どうして
「本当に...行くのか...?」
「はい...もう、決めたことです。」
課長は突然立ち上がり叫んだ。
「警視庁サイバー捜査課心得あんしょぉーう!!」
「一つ!警官にあるまじき発言、行動はせぬこと!!二つ!!機械内の命においても、現実のものと同等に捉えること!!三つ!!救命を第一に行動すること!!」
「よし...行ってこい...!帰ってこなかった仲間の仇を討て...!」
発売から2ヶ月で記録的大ヒットを記録したオンラインVRゲーム、ガロンダスGT。56億人以上が現在プレイしている...いや、させられている、と言った方が正しいか。このゲームは体の感覚を全て奪ってゲームの世界に完全に入り込む、フルダイブ型のVRアクションゲームだが、突然何者かが、一回ログインするとその後、ログアウトをできなくするバグを混入させた。このせいでログアウトができなかった人間たちは、ゲーム世界に取り残されたことになる。タイムリミットはあと1日、現実的な身体の限界が、あと1日でやってきてしまう。それを、ゲームの中の人々は知る由もない。自分たちが死んでいく感覚もなく、ある日ぽっくり逝ってしまう...
要するに、これはテロ...全世界56億人を人質に取ったテロ...!俺の目的はただ一つ。犯人を見つけ出すこと。そして、このゲームの世界に囚われた人類を現実世界へと解放すること...!!こうして、俺は死地へとやってきた。一度入ると、抜け出せない。死地へと...
『警視0216 様 ログインを確認 捜査は注意して行なってください』
目の前に広大なフィールドが広がる。もう、後戻りはできない。ゲーム内は案外壊れていないようだ。しかし...遠くに巨大な城、黒い空に覆われた城がある。見たこともない...城!それは、異様な存在感を発し、誰でもあれがラスボスだと見て分かるようになっていた。
「あそこか...コマンドー!」
目の前にウィンドウが広がる。いくらかあるボックスから、ジャンプを選んだ。
『Where do you want to go?』
「K-21 第4階層 10023!」
『Sure.』
体が前に引っ張られる感覚、後、目の前の景色が一変した。
「ここが...ふもとか...」
目の前には300mはあろうかという、巨大な空堀。そして、明度の低いレンガで構成された西洋の城が、山のように聳え立っていた。地面からディスプレイが生えてきて、1人の男が映し出された。特に変哲もない、ただの男にしか見えない。
『なぁんでここまできちゃったの刑事さん?』
「...お前か...?バグを作って持ち込んだのは...!」
『正解正解!』
男は笑いながら手を鳴らした。
「やけにサッパリしてるな...?」
『だってよぉ、ここで違うって言っても意味ないわけだし、何より...この世界からは出られないんだよ...?要するに、僕を捕まえることはできない。誰かを特定しても、誰も僕を捕まえられないんだ!!』
男は高らかに笑いながら続けた。
『さぁさ、入りなよ!この城の警備はゼロ、刑事さんを止めるものは何もない!!ほら、捕まえるんだろう?僕を捕まえるならさっさとしてくれよ。俺にもタイムリミットは近づいてるんだから...!』
堀の向こう側から、これまた巨大な跳ね橋がかけられた。橋を渡って巨大な門から城の内部へと入ると、強いて言えばガンダムのドダイのような物に出迎えられた。
「こいつに乗れって!?なんか言ったらどうだ!!」
返事はない。
「あぁぁ!!もうっ!!」
仕方なくドダイに乗ってみることにした。廊下を曲がったり、上昇下降を繰り返す。配電盤や自動ドアを通り過ぎ、おそらく玉座の場と思われる部屋の前に到着した。
「ここまでありがとうよ」
ドダイから反応はないが、代わりに扉が開いた。
「やーやーよくきたね刑事さん!!」
「ガワの割になかなかにメカニックなんだな。」
「いいだろう?趣味だよ趣味。僕の趣味。」
玉座の間の中、それは、巨大ディスプレイと各種操作板、そして、AKレーシングのゲーミングチェアがポツンと置かれていた。
「なんで俺を招き入れた...?いわば、敵だろ?」
「...興味を持ったから、かな...」
興味...?
