第三話
闇はもう腰の辺りまで私を染めていた。ゆっくりと私を蝕んでいく。じわりじわりと。
Ж
辺りにピチャ、ピチャと粗悪な音が響く。死肉から血を舐め取っているのだ。周りは何とも凄惨な光景が広がっていた。脳やら腸やらの内臓はあたりに散らばりっている。幼き少年が喰らっている屍は血の気を失って萎み、骨と皮だけになった。あとは骨と干したような肉と内臓。そして脳。肉や内臓なんて要らなかった。
(美味しい、でもどこか苦い。なんて美味しいんだろう。この未代は憎い。死んで清々した)
血を口に入れてから憎しみと恨む気持ちが心の中で渦巻きとなり私の心の中を駆け回った。そしてだんだんと私の中の「人間」というものがすぅっ、と消し去っていった。そして変わった。こいつらは食べ物だと。何故食べ物だとなったのかは解らない。ただ、龍という妖怪になって生き物それぞれ食べ物が違うように思考が変わったのかもしれない。
私は未代の動かなくなった心臓を破けた胸に手を入れ抉り取り、手にとって見た。血がなくなって平べったくてホルモンみたいになってる。微かに心臓から光りが滲みだした。やがてすっぽりと心臓を覆う。青く淡い光。まるでアルコール消毒液に火をつけたかのように透き通った淡い、今にも消えそうな光。
(なんて綺麗なんだろう。蛍みたいだ。……っていけないいけない)
たぶんこの淡い光が魂だろうと思った。やはり魂は心臓に宿るんだ。不覚にも初めて見たし綺麗だと思った。でも早く食べないと上って逝ってしまう。思ったとおり魂と思われるモノの光は強くなり、さっきより心臓からの離脱している。私はその魂ごと心臓を口の中に突っ込んだ。体が幼いから中々口の中に入らなかったけどようやく入った心臓は塩の利いた鳥皮のように美味だった。一つ体の中にすうっと入って行ったのはあの魂だろう。心臓はくちゃくちゃと音を立てながら噛み、飲み込んだ。再び、未代の方へ向き直った。
もう別に人間になんて戻らなくていい。人間の形になんて未練は無い。ただ他人の人生を勝手に変えて利用した。それが一番許せなかった。そんなの痴がましい。何でも自分のモノだと思ってる。傲慢な考えだ。だから勝手に私の日常を奪った憎いコイツの来世を奪ってやった。たぶん未代を雇っていた所もそんな奴ばっかりだろう。人の日常を奪っても何とも思わない奴等が。許さない。ふいに頭にある考えが浮かんだ。今の感情囚われて動くのは得策だろうか。
でもまず、手が血で湿気て不快だ。手を拭こうとしても全身が血に濡れて拭けない。仕方ない。舐めよう。舐めようと口に手をもっていこうとした時だった。忘れていた筈の頭痛が頭に過ぎった。絶え間なく二派三派と。堪えるために頭を抱え込んで、しゃがんだ。まるで今まで止んだ分を補うかのような痛みだった。それが途絶えたのは始まって数分のことだった。自分の中の遠かった物が一気に近づいてきたようだった。そして黒い闇が私の意識を包み込んだ。不意に暗闇が途切れて見えたものがあった。お母さんの姿だった。洗い物をしている後姿だ。
「お母さん!」
何にも反応してもらえなかった。鼻歌を歌いながら食器をスポンジで擦っていた。あの後姿は昨日に最後に、学校に行く前に見たお母さんだ。その姿が、どんどん通り過ぎていく。
「お母さん!」
その後次々にこれまで私が見てきた光景が、流れていった。私はだんだんと焦ってきた。嫌な予感がした。これは俗に言う走馬灯というものじゃないか?。だってだんだんと情景が私の幼い頃見たものになっていくからだ。
パソコンでひたすらに文字を打ってる私。
高校に慣れてきた私。
高校の入学式。
受験に受かってほっとしてる私。
受験勉強を寝そうになりながら必至にやってる私。
親友の結花。
お父さんが死んで、泣きじゃくる私。
小学生の頃の日々。
保育園で泣いてる私。
三歳の頃、両親と手を繋いでる私。
そして今映ったのは小さな赤ん坊だった。生まれたばかりの、お母さんから出てきたばかりの私。
そこでまた、視界は闇に戻った。闇は暗く動くと体に纏わりついた。どんどん白く発光してる私を黒に染めていく。怖い。今度は何があるんだろう。走馬灯が終わって、闇に染まったらどうなってしまうんだろう。もう何なんだ。こんな知らない場所に転移して、雄龍になってしまうなんて。願わくば、実は寝てて、起きたら病院のベットってシチュエーションにならないだろうか。闇はもう腰の辺りまで私を染めていた。ゆっくりと私を蝕んでいく。じわり、じわりと。急に、闇が広がるスピードが速くなった。一気に手から顎まで広がる。頭頂部に行くまで時間はかからなかった。意識は揺らぐ。大きく揺らぐ。
だんだんと揺れは小刻みになっていき私は大きく転倒し、意識も闇へと没した。
なんだか文章荒いし展開?が速いし手抜きなかんじがしてならないです。
誤字脱字、改訂すべきところは見つけられたなら教えて下さると嬉しいです。