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《異世界転生したけど、パン屋を開きたいだけなのに、なぜ隣人は魔王の娘で王女は毎日ツケで買っていくんだ!》

作者: V-CO
掲載日:2026/07/20

 我が人生、おそらく「後悔なし」と総括できる。


 二十六歳。自衛隊で軍役八年。危険な任務に数え切れないほど出動し、救った命の数は「好き」と言った女の数より多い。最後のあの時、仲間を突き飛ばし、自分が爆風を受け止めた——正直、痛かった。でも、それでいいと思えた。


 目を覚ますと、真っ白な空間に横たわっていた。目の前にはジャージ姿の少女が座っていて、足を組み、ハンドゲーム機に夢中になっている。俺の第一声はこれだった。


「……あなたが女神?」


「うん。」


 女神は顔も上げずに答えた。


「ちょっと待って、このステージクリアするから。」


 そう言われて、俺は十分間待たされた。


 どうやら彼女は負けたらしい。ゲーム機を横に放り投げ、パンパンと手を叩く。


「よし、始めよう。あなたは死んだ。でも生前の功績は悪くない。異世界に転生させてやる。特別能力も一つ付けてやろう。何が欲しい? 超絶剣術? 無限魔力? 竜族の血筋?」


 女神が次々と能力を挙げていく。俺はしばらく考え込んだ。


 正直、戦場で八年間も圧縮乾パンと即席糧食をかじってきた身としては、頭に浮かぶのはただ一つだった――


「……まともな飯が食いたい。」


 女神はそれを聞くと、首を傾げて三秒間俺を見つめ、そして微笑んだ。


「いいわ、面白い。『極致の料理』スキルをやろう。行ってらっしゃい。」


 そう言うが早いか、彼女は俺を雲の上から蹴り落とした。


 ――かくして、元軍人のタフな俺ことハードは、異世界の辺境の町でパン屋を開くことになった。


 もしあの時、隣人が魔王の娘で、常連客が偽装した王女で、毎日ただで試食に来る白髪の少女が当代の勇者だって知っていたら……


 多分「透明化」スキルを頼んでいただろう。


 だが、この世に後悔薬はない。


 あるのは焼き立てのクロワッサンだけだ。


 ——————


 言うまでもないが、女神の蹴りは本当に強烈だった。


「ぷげっ――――」


 目を覚ますと、俺は泥地にうつ伏せで倒れていた。口の中には草の根が半分突っ込んでいる。


「ここは……」


 顔を上げると、見知らぬ空が広がっていた。太陽が二つ、空に浮かんでいる。一つは橙色がかった色、もう一つは青みがかった色――まるで誰かがフィルター設定を間違えたかのようだ。


「……せめて着地時の緩衝くらいくれよ。」


 俺は立ち上がり、顔の泥を払いのける。粗末な布の服を身にまとい、ポケットには十枚の銀貨と一通の手紙が入っていた。手紙にはこう書いてある。


『転生者ハードへ:

 これが初期資金だ。節約しろよ。町の名は「ドーウェン村」。東へ三キロだ。パン屋の物件はもう話を通してある。家賃は半年分支払い済み。俺の好意を無駄にするな。——女神より

 追伸:ゲーム中に召喚すんなよ。』


 字は走り書きで、末尾には舌を出した顔文字が描かれていた。


 手紙を折りたたんでポケットに戻し、俺は深く息を吸い込んだ。


 空気には硝煙の匂いも血の匂いもない。ただ土と青草の香りだけだ。この匂いを最後に嗅いだのはいつだったか?


 確か、入隊前の田舎にいた頃だった気がする。


「……まあいいや。」


 今は女神の指示通り、東へ向かってドーウェン村へ歩くしかない。


 着いてみると、ドーウェン村は思っていたよりずっと小さかった。


 メインストリートは一本だけ。端から端まで歩いて五分もかからない。鍛冶屋、雑貨屋、酒場、ギルド事務所――それで終わりだ。


 村の入り口の掲示板には黄ばんだ討伐令が何枚か貼られており、紙の端が風にバタバタとはためいている。そこに描かれた魔物の似顔絵は、小学生の落書きのように下手くそだ。


 俺のパン屋はメインストリートの突き当たり、角にある。表札には「空き店舗賃貸」と歪な字で書いてある。


 ドアを押し開けると、ほこりが顔面に襲いかかってきた。咳を二度し、目を細めて店内を見渡す――広さは二十坪ほどか。前のスペースにはテーブルが四つ置ける。奥には厨房が続き、石造りのオーブンがある。まあまあ丈夫そうだ。


「悪くない、設備は一通り揃ってるな。」


 店内を一通り確認した後、俺は袖をまくり、掃除を始めた。


 その後三日間、俺は村中の店を回った。小麦粉、バター、イースト、塩を買い、鍛冶屋で新しい天板を注文した。


 村の雑貨屋の店主はハゲたおじさんだ。パン屋を開くというと、肩を叩いてこう言った。


「若いの、目があるね。うちの村には朝飯を売るところがなかったんだよ。」


 正直、少し大げさに聞こえた。


「じゃあ普段の朝食は何を食べてるんですか?」


「昨日の残りのシチューだよ。」


 おじさんは笑顔を崩さずに言う。何とも言えない気持ちになった。


「……なるべく早く開業します。」


 四日目の早朝、俺は異世界で初めてのパンを焼き上げた。


 小麦粉の質は地球のものとは少し違う。もっと粗いが、麦の香りが強い。バターは「乳角獣」という生き物の乳から精製されたもので、脂肪分が驚くほど高い。生地に練り込むと、厨房中にクリーミーな甘い香りが広がった。


 最初に焼き上がったのは十二個のクロワッサン。


 皮はサクサク、中はふんわり。割ると「パリッ」という軽やかな音がして、隙間から湯気が立ち上る。ハチミツとバターの香りが混ざり合っている。


 一口かじって、俺は三秒間固まった。


「……めちゃくちゃうまい。」


 自画自賛ではない。本当に美味すぎる。


 おそらく女神がくれた「極致の料理」スキルが働いているのだろう。生地の発酵具合、焼き加減、バターの溶け方までもが、人の手では到底制御できない精度で決まっている。手にしたクロワッサンを見下ろしながら、異世界に蹴り飛ばされるのも悪くないかもしれないと思った。


 クロワッサンを店のカウンターに並べ、ドアを開けた。朝の日差しが斜めに差し込む。通りには誰もいない。


 なので、俺は戸口に寄りかかってしばらく待った。


 五分……


 十分……


 初日の売り上げがゼロになるかと思ったその時、隣のドアが開いた。


 そのドアは特別だった。普通のドアではない。全面にびっしりと魔法の紋様が描かれ、銀色の光が隙間を這うように流れている。まるで生きている銀の蛇のように。


 ドアはほんの少しだけ開き、中から一つの目が覗いた。赤い――縦長の瞳孔で、猫のようでありながら猫ではない。


「……おはよう?」


 ドアの隙間から赤い目が俺を、正確には俺の手にあるクロワッサンをじっと見つめている。


「それ、何?」


 声は若く、やや高く、わざとらしい冷淡さを含んでいる。


「クロワッサンだ。パンの一種。」


「……パンは知ってる。でもあれはパンじゃない。パンはあんな色じゃない。パンは――パンは……」


 そこで彼女は言葉に詰まった。


 俺は手の中のクロワッサンを見下ろした。黄金色の表面が陽光の下で魅惑的な光沢を放ち、細かな砂糖の粒が数粒付着している。


「試食、してみる?」


 そう言うと、ドアの隙間の赤い目が激しく瞬いた。


「――い、いらない! お嬢様が簡単に見知らぬ人間の食べ物を受け入れるわけにはいかない! 毒が入ってるかもしれない! 暗殺者かもしれない! 魔族の送り込んだスパイかもしれない!」


