四
そうして、携帯を前に悩む事数時間。未だ初めの一文字すら決められず、日付が変わってしまいそうな気配に、俺は焦る。
な、に、を、送れば、いいのだ……? 『これからも宜しく』とか?『今日は有難う』とか? その続きは? 大体、絵文字をどうやって出すのかがもう既に分からない。
今日一日ーー濃かった、と思う。消化しきれない程沢山に図星を指された。不思議と少しも嫌じゃない指摘を。
感謝の思いを伝えるべきだろうか、と考えた。恐る恐る、俺は文字を打ち込んだ。何度も考えては消して。
ーー時間でだけ言えば今日のうちに、何とか送信する事が出来た。自分の今の精一杯の気持ち。恥ずかしいけれども。
『高原に声を掛けてもらってから、嬉しいのと楽しいのでいっぱいです。感謝してます。高原を苛々させたりがっかりさせたりしてしまう事たくさんあると思うけど、おれ至らないやつだけど、これからも友達でいて下さい。おれの大親友へ』
……大して間も置かずに、携帯が鳴った。教えられたとおりに受信メールを開く、高原からの返事ーー『俺も橘に出逢えた事を神に感謝してます。橘といると、俺も嬉しくて楽しくて幸せだよ!! ワクワクする(^o^)でもあんまり俺をドキドキさせないでね。生涯の親友より。おやすみ<(_ _)>』
慌てて『お休みなさい』と返信メールを送る、『明日絵文字教えてあげるね。おやすみなさい! 終われないから、もう返信しなくていいよ(^^)』との返信もまた直ぐに届いた。
布団に潜りこんで、携帯の画面をいつ迄も眺めていた。最初の高原からの返事。「神に感謝」「幸せ」「生涯の親友」ーー自分の言葉をどれも微かに上回る言い回し。
高原はきっと、俺の想像も及ばない程沢山の人達と交流を深くしてきて、どのタイプの人間にはどう接すればいい、というのが自然に分かる様になっているのだろう。俺なんかを喜ばせるのなんて、目を瞑っててもこなせる位に。
それでも、嬉しくて何度も文字を目で追っている。生涯の親友、それに至っては実際口に出してしまって迄。
消してしまわない様に、明日は一番に保存の仕方を聞かないと。明日、当然の様に高原はメールで言ってくれた。明日。
……恋、してしまったんだろうか、とちょっと焦る。異常かも知れない、この「好き」は。ーーいや、違う、と俺は必死で否定に頭を振った。好きだけど、そういう好きじゃない。憧れだ。優しく強い人に対する。安心だ。羨望。尊敬。他人を避けてきた俺には眩し過ぎるから、特別に思う気持ちも大きいだけで。
親友だ。そう言い聞かせるのに、自分はすんなりそれを受け止めた。……そう、それ。おかしな気持ちなんかで接して、高原に嫌な思いをさせる訳にはいかない。大事な親友なのに。
気が落ち着いた処でまた、目は画面の中の文字をなぞっている。既に覚えてしまった七行を。
いつ迄も。
授業中なんかに見て没収される馬鹿な目には遭いたくない。周りの好奇の目も気になるから、見たいけれども授業の合い間の休憩時間も我慢した。四時限目が終わると同時に俺は弁当なんかより先に携帯を取り出し、皆が余り使わない体育館近くのトイレに閉じ籠もった。
高原からのメールが、一時限目の後の休憩時間に送られてきていた。『今日はどこでお勉強する? 図書室裏? 公園? 思い切って俺ん家来ちゃう?!』
……目の前でそれを言われていたら、慌てるどころじゃなかった。表情や声を相手に知らせないメールに改めて感謝しながら、俺は『しっかり教えてもらいたいから、図書室の裏はまずいと思う。公園がいいかな。宜しくお願いします』とだけ急いで返信した。