「どういうことだ...!」
「わざわざこんなとこまでやってきて、僕のことを探してるなんて、興味湧かない方がおかしいんじゃないの?で、何しにきたの?」
「何って...決まってるだろ!!今すぐバグを修正しろ!このゲーム内に閉じ込められている人間を全員解放するんだ!!」
一気に奴の顔が険しくなる。
「刑事さんがこんなバカだとは...!そんな要求飲むわけないでしょうよ!それに人聞きが悪いな!僕は!自由にしてやったんだ...!辛い現実から、逃れられて!しかも死ぬ時に苦しくない!そんな...幸福...!三日間の自由!...安楽死の確約...!これ以上素晴らしいことはない...!」
「バカはどっちだ!!こんなの...3日間いつ来るかもしれないしに怯えて暮らせというのか!」
「んなこた言ってねぇよ。そもそも、この世界にいるほとんどの人がこの事態に気がついてない。あと、12時間で死ぬことも...!この世界には外の情報が一切入ってこないし、お前あと3日で死ぬぜって言うために死にに来るなんてやつもいないからな...。それに、このバグは僕でしか解除できない。簡単に言うと爆弾みたいなもので、少しでも方法を間違えると、バン!!だから、軍も運営も手が出せないんだよ。どう?完璧でしょ。」
そんなもの...そんなもの...!
「クソッタレ!!こんなことして許されるとでも思ってるのか!?」
「あーらあらミエミエ!!絶対今、反論する隙間がないって、思ったでしょ!!ま、そうじゃなかったとして質問に答えてもね、許されるもクソもないってなる。許されなくてもいいじゃないの。あと12時間なんだから!そうそう、口の聞き方には気をつけた方がいいよ。この世界だと一回死ぬと強制ログアウトだからね...つまり...」
奴が指を鳴らすと、地面から銃が生えてきて左胸に押しつけられた。
「現実とゲームの狭間、擬似的無の空間で余生を過ごすことになる...!」
「なぜこんなことをする...?お前には...何も得がないだろう?」
「刑事さん、アンタ、趣味に損得を持ち出すのかい?」
「...そりゃあ...野暮ってもんだな...」
「さ、これからは黙ってもらおうか?僕も死ぬ準備がしたいんでね。」
男が指を鳴らすと、銃が下がって地面から鉄骨が生えてきた。あっという間に自分の周りを取り囲み、まるで檻のようになった。
「おい!?何をした!!」
「残念ながらね、僕には今刑事さんの声は聞こえないんだ。素晴らしい性能のノイキャンが付いててね。しばらくそこでじっとしててもらうよ。」
その後、いくら攻撃しても、何を使っても、壊れることはなかった。代わりに、急激に体力が吸われていく感覚がしてやがて、たまに男の独り言に耳を傾けるのみになった。そして...
「あと十分...それで...僕はいつ死んでもおかしくなくなる...。はい、出ていいよ。」
また指を鳴らすと檻が消滅し、動けるようにはなった。
「で、なんか聞きたいことある?絶対なんかあるでしょ。...それとも...喋れないくらい力入らない?」
「...いや...じゃあ聞かせてもらうけど...なんでこんなことをした...?こんな...自分だけじゃなくて他人の命も巻き込むことを...!」
「...アンタには...関係ない...!それこそ野暮だ...!!」
「野暮...ね...」
「一体何だと思ってる...!こんなことをして、何かたいそうな理由があるって思ってるんだろうけど...」
「そんなものクソ喰らえってか...?」
しかし...返事はなかった。
「おい...?いくなよ...いくんじゃねぇよ...!ここに閉じ込められてる奴ら、どうすんだよ...!どうすればいいんだよ...!!」
この日、警視庁サイバー捜査課からまた1人、人員が消えたという。