 どこのお嬢様だよ……


「……ただのパン屋ですけど。」


「パン屋の人間が空から落ちてくるか? 一昨日の夜、ちゃんと見てたぞ! 光が空から落ちてきて、『ドン』って音を立てて村外れの泥地に突き刺さったんだ。誰も気づいてないと思ってるのか?」


 どうやらあの夜の一部始終は全部見られていたらしい。


 俺はしばらく沈黙し、クロワッサンを二つに割って、片方を自分でかじった。そして、無傷の半分をドアの隙間に差し出した。


「ほら、毒は入ってない。食べる……?」


 ドアの隙間の赤い目は、その半分のクロワッサンをじっと見つめ、瞳孔が細い線のように縮んだ。


 三秒後、ドアが勢いよく大きく開き、蒼白く細い手が伸びてきて、半分のクロワッサンを奪い取り、「パンッ」とドアが閉まった。


 ドアの向こうからカサカサという咀嚼音が聞こえてくる。二秒の静寂。


 そして再びドアが開いた。


 今度は顔全体が姿を現した。


 少女だった。十七、八歳に見える。銀白色の長い髪が肩に乱れかかっている。頭には二本の小さな曲がった角が生えており、色は暗紅色で、焼けた炭のように見える。ゆったりとした濃い紫の寝間着を着て、足元はモコモコのスリッパ。手には既にほとんど食べられてしまったクロワッサンを握りしめ、口元にはパンくずが付いている。


 彼女の目は俺をじっと見つめ、驚くほど輝いていた。


「……まだある?」


「あるよ……ゆっくり食べなよ、詰まるから。」


 二皿目のクロワッサンをテーブルに並べ、温めた牛乳を一杯注いだ。彼女はカウンターの端に座り、足が床に届かず、空中でブラブラと揺れている。口いっぱいにパンを詰め込み、頬をリスみたいに膨らませている。


「んー……んんー……」


「……飲み込んでから話せ。」


 彼女は必死に飲み込み、牛乳を半分ほど一気に飲み干し、大きく息を吐き出した。目尻がうっすら赤くなっている。


「おいしい……」


「……それだけ?」


「本当においしいんだ! 百二十年生きてきたけど、こんなに美味しいものは初めてだ!」


 彼女はグラスをテーブルにドンと置き、大声で叫んだ。


 それを聞いて、俺は一瞬黙った。


「……百二十年?」


 言葉が終わると、彼女は瞬きをし、そして慌てて口を押さえた。顔色が一瞬で慌てたものに変わった。


「あ、あああ、何も聞いてない!」


「聞こえたよ。百二十年生きてきたって。」


「あれは――あれは魔族の年齢換算方式だ! そう! 魔族! 魔族の二十年は人間の一年に相当する! だから俺は実質――実質……」


 彼女は指を折りながら二秒ほど計算してみせる。なかなか様になっている。


 だがすぐに諦め、両腕を組んで顔をそらした。


「とにかく嘘は言ってない! アンタに年齢を知る必要はない!」


 俺は彼女の頭に生えた二本の小さな暗紅色の角を見ながら、おおよその見当をつけた。だが追求はしないことにした。彼女はただドアをノックし、空腹で、俺のパンを食べただけの人間だ。それだけのことだ。


「……まだ食べる?」


 そう尋ねると、彼女は振り返り、目尻に怪しい光を浮かべながらも、必死に真面目な顔を保った。


「……いくら?」


「今日は開店日だ。一日目は無料。」


 そう言って、もう一つクロワッサンを渡した。


「……ふん。」


 彼女はうつむき、何か小さくつぶやいたが、聞き取れなかった。


「何?」


「……ありがとう。」


 そう言った後、彼女の耳の先はトマトのように真っ赤になり、角も少し濃くなった気がした。


 それを見て、俺は微笑み、厨房に戻って新しい生地をこね始めた。


 その時、カウンターの方から「ポン」という軽い音が聞こえた。振り返ると、少女は机にうつ伏せになって、顔を腕に埋め、肩が微かに震えていた。


「おい? 大丈夫か? 食べ過ぎたのか?」


「……アンタのことが嫌い。」


 非難めいた口調だったが、わざと嫌っているようには聞こえなかった。


「なんで急に嫌いになったんだ?」


「だって美味しすぎるんだもん。これで他のものなんてどうやって食べろっていうのよ……」


 彼女の声はくぐもっていて、腕の隙間から漏れ出てくる。


 理由を聞いて、俺は思わず吹き出してしまった。


 外の通りでは早起きの商人が荷車を引く音が聞こえる。二つの太陽が完全に昇った。一つは橙色がかり、もう一つは青みがかっていて、ドーウェン村の屋根を奇妙なグラデーションに染めている。俺は厨房の入り口に立ち、カウンターでまだ肩を震わせている銀髪の魔族の少女を見つめながら、手に付いた粉をはたいた。心の中で思う――


 うん、転生ってやつも、そんなに悪くないな。


 開店一日目の午前はそうして過ぎていった。


 ——————


 午後も天気は相変わらず良かった。


 今日はクリームパンを十二個とバゲットを八本焼いた。湯気が日差しの中で独特の風景を形作っている。


「営業中」の札をかけようとしたその時、ドアが外から押し開けられた。


「フィル、参上――――!!」


 入ってきた少女は自称「フィル」。擦り切れた革鎧を着て、腰には錆びた鉄剣を下げ、満面の笑みを浮かべている。


「ここにパン屋ができたって聞いてね! じゃあ――うん、全部ください!」


 彼女はカウンターに並んだ全てのパンを指差し、その目はまるで魔王を討伐しに行くかのように決然としている。


 俺は彼女を一瞥し、次に彼女の腰に下がった、イノシシすら殺せそうにない鉄剣を見た。


「……払えるのか?」


「ツケで!」


 彼女は迷いなく、ツケにするつもりだと宣言した。


「……開店初日からツケ?」


「私は信用できる冒険者だよ! 次のクエストが終わったらすぐに返すから!」


 全く信用できそうにない……


 後の事実が示す通り、彼女の「次のクエスト」はいつも次の「次」のままだ。そして彼女のパンの食べっぷりは、どんな料理人でも人生の価値を最大限に実感させる――なぜなら彼女は食べながら泣くからだ。


「ううう……これ、美味しすぎるよ……」


「何泣いてんだよ?」


「子どもの頃、王宮で食べさせられてたものは何だったんだろう……」


 それを聞いて、俺の手が止まった。


「……王宮?」


 その瞬間、彼女の動きが固まった。


 空気が三秒間静まり返った。


 自称「フィル」の冒険者少女は、両手で顔を覆い、指の隙間から慌てて動き回る二つの目だけを覗かせている。口にはクリームパンが半分詰まったままで、頬は驚いたフグのように膨れている。