高原からの返信は、驚く程早く届いた。『OK~★ 先生頑張っちゃうからね★ 放課後、靴箱の辺りで待っててね♪』……『了解です』……『楽しみだね。早く顔を見て話したいね(^^)早く放課後にならないかなあ★』
順調なやり取りを、そこで俺は返事に困って止めてしまった。そうだね、とか本当だね、とか、或いは俺も楽しみだよ、などと軽く返せれば何の問題にもならないのだろうけど。
……返事を返さない携帯に、高原からの次のメールはなかった。終わりだと自分で勝手に決めて、俺は携帯を閉じる。
踏み込み過ぎたやり取りは、慣れない俺には呼吸困難を引き起こしていた。どう対応すればいいのか分からない。折角相手が近付いてくれているのに。親切を『追い詰める行為』にしか、俺は受け取れなくて。
……期間にしてみれば短かったけれども心に深過ぎる溝を落とした事件を、今改めて鼻先に突き付けられた様な、背筋を凍らされる様な感覚。自分では心を開いたつもりでいたのに、高原を信頼して安心していたつもりなのに、少し相手からの距離が短くなっただけで、途端に硬直して身動きが取れなくなっているーー
壊れる程の力で、携帯を握り締めていた。意図した力で。壊れても、いい……壊れてしまえばいいーー
ーー俺が、壊れる前に。
帰ってしまおうか、と逃げたがる思考の一部が囁くのを、意味がない、と俺は諭す。高原は俺の家を知っている、もしもやって来られて中で話そうだなどと家に入る事を迫られでもしたら……
それに大体、勝手に頭をごちゃごちゃにしているのは俺だけだろう。返信がないからと高原がいちいち気に掛ける様なやり取りではなかった筈だ、きっと高原は俺以外とも多数のメールのやり取りをしている筈だから、あんな取るに足らないやり取りに気を取られたりはしないだろう。
納得させようとするのに、意見を拒絶する一部が俺の中にある。考えが深みにはまりそうだ、と俺は目を閉じて長い息を吐く。直ぐに開いた目の先、一瞬にして現れた高原に、俺はびくっと肩を跳ねさせる。
にっこりと笑って、高原は言うのだ。
「ちょっと会わないと、すぐリセットしちゃうんだね。きっつ~い調教が必要なのかな?」
聞きようによっては恥ずかし過ぎる台詞に、俺はあたふたして、人の気配もない周囲に目を遣る。わざとに俺を翻弄してくれたのか、くすりと心底楽し気に笑ってから高原は俺を促した。
「行こうか」
……ふざけているのか真面目なのかよく分からない、と俺は思う。だけど矢張り昼の途切れたメールを高原は気にも留めていないらしい、と思って、俺はほっとした。
気が緩んだせいなのか、不意にふらっと俺はよろめいた。久し振りの立ちくらみ、止められず倒れそうになる体を咄嗟に靴箱にもたれさせようとした俺の体は、がっしと力強い高原の腕に抱き留められた。
さすがに下校時間の校内だ、俺がしっかり立つのを見届けて、高原は素早く俺から手を離してくれた。心配そうな声が、間髪入れずに降ってくる。
「顔色、悪いね。何かあった?」
急いで、俺は首を横に振る。原因は多分に明らかだ、慢性的な寝不足と、考え過ぎと昼食を抜いた空腹のせいだ。けれども黙っていては伝わらない事に気付き、小さく俺は言ってみた。
「ごめん、大丈夫。お昼食べ損ねたから、ちょっと立ちくらみしただけ」
口を開き掛けた高原が、どこか違う場所に目線を動かしてから俺の腕を取った。
「……とりあえず外に出よう。クラスの奴らが来た」
ーー引っ張られる様にして歩きながら、内心複雑な思いだった。昨日はわざと皆に俺を紹介するみたいに見せたのに、今日は見付からない様にしている。結局は俺と一緒に居る所を、皆に知られたくないんだ……。
