第9話 転属?~悪魔の再来~
続きです。
二ヶ月振りの再会である。懐かしいが嬉しくない。何を言われるか気が気でない。
「柊君、お久しぶりなのであります。丁度良かったのであります。真道寺先輩が呼んでいるのであります」
アレが呼んでる? 俺を? トラブルの予感しかしない。回れ右をして去ろうとする。
だが左腕をがっしりと掴まれ逃げられなくなる。
「さあ行くのであります」
「ちょっと待って、お腹の調子が」
「直ぐに終わるそうなのであります。心配ないのであります」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
さすが実戦班とでもいうべき怪力で引っ張られていく。
左腕を抱え込まれているので逃げられない。
いつぞやの再現のような既視感を感じて嫌な予感を捨てきれない真人であった。
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大和に引っ張られたままどこかに連れて行かれる。ここまで来れば逃げも隠れもせず自分で歩くと、捕らえられていた手を離してもらう。
それにしても何か胸が若干柔らかかったような……まさかな。
「なあ、どこまで行くんだ?」
どんどんやばそうな領域に連れて行かれる。周りを見渡すと高価な装飾品が所々飾ってある。
ここは俗にいうお偉いさんの住む場所ではないのだろうか。
「ここってかなりのお偉いさんの所じゃないのか?」
真人の質問に大和が不思議そうに言葉を返す。
「異能災害対策室は防衛省の中でも特別な位置付けになっているのであります。その本部の班長ともなればエリート中のエリート。その地位は国の上層部の一端といっても過言ではないのであります」
「そうなのか? アレが?」
班長山科のことを考えると今の話とどうも噛み合わない。それくらい真人は山科の評価を下げていた。
「何でも、前任の技術班長殿は『開発の麒麟児』とまで呼ばれたお方で、国の中枢部に多大な影響力を持っていたそうなのであります」
「へえー、それは凄いな」
「物凄い女傑と聞いているのであります」
「女性なのか?」
「はい。残念ながら会ったことはないのであります」
話をしているうちに、奥の部屋にまで連れて来られた。どこだここは?
目の前には重厚な扉がある。ここって本部の偉い人用の部屋じゃないの?
真人が困惑している横で、大和が扉をノックして確認を取る。
「柊同輩を連れてきたのであります」
「どうぞ、入ってくれたまえ」
聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「では自分はこれで失礼するであります」
「え? ああ、帰るのか……」
「会えて良かったのであります」
「ああ、俺もだ。元気でな。最も同じ本部にいるんだ。直ぐに会えるさ」
「フフ。そうでありますね」
大和の笑顔にドキッとしてしまう真人。コイツの笑顔には何故か色気を感じる。
コイツは男だと自分に強力な自制をかける。
「では!」
「うむ」
大和と別れ、扉を開けて中に入る。
「失礼します」
部屋に入る真人。目の前には悪魔が再び降臨。できれば二度と会いたくなかった。真道寺である。
隣にいるのは秘書だろうか。
「やあ、久しぶりだね」
爽やかにキメているが、俺には通じない。もはやお前の本性は分かっている。
余裕綽々の態度で真道寺の前に立つ。
俺はお前を乗り越えた。NOの精神で受けて立とう。
「要件は何でしょうか?」
「実は……」
「NOだ!」
何も言わせないまま、拒絶する真人。秘書らしき人も驚いている。
「えっ?」
「どうせ厄介事に決まっています。ですからNOでお願いします」
ドヤ顔で勝ち誇った顔をする真人。すると真道寺が心外とでも言わんばかりに頭を横に振る。
「そうか、残念だよ。二ヶ月前の時の御礼をしようと思ったんですがね」
「え゛っ」
「無償の奉仕精神。素晴らしい。さすが柊君だ」
「え、いや、あの……」
「では、この話題は終了するとして、次にだ……」
「ちょ、ちょっと待ってください」
意外な展開に焦って言葉を遮る。御礼ならば是非貰わなければならない。
現金な真人であった。
「ん? 何だね?」
「いや、あの好意を受け取らないのも失礼だなぁと……」
「もう一度言ってもらって良いかい? 声が小さくて聞こえなかったんでね。まあ柊君の事だ。男に二言はないと思いますが」
「いえ、あの、その……もう良いです」
「そうか、それならば次の話をしようか」
弁解する前に御礼が終了してしまいました。
只今、次の話題へと移行していますとさ……トホホ。
「実は今度新しい班が出来ることになってね」
「新しい班ですか? それと自分と何か関係があるのでしょうか?」
「まあ落ち着いて話そう。千歳君、お茶を入れてきてくれるかい?」
「畏まりました」
千歳と呼ばれた秘書らしき女性がお茶を入れに隣の部屋に向かう。
「あれから元気にしていたかい?」
「ええ、それはもう。素晴らしい日々でした」
お前が居なかったから「素晴らしかったんだ」と嫌味を強調して言葉を返す。
「そうかい? それは少し心が痛むよ」
全くのスルー。相変わらず食えない奴である。それにしても今の発言はどういうことだ?
「?」
「いやね、知り合いに君の事を素晴らしいと褒めまわっていたんだけどね」
何? 今、聞き捨てならないことを聞いたぞ。俺の耳は確かに捉えた。
「まさか、栄転なんてことになるとはね。君にとってはあの場所が居心地が良かったんじゃないかと心配になってね」
今日までの苦悩はお前の仕業か。こみ上げてくる怒りに拳を握り締める。
「一刻も早く新しい環境に慣れてもらいたくてね。班長さんに打診して一緒に来てもらったというわけさ」
「チェストォーーーーーー!」
つい我を忘れて殴りかかってしまった。強化なしの生身の攻撃だから大した怪我はしないと思うが。
当たると思った攻撃は直前で真道寺に躱された。否、手でいなされた。素早い動きである。
「危ないじゃないか。君は結構気が短いんだね」
「クソッ、外したか」
気が短くて結構。全てお前のシナリオか。班長の出現もコイツの仕業であったとは。
悪魔が悪魔を呼ぶ。既に魔王の領域だな。魔王、真道寺。
千歳と呼ばれた秘書らしき女性が、注いできた冷茶をそっと目の前に置いた。気持ちを落ち着かせるために一杯口に入れる。体中に染み渡る冷たさにほっと息が溢れ出る。
「落ち着いたかい?」
「ええ、まあ」
「それならば先程の続きを話そうか」
先ほどまでの空気を一変させて、佇まいを正す二人。
「新しい班が出来ると言ったね。正確には文化庁から移動した課をそのまま組み込むだけなんだけどね。ちなみに大和君も入る予定になっているんだよ」
あいつもか。実戦班だったはずだが。荒っぽい仕事なのか? まあそれは良いが、俺とどう関わるんだ?
「古株が何人かまとめて来るんだけど、次世代を担う新人育成も含めて数人入れようと思ってね」
新人育成? まさか……
「では改めて。元文化庁遺跡探索班所属、副班長兼特別監査官、真道寺潤です」
真道寺が珍しくきりっとした顔をする。空気が引き締まる。
「新しい肩書きは防衛省管轄、異能災害対策室本部直属遺跡探索班、副班長となります」
そこまでで人呼吸置き、次の瞬間には真人の目をじっと見据えて、真剣な顔付きでその言葉を発した。
「本部技術班所属、柊真人君。君、遺跡探索班に来ないかい?」
こうして平穏? とは言い難い日々が終わりを告げたのであった。
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