「……んぐぇ。」


「聞き間違いじゃなければ、今『王宮』って言ったよな?」


「言った? 言ってない! 聞き間違いだよ! 言ったのは……王……王……王……王――王都! そう、王都! 子どもの頃に王都で食べてたものが何だったのかって言ったんだ! 王都のパン屋は不味いんだよ!」


 本当に信用できない……


「……ああ、そう。」


 俺は生地をこね続け、追求はしなかった。動きがないのを見て、彼女はこっそりと安堵の息をついたが、彼女は明らかに安堵するのが早すぎるタイプだった。


「……俺が信じたと思う?」


「ぶっ――!」


 彼女は口いっぱいのパン粉をテーブルに吹き出し、むせて泣きそうになりながら咳き込んだ。


 コップ一杯の水を差し出すと、彼女はゴクゴクと飲み干し、テーブルに突っ伏して、「終わった」というような目をした。


「あ、あんた、もう気づいてるんじゃないの……」


「何にだ?」


「私……私は…………王女。」


 彼女はもじもじしながら、指で髪をくるくる回し、顔がどんどん赤くなっていく。ようやく蚊の鳴くような声で最後の言葉を絞り出した。


「ああ。」


「……『ああ』だけ?!」


「うん、見てたから。」


「見てたって?!」


 彼女は勢いよく体を起こし、手のひらでテーブルを叩いた。


「どこで見抜いたんだよ! こんなにうまく変装してたのに! 革鎧は中古商から買ったし! 鉄剣は拾ったし! 髪型も自分で切ったんだ! どこが王女だって言うんだよ!」


 俺は信じられない表情を浮かべる彼女の顔ではなく、テーブルを叩いたその手を見下ろした。


 指は白く細長く、爪はきれいに整えられ、指の関節には一つのタコもない。「D級冒険者」を自称する人間の手が、小麦粉より白く、唯一の武器は刃すらも研がれていない飾りの鉄剣だ。


「魔物を倒したことはあるのか?」


「もちろんあるよ!」


「何匹倒した?」


「…………」


 そこで彼女は瞬きをし、体を少し横に向けて、指を弄り始めた。


「一匹……違う、半匹……違うな……一度、冒険者ギルドの討伐クエストに参加したことがあって、彼らが前で戦ってる間に、後ろで応援してただけなんだけど……」


「つまりゼロ匹だな。」


「ゼロ匹でも冒険者になれないわけじゃない!」


「お前はイノシシにも勝てない。」


「わ、私は王女の権力で衛兵を呼べるんだから!」


「……それなら冒険者になる意味は?」


 そう言うと、彼女は唇をへの字に曲げ、肩を落として、完全に落ち込んでしまった。


「言い方がひどいよ……」


 ため息をつき、焼き立てのクリームパンの皿を彼女の前に押し出した。


 パンを見ると、彼女の目はパッと輝き、三日間飢えた野良猫が缶詰を見つけたかのようだった。


 だが、手をパンに伸ばす前に、彼女は顔を上げて俺を見た。


「……これって、賄賂?」


「口止め料だ。」


「もらう!」


 そう言って、彼女はパンを掴み、口に詰め込んだ。


「実はね……実はこっそり抜け出してきたんだ。」


「王宮から?」


「うん、王宮から。」


 彼女はパンを飲み込み、少し寂しげな表情になった。


「……父王が隣国の王子との結婚を命じたんだ。でもその王子、会ったこともないし、話を聞くだけで無理だと思ったよ。『ハンサムで文武両道』なんて、募集広告に書いても誰も信じないような言葉だよ。」


「それで逃げ出したのか?」


「そうだよ。十分な金貨を持って、馬車を雇って、この辺境の町までずっと来たんだ。それで金貨は使い果たし、馬車は逃げられ、今はギルドの裏庭の薪小屋に住んでるんだよ。」


 彼女はうなずき、あっけらかんと言った。


「……薪小屋。」


「薪小屋でもいいよ、少なくとも雨漏りはしないし。」


 そう言って、彼女はまたパンをかじり、頬を膨らませて、全く気にしていない様子だった。


 しかし、彼女がパンをかじるとき、無意識に目尻が少し赤くなったことに気づいた。たぶん先の話のせいだろう。


 だが、俺はそれを指摘しなかった。


「今夜は店に泊まれ。」


「え?」


 彼女は顔を上げ、困惑した表情で俺を見た。


「二階に空き部屋があるんだ。小麦粉を置く予定だったけど。まずはそこに住めばいい。金ができたら家賃を払え。」


 俺は二階の片隅を指さして、彼女に合図した。


「……あ、あなた、まさか下心があるんじゃない?」


「イノシシにも勝てない冒険者に下心はないよ。」


「言い方が本当にひどいんだから!」


 俺の言葉に、彼女の口元は思わずほころんだ。俺は背を向けて生地をこね続け、見て見ぬふりをした。


 窓の外では二つの太陽が中天に昇っていた。橙色と青色の光が交錯しながら窓から差し込み、カウンターの前で、擦り切れた革鎧を着て、口いっぱいにパンを詰め込みながら、目をキラキラさせている王女を照らしている。


 この辺境の町の客は、どうやら「普通」の奴はいないようだ。


 隣には百二十歳の魔族の少女が住み、店内には薪小屋の王女が座っている。次は勇者でも来るのか?


「……そんな偶然はないだろう。」


 俺は独り言を言いながら、こね終えた生地を濡れ布巾で覆い、オーブンの隣に置いて発酵させた。


 その日の夜、フィオナ――つまり「フィル」冒険者と自称していた彼女。三つ目のパンを食べ終えた後、ようやく本名を明かした――のために二階の部屋を整えた。実際には何もすることはなく、古いベッドの板と新しい布団を置いただけだったが、彼女は入り口に立ってしばらく眺め、まるで初めて五つ星ホテルに泊まったかのような表情を浮かべた。


「ベッドがある!」


「……そうだよ。」


「薪小屋にはわらしかなかったんだ!」


 彼女はまるで何かすごいものを発見したかのように、目を輝かせた。


「早く寝なよ。明日はギルドにクエストを受けに行くんだろう?」


「そうだよ! 明日こそお金を稼いで、部屋代とパン代を返すからね!」


 彼女は拳を握りしめて誓いを立てると、そのままバタンと寝てしまった。俺はしばらくドアのところに立ち、中から均等な呼吸音と、時折聞こえる寝言を聞いていた。


 そして、そっとドアを閉めた。


 階段を下りると、通りからの夜風がドアの隙間から入り込み、野草と土の匂いを運んできた。二つの月が空に浮かんでいる。一つは銀白色、もう一つは淡い紫色で、ドーウェン村の屋根を淡く照らしている。


