいたに過ぎないからね」
そういうことか。しかし、この人と一緒は何か嫌だな。
人畜無害そうな顔して中身は真っ黒だからな。丁重にお断りしよう。
「申し訳ありませんが、お受けかねます。打診ですよね? 私にその気はありません。それに私の所属は技術班ですので」
「そうですか。分かりました」
真人の言葉を聞き、ニコッとする真道寺。
やけにあっさりと引き下がるな。
あれ? そういえばコイツと班長って繋がってなかったっけ?
嫌な予感に悪寒がする真人。
翌日早朝。
「何でしょうか、班長」
山科が残酷な一言を発する。
「遺跡探索班の選定試験へ逝って来い。業務命令だ」
「はあーっ? ちょっと待ってくださいよ」
また逝けって、ふざけんな。せめて行けと言え。
「強制参加だ。苦情は受け付けん」
逃れられない現実にがくんと項垂れる。
強制参加って何だ。俺に拒否権はないの?こういうのって自分から志願するもんだよね。おかしくないか?
だがここももう限界だ。前門の虎後門の狼。
どうしよう。もう泣いてもいいよね。だって俺悪くないもん。
己の不遇な環境に自己弁護して心の平穏を保とうとするが、一向に落ち着かない。
実際、真道寺や山科の手の上で踊らされている感じが否めない。
どんどん引き返せない状況に向かっているような……
「……ワカリマシタ」
「良し。なら今からロビーに向かえ。皆集合しているそうだ」
「今から? 毎回毎回、急すぎるんですよ。心の準備をですね……」
「そんなものは必要ない」
「……さいですか」
このやり取りも疲れた。気力が根こそぎ持っていかれる。
口答えは無駄だと悟りを開く。一種の開き直りである。
「今日は選定試験のための顔合わせだそうだ」
「選定試験ですか?」
「何だ聞いていないのか?」
ハイ。今の発言、真道寺と繋がっているとの言質を取りました。
予想通りですね。
「聞いてないデス」
「要は沢山いる希望者から優秀な者を抜粋するための試験だ」
私は希望していません。希望者の方にお譲りください。
そこで、ふとある事実に気づく真人。
「ということは自分も試験に落ちる可能性があるということですか?」
「……まあ、そういうことだな」
「何ですか今の間は? まさかイカサマとかしませんよね」
「そこら辺は担当者の判断だな。俺は知らん」
コノヤロウ、逃げやがった。まあ良い、情けない姿を見せれば反対者も出るだろう。
ククッ、俺を甘く見るなよ。悪魔共め。
XXXXX
ロビーに着くと、大勢の人間が集まっていた。
これが全員試験生なのだろうか。
どうやら内部の人間だけでなく外部の人間の雇用試験も兼ねているようである。
明らかに場違いなファッションセンスを持つ者もいる。
実力さえ有れば良いってわけか。ますます帰りたい。
未だ社会の荒波に呑まれていない、リフレッシュな学生諸君も多々見受けられる。
この場にいる連中の視線の先には一塊の集団があった。身に纏う雰囲気が明らかに違う。修羅場を駆け抜けてきた者だけが纏うある種の特有の匂いだ。
恐らく例の古株の者達だろう。真道寺の姿も見える。嫌なものを見た。
その集団の中でも一際強い匂いを持つ男がいる。その男が一同の前に一歩踏み出すとこの場に静寂が訪れる。
「集合したようだな。では、これから試験の説明を行う」
威厳のある太い声だ。人を従わせる力を感じる。
「既に知っている者もいるとは思うが、試験は国内の遺跡で行う」
その発言にこの場がざわつく。場を締めるべく、さらに言葉が続く。
「静粛に! 学生もいるので試験は踏破済みの遺跡で行う。さらに我々ベテランがついているから心配するな。
だが大丈夫だとはいえ決して油断はしないように。踏破済みとはいえ聖域の一つだ」
遺跡には二通りのタイプがある。
この世界の歴史に沿った普通の遺跡。そして聖域と呼ばれる全く統一性のない文明を持つ謎の遺跡群である。
聖域と呼ばれる遺跡からは神器が発掘されることが多い。オーバーテクノロジーの塊である神器。異形を倒すには必要不可欠なものである。
聖域にはその踏破の難しさからランクが付けられる。FからAまでの六段階、そしてさらに上位のSランクとEXランクの計八段階で区分される。
対してこの世界には異能者のランクも存在する。これも聖域のランクシステムと同様であり、異能者の強さを表す。