校外に出て直ぐに、掴まれたままの腕を、俺は勢いよく抜き取ってやった。乱暴な俺の仕草に、気付いて高原が声を落とした。
「ごめん、いつ迄」
ぶつりと途切れた言葉、高原らしくない不自然さ。反射的に顔を見てしまいそうになって、意志の力で俺はわざと高原と反対に顔を向けてやった。
「……橘。拗ねてるの……?」
驚いた様なその表現は、俺には不本意だった。言い聞かせる様に、俺はゆっくり言ってやった。
「拗ねてない。怒ってる」
「その言い方も、拗ねてるよね。可愛い……」
かっと頭に血が昇った。ぎゅっと唇を噛み、俺は高原を振り切る様にうろ覚えの公園に向けて歩き出した。そんな手首を、緩く高原が掴んできた。
「橘。公園やめよ」
ばっと手を振り払った俺は、口調も強めに言葉を投げていた。
「じゃあ、帰る。携帯の使い方位、自力で何とかする。あんたの教えは要らない」
「橘……」
本気で、俺は帰ろうとしていた。方角が分からないなりに足早に歩き出した俺を追い掛けながら、手は出さずに、高原が呼び掛けてくる。
「何でそんなに怒ってんの?」
隠しきれていない面白がる響きに、更に俺の苛立ちは募る。無視を、俺は決め込んだ。懲りない高原の問いは続く。
「初めてだね、そんなに感情はっきり出すの。俺に心開いてくれてるととっていいのかな?」
学校から出て左に歩いて来た、今は右に向けて歩いているから、距離的にもう学校が見えてもおかしくないのにーー道が違うらしい、と俺はぴたりと足を止めた。高原には知った道なのだろうか、それとも俺をからかう事に気を向けているせいで、道などどうでもいいと思っているのだろうか。
帰ると豪語した以上、高原を頼りたくはなかった。今来た道をまた逆に歩いてみよう、と俺はくるりと体の向きを変えた。高原の強い手が、後ろから俺を引いてきた。
「ねえ、橘ってば。何を怒ってるのか教えてよ……」
柔らかな囁き、強く引く力にバランスを崩し、俺は背中から高原の胸にぶつかる。そんな体勢で後ろから俺の胸元で手を組み合わせて、高原が俺を包み込んだ。
条件反射で暴れようとして、ふと俺は挙げたばかりの手を下ろす。……高原は今日、俺と居る所を隠そうとした。ならこんな体勢、困るのは俺じゃなく、高原の方じゃないのか?
熱い息が、首筋に掛かっている。必要以上に密着した体を、出来れば今直ぐにでも振り解いてやりたいけれどーーいつ迄も俺が動かないのに驚いた様に、高原が真面目な声音で尋ねてきた。
「橘……誰かと入れ替わっちゃった?」
どこから出る発想だ、と俺は呆れてしまう。それを言うなら今日の高原も不可解だ、となどと考えていると。
胸の前で組み合わさっていた高原の手が、俺の肩に移動しぐいっと回す様に力を込めてきた。抗えず、くるりと俺は高原の方を向かされてしまった。
逃げを許さない様に、肩から手はどかして貰えないまま。近付けられた高原の顔に、何だかいつもと同じ状況に、焦って俺は口を開いていた。
「こっ……こんなとこ見られたら、困るのあんただろ!!」
ん、と高原がやや顔を離す。肩の手を外させたくて高原の腕を押しやる様に力を入れながら、俺は更に、噛み付く様に言い募った。
「俺と居るとこ、クラスの人に見られたら嫌だから逃げたんだろ? なのにこんなっ」
ーー予期せぬ言葉を耳にしたと言う顔で、高原の手が俺の肩から外れた。橘、と囁く甘さが聞き慣れたものに変化しているのに、俺は身構え体を逃がそうとした。
……した、のに。引き戻された延長のままに、がばと抱き締められるーーまるでいつもと同じに。
どうしてこうなるんだ、と俺は闇雲に暴れた。高原の意図が分からない。俺が怒っている事を知っていて、何故嬉しそうに破顔するのだ。何故……いつもよりも慈しむ表情を深めた様に。