 閉店の準備をしようとしたとき、隣のドアがまた「キィ」と音を立ててわずかに開いた。赤い縦長の瞳孔が月光の下で驚くほど輝いている。


「……あの王女、泊めたのか?」


 エリシシアの声がドアの隙間から聞こえ、警戒心を帯びていた。


「聞こえてたのか?」


「魔族の耳が飾りだと思ってるのか? 通りの全部に聞こえてたぞ。『ベッドがある!』って、戦でも始まるかのように叫んでた。」


 彼女は一呼吸置き、真剣な口調で続けた。


「あの娘、王室の気配がびっしりついてる。お前がここに置いておけば、遅かれ早かれ厄介事を呼び込むぞ。」


「わかってる。」


「それなのに――」


「彼女には行く場所がないんだ。今はただの客だ。王室の王女様じゃない。」


 ドアの隙間の赤い目が一瞬瞬き、数秒の沈黙が流れた。


「……ふん。好きにしろ。」


 そう言ってドアが「パン」と閉まった。だが二秒後、また少しだけ開き、青白い手が何かを差し出してきた――掌サイズの銀色の鈴だった。


「これを持っておけ。危ない時はこれを鳴らせ。せいぜい聞こえるようにしてやる。」


「……隣に住んでるんだから、鈴を鳴らさなくても聞こえるだろ?」


「持ってけって言ってるんだ! 文句ばっかり言うな!」


 鈴を俺の手のひらに押し込むと、ドアは勢いよく閉まった。今度は完全に閉まり、魔法の紋様も「ブーン」という音を立てて暗くなった。


 俺は掌の中の銀色の鈴を見下ろした。表面には細かな魔紋が刻まれていて、そっと揺らすとほとんど聞こえないほどの微かな音がした。それをエプロンの紐に結び、腰に吊るした。


「……ありがとう。」


 隣からは返事はなかった。だがドアの下の月明かりが一瞬暗くなった。誰かが向こう側にしゃがみ込み、ドアに背を預けて、膝に顔を埋めたかのように。


 俺は店に戻り、「営業中」の札を「休業中」にひっくり返した。


 横になりながら、天井を見つめて考えた。


 女神は「辺境の町」と言っていた。静かでスローライフにぴったりだと――だが今のところ、魔族の令嬢に逃亡王女、この布陣はどう見ても何かの物語の始まりのようにしか見えない。


 そしてその「始まり」は、だいたい後でもっと厄介なキャラクターが登場することを意味している。


「……明日は静かでありますように。」


 俺は目を閉じた。


 ——————


 そして翌朝、ドアを押し開けて入ってきたのは、白髪の少女だった。


 十五歳くらいだろうか。背は低く、痩せて竹竿のようだ。白髪は腰まで届き、額の前髪で片方の眉が隠れている。簡素な灰色のマントをまとい、足元は泥だらけの古いブーツ。彼女は入り口に立ち、朝日を背に浴びて、全体が白く光に溶け込みそうなほどだった。


 そして今、彼女はカウンターの上のパンを見つめている。その視線は、今朝焼き上げたばかりのハチミツクリームサンドのパンに正確にロックオンされていた。表面はこんがりと焼け、割れ目からは黄金色のクリームが溢れ出し、朝日の中で食欲をそそる光沢を放っている。


「……あれ。」


 彼女はパンを指さし、ゆっくりと口を開いた。声はとても小さく、注意しなければ聞き逃してしまいそうだった。


 ただ、この時間帯には他に誰もいないので問題はなかった。


「試食……できる?」


 それを聞いて、俺は一瞬戸惑った。


「……試食?」


「昨日、隣の人が言ってた。毎日試食があるって。」


 隣の人……おそらくエリシシアの奴のことだろう。


 彼女は昨日クロワッサンを三つも食べたのに、今日は早速街中で宣伝してくれているのか? しかも「試食」を売りにして。善意なのかどうかは分からないが、少し違和感を覚えた。


 しかし、この痩せ細った子供を見ていると、俺は皿からハチミツパンを一つ取り出し、一切れ切り分けて彼女に差し出した。


 彼女がそれを受け取るとき、指先が俺の指に触れた。正直言って、氷のように冷たかった。


「……」


 彼女は手の中の小さな一切れのパンを見下ろし、すぐには食べなかった。沈黙がしばらく続いた。そして彼女は一口かじった。


 すると、彼女は全身が固まった。まるで彫像のように、全く動かなくなった。白髪が垂れ下がって顔を覆い、表情は見えない。肩だけがごくわずかに震えた。


「……美味しいか?」


 彼女はすぐには答えなかった。


 だがもう一方の手が伸びてきて、カウンターの方へ向けられた。


「もっと……」


 無理なお願いではあったが、俺はもう一切れ切り分けてやった。食べると、また彼女は固まった。


 そして三切れ目、四切れ目。


 一皿分のハチミツパンが全部小さな一切れになって皿に並ぶまで、彼女は手を下ろさなかった。そして顔を上げた。その瞬間、ようやく彼女の顔をはっきりと見ることができた――五感が作り物のように整っていて、肌は白くほぼ透明に近く、銀灰色の瞳は冬の湖面のように静かだった。ただ一つの問題は――彼女が無表情だったことだ。


 最初の一口から最後の一口まで、彼女の顔の筋肉は微動だにしなかった。笑わず、満足げな表情もせず、瞬きもしなかった。しかしよく観察すると――


 彼女の口元にクリームが少しついていた。


「…………」


「…………」


 彼女は俺を見つめ、俺も彼女を見つめた。二人とも先に口を開く者はなかった。


 しかし、このまま沈黙が続くのも気まずかった。


「……まだ食べるか?」


 俺がそう尋ねると、彼女はうなずいた。その動作はおそらく数ミリ程度だったが、確かにうなずいた。


 仕方なく俺は厨房に戻り、ハチミツパンの生地を新しくこね始めた。彼女は黙ってカウンターの一番隅の席に座り、両手を膝の上に置いて、白い小さな像のようにそこにあった。


 隣のエリシシアは今日もドアを開けず、二階のフィオナはまだ惰眠をむさぼっている。店には俺と彼女の二人だけ、そして窓の外の二つの眩しすぎる太陽だけだった。


 だが当時、俺は知る由もなかった。その日の午後、村の外で大きな音が響き、数人の魔族の追跡者がドーウェン村の領内に侵入したことを。彼らは北から来た。全身に殺気をまとい、先頭の者は黒曜石の大刀を掲げていた。


 ギルドから緊急討伐令が発令され、冒険者たちはギルドホールに縮こまり、外に出ようとしなかった。そしてあの白髪の少女は、俺のパン屋から立ち上がり、服に付いたパンくずをはたき、ドアを押し開けて外に出て行った。


「外に出るな、危ない。」


 俺が叫ぶと、彼女はゆっくりと振り返って俺を見た。


「……お金は払うよ。」


 そしてドアが閉まった。


 外から一つの大きな音が響き、さらにいくつかの大きな音が続いた。最後にさらに大きな音が聞こえた。


 俺がドアを押し開けたとき、村の北側の林は広範囲にわたってなぎ倒されていた。魔族の追跡者たちはあちこちに倒れ、武器を手にした者もいたが、刃は真っ二つに割れ、中には武器を抜く暇すらなかった者もいた。