聖域は同ランクの異能者が二人以上ついて挑むのが常識である。そして異能者は自分のランクの一つ下までの遺跡にまでしか手を出さないのが暗黙のルールとなっていた。
国内のFからCまでの遺跡は確認されているものは全て踏破済みである。それらの遺跡は既に神器が回収済みであり、主に訓練用の修練場となっていた。
今回行くのはCランクの遺跡らしい。
黙って説明を聞いているが、周りの連中はざわついている。
真人は知らない事だが、この場には数々の有名人が揃いぶみしていた。A級ランカー以上にはその人物の特性にあった呼称が付けられる。
誰が付けるのかは不明である。いつの間にか浸透しているのだ。何者かの意図を感じる。
「おい、あの人。<重層>の門松さんだぞ」
「あっちは<熱姫>さんだ。美しい……」
「あの方は<最速>。初めて生で見た」
「アレが噂の<悪魔王子>か」
「あちらは<唯我独尊>様だ」
周りの喧騒を聞いて真人は顔をしかめる。
有名な人達だったのか? ますます関わり合いたくないな。
「お前達、俺の事を知っているようだな。まあ、大船に乗った気でいろ。ガハハハッ」
<唯我独尊>と噂された大男が偉そうにふんぞり返る。
「獅子堂、静かにしていろ」
「へいへい。班長様は真面目なこって」
荒れてるな。それにしても<唯我独尊>って何だよ。我侭なだけじゃないのか。チームプレイでは下手したら邪魔になるタイプだな。大船は大船でも泥船っぽいな。
真道寺先輩の<悪魔王子>はピッタリだな。悪魔以外の何者でもない。
あの門松って人は古沢さんみたいだな。がっしりと安定感がある。<重層>か……確かにピッタリだな。
あの二人の女の人。キレイだなー。まあ目立つから彼女としてはパスだが。
それにしても凄い。俺にも昔は恥ずかしい呼称もあったが、この人達は恥ずかしくないのかな?
ちなみに知り合い全員に根回しをしたので、今後その恥ずかしい呼称は封印されたはずだ。そう思いたい。俺はあちら側では断じてない。
(ん? あの子もメンバーなのかな? どう見ても中学生くらいにしか見えないぞ)
ふと身長150cm程の小柄な少女が目に付いた。金髪ツインテールは今時珍しくもないが、ちっちゃいな。
試験生集団の後ろの方でピョンピョン跳ねながら前を見ている。小動物みたいだな。背伸びして受けに来た子か?学生と言っても最上級生しかいないはずだが。
「試験は明日。今日は体を休ませておけ。言い訳は聞かん。以上、解散」
ようやく説明が終わったようだ。明日か。溜息を吐きながら職場に戻ろうと踵を返す。
「とりあえず帰ろ」
許可が降りたので、本日は自宅に帰ることにする。
期待に胸を抱かせている集団を尻目に真人の心は晴れなかった。
XXXXX
高揚する周りとは裏腹に真人のテンションは下がる一方であった。暗い表情でロビーを去ろうとする。
人知れず溜息が漏れる。するといきなり背後から気配もなく声がかけられる。
「何か心配事かね」
「うわっ。びっくりさせないでくださいよ」
声の主は真道寺である。いきなり声を掛けられ文句を言う真人。真道寺は悪びれた様子もなく謝る。
「すまないね。それでどうしたんだい?」
「それを俺に聞きますか」
妬ましい目でお前らのせいだと訴えかける。今まで溜まりに溜まった愚痴を一気に浴びせる。
そういえばあの時もコイツに愚痴ったな、などと感慨にふける――その後で異形の前に置いてけぼりにされたが。
当時の事を思い返しさらに視線がきつくなる。
さすがの真道寺もその剣幕に少しひいてしまった。
「そ、そうか。ゴホンッ。しかしものは考えようだよ」
「どういう事ですか?」
真道寺はニヤッとしながら諭すように言葉を並べていく。
「君はこのまま技術班でやっていけると思っているのかな?」
レポートやら論文やらは勘弁して貰いたい。というか一生できる気がしない。
「うっそれは……で、でも俺は技術屋です」
「そうだね。でも要は技術班のルールに縛られず自由に技術屋をやりたいだけだよね……支部に居た時のようにね」
支部の内情は筒抜けのようだ。まあ山科班長から漏れたのであろうが。
「別に技術屋のままで良いんだよ」
その言葉にピクっと反応する。どういうことだ?