抵抗毎俺を封じて、高原が息をこぼしながら囁きかけてきた。
「可愛い誤解……それ、何て言うか知ってる?」
問い掛ける形なのに、俺からの返事は求めていない。ぎゅうっと、骨迄砕かれそうな今迄で一番にきつい力で俺を抱き締めてから、唐突に高原は俺の体を解放した。
「嫉妬。独占欲。……嬉し過ぎ。橘、俺の事特別に思ってくれてるの?」
今この状態での解放は却って地獄だ、隠せない羞恥で真っ赤になっている顔を直ぐ間近から高原に覗き込まれるこんな状態は。おまけに何がどうなってそんな解釈なんだか、目が回る様な思いは実際に俺の体をふらつかせた。
言い返してやりたい気持ちやもうどうでもいいと諦める気持ちが交錯して、俺は目を閉じた。……誘う闇の中に、そうして俺は身を委ねていた。
頭を撫でる優しい手が与えてくれる安心感。心地好さが、暖かく胸に拡がる。この手の感触を、もう俺は覚えてしまった。全てが優しい高原の、笑顔も掛けられる言葉も抱き締める腕も総て根本に優しさを有した、高原のーー
ーーがばっと飛び起きた、まず反応した体の後で、追い付けない思考が作る隙間に高原の言葉が滑り込んできた。
「無理しちゃ駄目だ。また倒れるよ」
また、と言う事は先程、俺は意識を失い倒れたのか、と気付く。自分が今居るのが見慣れない部屋の中のベッドの上で、寝かされていたらしい事から恐らく高原の家にでも運ばれてしまったらしい事迄を瞬時に察知し、頭に鳴り響く警鐘から静かに俺はベッドから降りる。体を支えようとしてか伸ばされた高原の手から遠去かる様にして、背中を壁に預けて立つ。
明らかに尋常でない警戒を顕す俺に気付いていて、高原はそれには触れないままに心配そうな言葉を掛けてきた。
「まだ寝てろとは言わないけどさ、もう少しゆっくり体を休めた方が」
相手の言葉の途中で、俺は体をずらす様にして部屋のドアに近付いた、ノブに手を掛けようと伸ばした俺の手は、素早くドアとの間に身を晒して立ち塞がった高原の腰先にぶつかった。
反射的に手を引っ込める俺に、ドアを隠す様にして高原が、わざとにか明るい声を出す。
「まだ帰っちゃ駄目。話したい事いっぱいあるでしょ、お互いに」
「俺はない」
被せる様に、低く返した。高原には分かっている筈だ、脅えた人間から逃げ場をなくせばどうなるかーー余計に心を閉ざす筈だと、折角の高原への信頼を俺が手放す筈だと。
なのに敢えて、高原は強行手段を取った。いつもの柔らかな相手の笑みすら今は繕ったものに見えてしまう俺に構わず、不意に高原がその場に座り込んだ。俺を見上げて、高原は静かに言い出した。
「一つ、約束する。ここに居る限り、俺は絶対に橘に手を触れない。いつもみたいな困らせる事はしない」
……俺が困ると知っててやってたのか、と思わず考えがそこに向いてしまったが、はっとして俺は更に背筋を伸ばし、唇を噛んできっと高原を睨んでみせた。俺の強い目を受けて、高原は続けた。
「呼んでも全然ぴくりともしないし、あんまり顔色が悪いからさ、怖くなって、つい俺の家に運んじゃったんだ。目を覚ましたら橘、こういう反応する事分かってた。でも、寒い公園なんかに寝かせておけないじゃん。そっちのがもっと密着した膝枕とかになってたよ。人にも見られるし。そうすれば良かった?」
言われた光景を頭に描き、想像なのに赤くなる。確かに高原の言葉が正論なのに、元々は自分が倒れた事に原因がある負を俺は自覚し、渋々ながらこの状況を受け止めようとしてみた。からかいの響きを消して、高原が言う。