 白髪の少女はその中心に立ち、灰色のマントを風にバサバサとはためかせていた。手にはいつの間にか、輝く剣が握られていた。


 彼女は振り返り、銀灰色の瞳で俺を見つめた。その瞳に初めて、何か表情が浮かんだ。


 その表情は――食欲だった。


「……明日も試食ある?」


 俺は店の入り口に立ち、なぎ倒された林と、その前に立つ白髪の少女を見つめながら、長い間沈黙した。


「……ちょっと待て、お前が言う『お金を払う』って、これのことか?」


「……?」


 俺が尋ねると、少女は首をかしげ、銀灰色の瞳に二つの太陽の光を映した。


「村外れの林を半分も切っただろう。ギルドが必ず賠償金を請求してくる。」


「……なぜあんたが請求されるんだ?」


「だってお前はさっき俺のパン屋から出て行ったんだ。だから俺に請求がくる。」


 それを聞いて、彼女は二秒ほど考え込み、そしてうなずいた。その理屈を受け入れたようだった。そして彼女は手にした光の剣を一振りすると、刃は水銀のように手のひらに縮み、人差し指に銀白色の指輪となった。


 彼女はマントのポケットから小さな布袋を取り出し、俺の手のひらに乗せた。


「賠償金。」


 重さを量ると、ずっしりとしていた。銀貨だろう。


「これがお前の全財産か?」


「うん。」


「……全部俺にくれて、お前は何を食うんだ?」


 それを聞いて、彼女はまた首をかしげた。銀灰色の瞳が静かに俺を見つめる。数秒後、彼女は一本の指を伸ばし、俺の後ろにあるパン屋を指さした。


「試食。」


「……試食は主食じゃない。」


「うん、俺には十分だ。」


 少女は当然のことのように言う。


 俺は手の中のずっしりとした銀貨の袋を見下ろし、次に彼女の色あせた古いマントと泥だらけのブーツを見た。彼女はまるで風に吹かれて壁の隅に飛ばされた白い羽根のように、いつでもどこかに消えてしまいそうで、数秒前に手にした光の剣で林を半分も切り倒した人物だとは誰も思わないだろう。


「……入ってこい。」


 俺は店の中へ向かい、彼女に手を振った。


 彼女は素直についてきて、カウンターの隅のあの席に再び座った。残っていたハチミツパンを全部彼女の前に並べ、牛乳を温めて一杯差し出した。彼女はテーブルいっぱいの食べ物を見下ろし、まつ毛が微かに動いた。


「多すぎる。」


「お前はそれだけの賠償金を払ったんだ。これだけの価値はある。」


「……食べきれない。」


「食べきれなかったら持ち帰れ。」


 彼女はしばらく沈黙し、パンを一つ手に取って、少しずつ食べ始めた。今度は固まることはなかった。ただ静かに噛みしめ、表情は依然として冷淡だったが、口元のクリームは相変わらずついたままだ。


 俺はカウンターに寄りかかり、彼女の横顔を見つめた。


「……名前は何ていうんだ?」


 彼女は口の中のパンを飲み込み、俺を見上げた。


「……フリカ。」


「フリカか……いい名前だ。」


 彼女は俺の賛辞には応えなかったが、うつむいたとき、耳の先が少し赤くなった。


 さらに何か尋ねようとしたその時、階段の上からドタドタという大きな音が響き、フィオナが二階から飛び降りるように駆け下りてきた。髪は鳥の巣のように乱れ、革鎧は歪に体に掛かっている。


「外の爆発音は何? まさか魔族が攻めてきたんじゃないよね? 戦争が始まるの? わ――私は衛兵を呼べる!」


 彼女は店の入り口まで駆け寄り、外を覗き込んで、そのまま固まった。


「……林、林が……?」


「切られた。」


「誰に切られたんだ?!」


 俺はカウンターの隅を指さした。フィオナがその方向を見ると、銀灰色の冷淡な瞳と目が合った。フリカは手に半分のパンを持ち、無表情で彼女を見つめている。口元にはまだクリームがついている。


「…………」


「…………」


 そしてフィオナはゆっくりと俺の方に顔を向け、恐怖を帯びた表情を浮かべた。


「この白髪の可愛い女の子が、林の半分を切ったの?」


「ああ。」


 それを聞いて、フィオナは唾を飲み込み、黙って後退し、フリカの向かいに座った。両手をきちんと膝の上に置き、突然極めて丁寧な口調になった。


「はじめまして、フィオナといいます。D級冒険者です。実戦経験はゼロですが、理論知識は豊富です。お会いできて光栄です。」


 フリカはゆっくりと彼女の方に向き直り、二秒間見つめた。


「……顔にパンくずついてる。」


「え――? どこどこ?」


 フィオナは慌てて顔を叩き、フリカの言うパンくずを落とそうとした。


 フリカはゆっくりと指を伸ばし、彼女の左頬にそっと触れ、一粒のパンくずをつまみ取ると、それを自分の口に入れた。


「…………」


 それを見て、フィオナは固まった。


 俺も固まった。


 フリカは何事もなかったかのようにパンを食べ続けた。


「……この人、ちょっと怖い。」


 フィオナが俺の耳元に寄って、小声で言った。


「自分で顔に付けたんだろ。」


「そういう問題じゃない! あ、あれは、あれは他人の顔から食べ物を取るって――」


「何が悪いんだ。節約してるんだろう、いいことじゃないか。」


「よくないよ――!」


 フリカは顔を上げ、二人が寄り添って内緒話をしている様子を見つめた。首をかしげた。


「……仲がいいんだ?」


 フリカの視線がこちらに向いたので、フィオナは一瞬戸惑った。


「ま、まあまあ……」


「じゃあ仲がいいんだな。」


「――なんで?!」


「仲が悪い奴は一緒に住まない。」


 フリカは平然と言い、またパンを一口かじった。


「……俺みたいに。」


 その言葉が落ちた瞬間、空気が一瞬静まり返った。


 フリカの話し方はとても平坦だった。その平坦さゆえに、言葉の最後が空気の中に消えた後で、俺はその言葉の中にどれだけのものが隠されているかに気づいた。


 フィオナは口を開きかけて、表情が微妙に変わった。


「……フリカ、住むところはないの?」


「ある……でも、『住む』とは違う。」


「『住む』とは違うってどういう意味?」


 フィオナの質問に、フリカは答えなかった。彼女はうつむき、最後の一切れのパンを口に入れ、ゆっくりと噛みしめてから、椅子から飛び降り、マントのフードをかぶって顔の半分を隠した。


「行く。」


「ちょっと待って!」


 フィオナは立ち上がり、両手をテーブルについて、慌ててフリカを呼び止めた。


「二階にもう一部屋空いてるんだ! 小麦粉の袋が置いてあるけど、片付ければ住めるよ! あなたがもし、他に行くところがないなら……」


 フリカは足を止めた。しかし振り返らず、フードをさらに深くかぶり、銀白色の髪の先とあごだけが見えた。


「……どうして?」


「何が……どうして?」


「どうして俺に優しくするんだ。」


 フィオナは口を開けたまま、その質問に詰まってしまった。


 彼女は俺の方を見て、助けを求める目をした。俺はカウンターに寄りかかって、言葉を選んだ。


「二階の小麦粉の袋が多すぎて、お前が運んでくれるなら、自分でやらなくて済むからだ。」


 俺は首をかしげて、適当な口調で言った。


 それを聞いて、フリカの背中が微かに動いた。


「……試食もあるのか?」


「毎日ある。」


「…………」


 毎日試食があると知り、フリカは振り返った。顔を上げ、銀灰色の瞳で俺を見つめた。その瞳には、ついにほんの少しだけ、ほんの少しだけ――どう表現すればいいのかわからない感情が浮かんでいた。冬の凍った湖面に最初の亀裂が入ったように見えた。