「遺跡探索班に入ったからといって最前線に立つ必要はない。メンバーには色々な人材がいるんだ。技術屋もまた然りだよ」
「でも選定試験やるぐらいだから強いやつが選ばれるんですよね? 危険が多いって事じゃないですか」
柊は危険という言葉に敏感である。だがそこは真道寺。懐柔すべく言葉を並べていく。
「別に遺跡の中にまでついていく必要はないんだよ。サポート要員として待機という手もある」
「待機ですか?」
待機という言葉に反応する。真人の好きな言葉だ。
「そう、待機だよ。現地近くに拠点を設けて遺跡に潜ったメンバーのサポートが主な仕事。安否確認や資材搬入、身の回りの世話に食事の準備などやることは沢山ある」
「……何か後半は家政婦みたいですね」
軽いつっこみを入れつつ話を聞き続ける真人。その様子を見ながら、真道寺はさらに追い打ちをかけるべく最後の爆弾を投げかける。
「しかも遺跡に行く事は滅多にない。彼らベテラン組も今回で二回目だよ」
「何だって!」
「つまり待機こそが主な仕事。大抵は本部で好きな事をやってのほほんと過ごしていればOKだ。もちろんレポートなどといったノルマも無い」
「おおっ」
素晴らしい現実に真人の目に再び光が射す。それならば理想の職場だ。
珍しく真剣な顔で真道寺と見つめ合う。真道寺の後ろに後光が射し、神様のように見える。
「分かってくれたかね」
「分かったぞ、いや、分かりました。素晴らしいじゃないですか」
「うんうん。だけどね、それには試験で選ばれなければいけないんだ」
「まかせてください。やってやりますよ」
がっちりと握手する二人。俄然やる気になる真人。
当初警戒していたにも関わらず、結局いいように言いくるめられてしまった。
すっきりと憑き物が落ちたような顔になる。
そして勘違いの道を見出したとは知らず、機嫌良く帰っていくのであった。
その背後で、してやったりの真道寺は悪魔のような笑みを浮かべていた。
本当の悪魔がいたらこんな感じだろう。この世のものとは思えない。
あくまで今までは一回しか遺跡に行っておらず待機できる人もいる、という事実を述べたに過ぎない。
今まで行かなかったからといって、これからもそうであるとは限らない。
待機できるといっても、そこに真人が抜擢されなければ意味がない。
そこは真人が勝手に勘違いしただけ。そして入ってしまえば幾らでもやりようはある。
その光景を見ていた者達は見てはいけないものを見てしまい、一斉に顔を青ざめさせていた。
このとき二人のやり取りを見ていたものは真道寺の手腕に恐れをなした。
さらに悪魔の笑顔が頭に焼き付きトラウマとなって、この日から数日間悪夢を見る者が続出したという。