「昼飯一回抜いた位で倒れる? 俺が無理矢理委員にさせたり色んなとこ連れ回したり、変な事したりするから、橘の事精神的に疲れさせちゃったんだよ。さすがに反省したよ、俺。だからちゃんと謝りたくてさ」
言って、高原が頭を下げようとするのに俺は気付いた。何故だか焦って、俺はそれを止めようと口走っていた。
「ごめ」
「悪いの俺だから!! 高原が謝る事ないっ」
無意識の行為だった。そうして、俺は座った高原の目の前に駆け寄る様に近付き、しゃがんで言葉を続けていた。
「反省するのも謝るのも、俺の方だから。高原が優しいのに、甘えてる俺が悪いんだ。いっぱい考えてくれて、気に掛けてくれて、俺本当に高原に感謝してる。悪いとこ教えて直そうとしてくれてんのにも。俺の方が」
咳き込む様に一度に喋ってしまって、唐突に言葉を止める。自分から近付いてしまった事に思い至り、おずおずと身を遠去ける。手を触れない、と誓う様に言ってくれた高原は、動かず優しく俺を見つめていた。
羞恥に飛び出してしまいそうになる気を抑えながら、離せるだけ身を離した位置に体を止めて、もごもごと俺は言葉を閉めた。
「……俺の方が、高原を疲れさせてる。ごめん」
にこりと、いつもの柔らかな笑みを高原は浮かべて。
「俺がどれだけ橘に癒されてるか知らないでしょ。どんな橘も好きだけど、脅えて謝る橘は俺あんまり見たくないな。もう言わなくていいよ」
……どういう環境がこんな優しさを人に抱かせるのだろう、と思う。頑なな心の一部が確かに溶かされていくのに、俺は気付いているーー安心に比例して立ち上がる、消せない奥底の警戒を自覚しながら、だけれど。
黙った俺に、高原の台詞も途切れた。なのに身を隔てた適度な距離の心地好さ、高原は空気迄柔らかに変える能力を持っているらしい。
身を沈めてしまいそうになる自分の油断を戒めるつもりで、俺はそっと口を開いた。
「話したい事、沢山あるって。……何?」
大して考えもせずに、高原はさらりと返した。
「んー。ある事はあるんだけどね。でももう何か大体分かっちゃったしさ。今日は俺橘に触れないしね。だからまた今度でいいや。今日はさ、携帯の使い方講座にしよ」
色々と、何か気になる処のある台詞ではあったが、気にならなかった振りをした。俺は頷いた。
帰ると言ったのに、「折角たくさん作ったんだから」と高原母に優しく促され、「仕事なんか放り出して早く帰宅してやった」と言うお姉さんに囲まれ夕食をご馳走になる。人との距離が分かった様に静かに寄り添ってくる、賢そうなレトリバーの『はなちゃん』に気に入って貰えたのも、嬉しい限りだ。
「まだちゃんと覚えてないだろ? どこ迄理解出来たかテストしてみよう」と熱血教師と化した高原に質問攻撃を受けながら、遅く迄俺は居心地の良い高原家にお邪魔したままだった。
お姉さんの『たっての願い』で車で家迄送って貰ったりして、何だか至れり尽くせりな一日だった。眠りにつく迄に交わす、『親友』との『他愛のない』自然なメールのやり取りにもようやく慣れて、毎日が充実している。
俺から高原に何か返せる事はあるだろうか、と最近はそればかりを考えている。俺が高原から貰ったものは、余りに大きく尊い。総て今後の人生をいい方に左右する程に。
高原が喜んでくれそうな事。もし尋ねれば、きっとふざけてぎゅっとさせろとか誤魔化されて、真意を測れずに終わってしまいそうだ。
自分で考える事に意味がある、と思う。これからも付き合いが続くなら、一つ一つの高原の言葉を考えをしっかり噛み砕いて受け止められる様にならないと。
そう自分に難解な課題を課す事が苦痛ではないのに、内心俺は戸惑っているのだった。