「……わかった。」


 彼女は戻ってきて、カウンターの前に立ち、手を差し出した。


 俺は彼女の指を見下ろした。蒼白く細く、節がはっきりとしていて、人差し指の銀白色の指輪が光の中で柔らかな輝きを放っている。


「今日のパン、明日小麦粉を運びに来る。」


「……何か担保を置くか?」


 彼女は考え込み、人差し指の銀白色の指輪を外し、カウンターの上に置いた。


「これ、預ける。パンを食べたら、取りに来る。」


 俺はその指輪を見下ろした。今、この指輪はカウンターの上に静かに置かれ、雪のように輝いている。


 こんなに繊細な指輪は、普通のパン屋の主人なら一生かかっても買えないものだろう。


「高価すぎる。受け取れない。」


「持ってろ。」


「……」


 フリカはさらに指輪を俺の方に押しやった。


「持ってろ。」


 そしてフリカは手を引っ込め、ドアの方へ向かった。


「また明日。」


 そう簡潔に別れを告げると、彼女はドアを押し開けて外へ出て行った。


 朝の風が外の青草の香りを運び込む。彼女の白髪が風に一瞬舞い上がり、その時、俺は彼女の後ろ首の左側に浅い傷跡があるのを見た。長く伸びた跡で、何かに切り裂かれては何度も癒えたように見えた。


 そして、ドアが閉まった。


 フィオナは俺の隣に立ち、長い間沈黙した。


「……彼女は一体何者なんだ?」


「当ててみろ。」


 フリカの背中を見ながら、フィオナはあごに手を当てて考え込んだ。


「……勇者?」


「当たりだ。」


「え?!」


 俺はカウンターの上の銀白色の指輪を見下ろし、手に取って、光の中で回してみた。内側には異世界共通語で一行の小さな文字が刻まれていた。読み取るのに十秒かかった――


【第六代勇者・フリカ】


「……やっぱりな。」


 俺はその指輪をエプロンの紐の反対側に結びつけた。隣にはエリシシアがくれた銀色の鈴がある。左右に一つずつ、銀白と銀灰。なかなかお似合いだ。


 隣に住む魔王の令嬢、店内の薪小屋の王女、毎日やってくる白髪の勇者。


 俺は厨房に戻り、再び生地をこね始めた。


 女神は「静かにパン屋を開け」と言った。最初は少し腹が立ったが、彼女を許すことにした。


 何しろ彼女はまだ俺にまともな食事を提供していないが、異世界に来てたった五日で、魔王、王女、勇者の三種の神器を揃えてしまった。


 あとはスライムがいれば、異世界ボードゲームができるところだ。


 その日の夕方、閉店前に残ったパンを二つに分けた。一つは隣のドアノブに掛け、もう一つは二階の空き部屋の窓辺に置いた。


 翌朝起きてみると。


 隣のドアノブに掛けておいたパンは消えていた。代わりに小さな瓶の深紅色のジャムが置かれ、瓶口には銀色のリボンが結ばれ、下には一枚のメモが挟んであった。


『魔族領の火の実で作った。お前のパンよりは劣るけどな――エリシシア』


 そして二階の窓辺に置いたパンも消えていた。


 代わりに一束の野花が、草の茎で縛られて、窓の隙間に斜めに立てかけられていた。メモも署名もない。だが、その花の種類は分かる。村の北の林の外れに咲いているものだ――あの半分切り倒された林の縁に、ちょうどこの淡紫色の小さな花が咲いている。


 俺は二階の窓辺に立ち、手に花束を握りしめて、窓の外で二つの太陽がゆっくりと遠くの山々に沈んでいくのを見つめた。


「……悪くない。」


 俺は静かに言った。


 階下からフィオナが起き出す音が聞こえる。最初はスリッパのパタパタという音、そして彼女の悲鳴が続く。


「パンは! 今日はパンはないの?!」


 隣からはエリシシアの壁越しの叫び声が聞こえる。


「うるさい! 魔族は昼寝が必要なんだ!」


 村の方角では、フリカの白い影が時間通りに現れ、こちらに向かって歩いてくる。


 俺はエプロンを締め直し、銀色の鈴と銀色の指輪を腰に下げて、階下へと降りていった。


 ——————


 ドーウェン村の平穏な日々は三日間続いた。


 毎朝、俺はパンを焼き、フリカは時間通りに試食に来る。昼にはフィオナはギルドにクエストを受けに行くふりをして、実際には店で食事をしている。夕方にはエリシシアがドアの隙間から顔を出し、ドアノブに掛けてある「お持ち帰り」を受け取る。たまに三人が店内で顔を合わせ、三角形に座って互いを観察し合い、俺が全く関与したくない情報を目線で交わしている。


 いい日々だった。


 あまりにも良かったので、隣に魔王の令嬢が住み、店内に王国の王女が座り、毎日当代の勇者がやってくることを、つい忘れてしまいそうだった。この三人が揃うのは、まるで三つのパズルのピースのようなものだ。遅かれ早かれ、別のピースがやってくるだろう。


 異世界での生活が正式に始まって八日後、つまり九日目の早朝、ドーウェン村のギルドの掲示板に新しい討伐令が貼られた。


 差出人は地元のギルドではなく、王都からの直接指令だった。


 討伐対象にはこう書かれていた:


【逃亡中の魔族・エリシシア・旧魔王の血脈・懸賞金 十万金貨・生死問わず】


 俺は掲示板の前に立って、その紙を読み終えた。


 後ろには次第に集まってきた冒険者たちが、その懸賞金額に目を輝かせている。


 俺は手を伸ばして討伐令を剥がし、折りたたんで懐に入れた。


「――すみません、この紙、俺が買います。」


 俺が討伐令を剥がした瞬間、その場の冒険者たちが一瞬静まり返った。


 先頭に立っていたのは、あごひげを生やした大男だった。腰にはドアよりも幅の広い大剣を下げ、足元には空の酒樽が置いてある。彼は目を細めて俺を上から下まで観察した。


「お前、あの新しいパン屋の主人だな?」


「ああ。」


「その討伐令を剥がしたのはどういう意味だ?」


「お前たちに受けさせないためだ。」


 彼は二秒ほど沈黙し、俺を見て、そして笑い出した。


「ははは! 若いの、あの紙に書かれた懸賞金額を知っているのか? 十万金貨だぞ。パン屋を三百軒開ける額だ。」


「もちろん知ってる。」


「それならどうして――」


「あの紙に書かれているのは俺の友人だ。彼女は俺の店でパンを食べ、牛乳を飲み、ツケをしたこともないし、問題を起こしたこともない。」


 俺は彼の言葉を遮り、討伐令を手で二つに折り、エプロンの前ポケットにしまった。


 それを聞いて、大男は笑みを引っ込め、指でテーブルを叩きながら、重みのある視線で俺を見つめた。


「若いの、魔族に関わるのは冗談じゃない。ただの魔族じゃない、旧魔王の血脈だ。王国は何年も懸賞をかけている。お前が彼女をかくまうのは、自分を火の中に放り込むようなものだ。」


「じゃあお前たちは? お前たちは彼女を知っているのか? 彼女がドーウェン村にどれだけ住んでいるか知っているのか? 彼女が誰かを傷つけたのを見たことがあるのか? お前たちは知らない。だが俺はしっかり覚えている。」


 俺は振り返り、ドーウェン村の冒険者たちを見た。彼らは今、顔を見合わせている。


「お前たちはドーウェン村にクエストを受けに来て、宿に泊まり、酒場で飲み、物資を買う。エリシシアは一番隅っこのボロ家に住んでいる。お前たちは彼女がそのドアの隙間から出てきたのを見たことがあるか? 彼女はドアを開けることすらほとんどない。唯一外に出たのは――」


 ――パンの匂いを嗅いで、腹ペコで頭がくらくらしながらも「いらない」と強がっていた時だ。


「――とにかく、この討伐令は俺の手にある。お前たちには受けられない。」


 俺は手をエプロンのポケットから抜き、背を向けて戻ろうとした。後ろから椅子を引く音が聞こえ、数人の冒険者が立ち上がったが、俺は振り返らなかった。


 なぜなら、ドーウェン村の鍛冶屋の主人がいつからかギルドの入り口に立っていて、両腕を組み、半分のドアを塞いでいたからだ。


 雑貨屋のハゲたおじさんはもう一方の側に立ち、肩に小麦粉の袋を担ぎ、いつもの看板の笑顔を浮かべている。


 ギルドのカウンターの後ろで、ずっと帳簿を計算していたカウンターの女性が眼鏡を持ち上げて、ゆっくりと口を開いた。


「ドーウェン村の人間が決めるんだ。お前は部外者だ。さっさと座ってろ。」


 数で劣ると見て、大男の刀は半分抜きかけていたが、またしまった。


「……わかった、ドーウェン村の顔を立てよう。」


 彼は再び座り、杯を手に取り、表情は再びあの不敵な様子に戻った。


「だが一つ警告しておく。俺たちが受けなければ、王都が別の奴を送ってくる。次に来るのは俺たちのような賞金稼ぎじゃないぞ。」


 それを聞いて、俺はうなずき、ギルドのドアを押し開けて外に出た。


 朝の風が正面から吹きつける。


 パン屋に戻ると、隣のドアが開いていた。


 ドアの隙間ではなく、全開だった。エリシシアが入り口に立ち、あの濃い紫の寝間着を着て、素足で敷居の上に立ち、両手を前に組み、頭の上の二本の暗紅色の小さな角がかすかに光っている。


 彼女は俺が近づくのを見つめ、唇が微かに動いた。


「……さっき、どこに行ってたの?」


 彼女の声は普段よりずっと小さかった。


「ギルドに小麦粉を買いに行ってたんだ。」


「嘘つき。」


「ああ、嘘だ。」


 そう言うと、エリシシアは拳を握りしめ、指先が白くなり、頭を深く垂らした。


「……あの紙、見たの?」


「見た。」


「あの紙を破り捨てて、俺の居場所を密告すべきだったんだ。十万金貨だぞ。百店舗は開ける。」


「三百店舗だ。」


「それならどうして密告しなかったんだ――?!」


 彼女は勢いよく顔を上げ、目尻が少し赤くなっていた。泣きそうな赤さではなく、瞳の奥で光の紋様が渦巻いていて、制御を失いかけている魔法回路のように見えた。


「俺が誰だか分かってるだろ! 俺は――」


「お前はエリシシアだ。」


「俺は魔王の血脈だ! 俺の血統は旧魔王の直系だ! 王国が俺を殺そうとしているのは――」


「お前が百二十年も外に出ず、毎晩ゲップの音が通り中に聞こえているからか?」


 彼女は言葉を詰まらせた。瞳の光の紋様が宙に止まり、表情は怒りから驚きへ、そして真っ赤に変わった。


「あ、あんた、どうしてゲップのことを――」


「魔族の耳は飾りか? お前はゲップをした後、必ず『誰も聞いてない誰も聞いてない』って小声で言ってるんだ。全部聞こえてるよ。」


 それを聞いて、彼女は三秒ほど沈黙し、そしてしゃがみ込んだ。膝に顔を埋め、肩はまるで篩にかけるように震えた。


 俺は泣いているのかと思った。


「ぷはははは――!」


 突然、彼女は大笑いし始めた。全身を丸めて、素足を敷居の上でバタバタと動かしている。


「あんた、よくもそんなこと――ははは――あの日、俺はちゃんと小さな声で言ったのに――」


 俺は彼女の前に立ち、彼女がしばらく笑うのを待った。彼女が少し落ち着くのを待ってから、ゆっくりと口を開いた。


「中に入れよ。新しいパンを焼いたんだ。ハチミツの。」


 彼女は立ち上がらず、ただ顔を上げて、仰向けに俺を見た。陽光が彼女の背後から差し込み、瞳の中の魔紋の光が徐々に静まり、ほのかで暖かな輝きに変わった。


「あなたは本当に……変わった人だ。」


「よく言われる。」


「あなたは知ってるのか? もし魔族のことに首を突っ込めば、あなたは――」


「中に入れ。」


「……うん。」


 彼女は立ち上がり、つま先で地面を二度こすり、うつむいて俺の後ろについて店内に入った。


 ドアが閉まったとき、隣の窓辺から何かが落ちる音がした。草の茎で縛られた一束の淡紫色の野花だ。


 横を見ると、二階の窓辺に、あの花が昨日の花と並べて置かれていた。斜めに立って、まるで二人の小さな兵士が立哨しているかのようだ。


 その時、二階からフィオナが駆け下りる足音と、切羽詰まった声が聞こえた。


「今日のパンは? ある? あるの? あるの――」


 入り口からは軽いノックの音がする。フリカが時間通りにドアを押し開けて入ってくる。灰色の古いマントには朝露がついている。彼女はカウンターの隅に座り、何も言わず、ただ俺を見つめている。


 四人、パン屋、朝の光。


 ……


「なんで今日もツケなんだよ――?!」


「お金ができたら絶対返すって……」


「昨日もそう言ってた。」


「明日! 明日こそ絶対――」


「一昨日も明日って言ってた。」


「…………」


 フリカは隣で繰り広げられるエリシシアとフィオナの言い合いには構わず、静かにパンを一口かじった。頬が少し膨らむ。


「……美味しい。」


「フリカも何か言ってよ!」


 フリカはパンを飲み込み、フィオナの方に向き直った。


「……顔にパンくずついてるよ。」


「またそれか――!!!」


 エリシシアは隅に座り、ついに我慢できずに「ぷっ」と笑い声を漏らした。あの摘んできたばかりの野花は、いつの間にかカウンターの空き瓶に挿してあった。


 ——————


 二日後、王都から使者が到着した。


 軍隊でも騎士団でもなく、ただの、アイロンのかかった黒いトレンチコートを着た中年男性だった。彼は一人でドーウェン村に足を踏み入れ、従者も武器も連れていなかった。パン屋の入り口にしばらく立ち、ドアを押し開けて入ってきた。


「全粒粉のパンを一つ。」


 俺は彼を一瞥し、振り返ってカウンターから全粒粉のバゲットを一本取り出し、二切れに切って紙袋に入れて渡した。彼は代金を払い、すぐには去らず、窓際の席に座り、紙袋を開けて一口かじった。


 長い間、ゆっくりと噛みしめていた。


「……確かに美味い。これなら彼女が戻りたがらないのも分かる。」


 彼は片眼鏡を外して拭きながら、同時に自分の感想を述べた。


 俺はカウンターに寄りかかり、彼の次の行動を待った。


「私は王室の秘書官だ。王命を受け、王女殿下を探しに来た。ご安心を、捕まえに来たわけではない。王上が考えを改められた。」


 そう言って、秘書官は俺に向かって一礼した。


「何を改めたんだ?」


「隣国との王子の縁談が取り消しになった。理由は十分にある――王子自身から手紙が来て、実は好きな人がいるんだと。鍛冶屋の娘だそうで、無理強いしないでほしいと。」


「王子が自ら取り消したのか?」


「そうだ。王上はその手紙を受け取った後、書斎に一人で半晩座っておられた。翌朝、私に王女を呼び戻せと命じられた。縁談の話はなかったことにする。王女が冒険者になりたいならそれでいい。だが、もう薪小屋には住ませない――」


 秘書官はそこで苦笑した。


「――陛下は口が硬いが、実はあの討伐令を見て、王女がとんでもないことに巻き込まれるのを恐れておられたのだ。」


 それを聞いて、俺はしばらく沈黙した。


「つまり、あの討伐令はお前たちが関知しないということか?」


「討伐令は軍部の古参派閥が出したものだ。王上はあの紙を押さえられたが、旧魔族の血脈に対する懸賞は依然として有効だ。私がここに一枚の異動命令を持ってきた。彼女がドーウェン村を離れ、王都の特別監理区に出頭すればいい。名目上は『監理』だが、実質的には別の場所に住むことになる。安全は保障する。」


「……本人に聞いてみろ。」


 秘書官はうなずき、パン屋の裏庭に通じる半開きのドアの方を見た。ドアの隙間の向こうで、二つの赤い縦長の瞳がかすかに光っている。


「……あ、あなたの言うことは聞かない。私はここに残る。」


 エリシシアの声がドアの向こうから聞こえ、くぐもっていた。


「私は百二十年かけてこの村まで来たんだ。どこにも行かない!」


 秘書官はドアの向こうの赤い瞳を見つめ、しばらく沈黙し、そして微笑んだ。


「そうか……ではそう報告しよう。」


 彼は立ち上がり、入り口に向かった。出ようとしたとき、振り返って俺をもう一度見た。


「――もう一つだけ。」


「何だ?」


「王上がおっしゃっていた。もし王女殿下がいつか戻るときがあれば、パン屋の主人も一緒に連れて来いと。『王女が王宮に戻りたがらなくなるパン』の味を、自ら確かめてみたいと。」


 そう言い終えると、彼はドアを押してパン屋を後にした。


 店内に三秒の静寂が流れた。


 そしてフィオナが階段を駆け下りてきて、慌てた口調で言った。


「何、何、何?! 父王が私を戻れって? それにあなたも連れて行けって?! それって親に挨拶しろってことじゃないの?! あなたたちまさか――」


「パン食べるか?」


「食べる! でも話題をそらさないで――」


「三つやる。」


「――わかった。」


 フィオナは三つのパンで簡単に黙らせることができた。


 エリシシアがドアの後ろから出てきて、カウンターの脇に立ち、うつむいて寝間着の裾を引っ張っていた。しばらくしてようやく口を開いた。


「……私は行かない。」


「ああ、聞いた。」


「あなたも私を追い出さないで。」


「追い出したりしない。」


 それを聞いて、エリシシアは顔を上げて俺を見た。


「もしあの秘書官がまた来て私を連れて行こうとしたら――」


「じゃあ、店の入り口に看板を掛けるよ。」


「どんな看板?」


 彼女がよくわからない様子だったので、俺はカウンターの下から古い木板を探し出し、炭筆で何かを書いて、店の外に掛けた。


 興味を持ったフィオナが近づいて、その文字を読み上げた。


「……当店では討伐令、懸賞、喧嘩はお断りします。店内での武力行使は禁止。違反者は三日間パンを提供しません。」


「魔族はどうなんだ?」


 フリカが隅に座って、手を挙げて尋ねた。


「魔族はきちんと並んでパンを買えば違反者にはならない。」


「……私は並ばない。」


 エリシシアがフンと鼻を鳴らして否定した。


「……並ぶよ。」


 フリカが彼女を一目見て、その否定を否定した。


「――なんでそんなに確信できるんだよ!」


 エリシシアが両手をテーブルに突いて、疑問を投げかけた。


 フリカは無表情でパンを一口かじり、口の中でつぶやいた。


「……だって美味しいから。」


「…………」


 それを聞いて、俺たちは皆笑った。


 朝の光がドアの外から流れ込み、カウンターの上、パンの上、野花の上を照らした。フリカの口元のクリームはまだ拭かれていない。フィオナは口いっぱいにパンを詰め込んでいる。エリシシアは耳の先を真っ赤にして隅っこで怒っているふりをしている。腰元の銀色の鈴と銀白色の指輪が軽く触れ合い、微かな澄んだ音を立てている。


 俺はエプロンを締め直し、厨房へと向かった。


 新しい生地はすでに発酵している。


 窓の外では二つの太陽が昇っている。一つは橙色がかり、もう一つは青みがかっていて、ドーウェン村の屋根を奇妙なグラデーションに染めている。今日もたくさんのパンが焼き上がるだろう。新しい客がドアを押し開けるかもしれないし、そうでないかもしれない。しかし、それらはどれも重要ではない。


 重要なのは――閉店の時間になっても、あのカウンターの席に誰かが座っているということだ。


 それで十分だ。






 あとがき


 この短編は全五章、約二万字強。


 最初は「除隊した兵士が異世界で静かにパン屋を開きたいのに、周りに厄介者が集まってくる」というライトコメディを書こうと思っていた。書いていくうちに、一番心を動かされたのは戦闘や逆転劇ではなく――


 それらの人々が、この辺境の町のパン屋を「居場所」として選んだことだった。


 エリシシアは百二十年かけてここまで歩いてきた。フィオナは王宮を捨ててここに逃げてきた。フリカはあれほど強く、あれほど大きな力を持ちながら、毎日決まった時間にカウンターの隅に現れ、全てを賭けた一つの指輪と引き換えに試食を求める。


 人がどこかに留まることを選ぶのは、実は「ここに受け止めてほしい」と言っているのと同じだ。


 パン屋はその「場所」だった。


 もしこの話を気に入っていただけたら、どのキャラクターが一番好きか教えてください。あるいは特定のキャラクターの独立した番外編が見たい――例えばフリカが勇者になる前の話、エリシシアの百二十年の放浪の旅、フィオナの逃亡中の珍道中など――それなら続けて書くこともできますし、この短編を連載小説の規模に拡張して、四人のその後の物語を書くこともできます。


 あるいは完全に別の方向からやり直すこともできます。新しい設定、新しいスタイル、新しい短編。あなたのご意見次第です。


 いずれにせよ、このドーウェン村の旅にお付き合いいただき、ありがとうございました。


 ところで、女神はどこに行ったんだ?


 ――V-CO

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