目覚めの違和感
「見えているものが、世界の真実とは限らない。」
朝の光がゆっくりと部屋に差し込んでいた。
夜の名残がまだ少しだけ残る静かな時間。
カイトはベッドの上で眠っていた。
そして──
アラームの音。
「ピピッ…ピピッ…」
最初は反応しなかった。
数秒後、ゆっくりと瞼が開く。
天井が視界に映る。
彼はしばらく何もせず、ただ天井を見つめていた。
目覚めたというより、意識だけが戻ってきたような感覚だった。
身体が重い。
眠ったはずなのに、疲労だけが残っている。
階下から、祖母の声が聞こえた。
祖母:
「カイト、朝ごはんできてるわよ」
カイトはベッドの横に置いていたスマートフォンを手に取る。
画面を少し見てから、短く返事をした。
カイト:
「今行く」
階段を降りる足音が静かに響く。
朝の家の空気は落ち着いていて、少し冷たかった。
食卓には、いつも通りの朝食が並んでいる。
カイトは向かいの席に座った。
二人はほとんど会話をせず、静かに食事を始めた。
しばらくして、祖母がふと視線を上げる。
彼の顔をじっと見つめたあと、静かに言った。
祖母:
「目の下、少し暗いわね…ちゃんと眠れてるの?」
カイトは箸を止めることなく、小さく答えた。
カイト:
「大丈夫。もう16歳だし、子供じゃない」
祖母はそれ以上何も言わず、ただ小さく微笑んだ。
食事を終えると、カイトは席を立った。
玄関で靴を履きながら、短く言う。
カイト:
「少し外を歩いてくる」
祖母:
「気をつけてね」
扉が閉まり、朝の空気が外へ流れ出た。
外の世界は静かだった。
人通りは少なく、街全体がまだ完全には目覚めていないようだった。
どこか現実感の薄い、曖昧な朝。
カイトは自動販売機で飲み物を買い、歩き出す。
しばらくすると──
胸の奥で何かが跳ねた。
ドクン。
カイトは足を止める。
自然に手が胸へ伸びた。
カイト:
「……今のは?」
一瞬だけ呼吸が乱れる。
視線を上げると、前方に一人の男が立っていた。
風に揺れる金髪。
こちらをまっすぐ見ている。
カイトは数秒だけ見つめたあと、何も気にせず歩き出した。
しかし──
背後に“気配”だけが残ったままだった。
振り返る。
男はまだそこにいる。
カイト:
「……俺に何か用か?」
男は動かず、静かに答えた。
男:
「違う」
少し間を置き、続ける。
男:
「君の方から来たんだ」
その瞬間、カイトの心臓が強く跳ねた。
ドクン!
視界が揺れる。
カイト:
「……何を言って──」
言葉が途中で途切れた。
身体から力が抜けていく。
倒れかけた瞬間、男が彼を支えた。
その視界の端で、空が歪んで見えた。
現実そのものがずれているような感覚。
そして──意識は途切れた。
次に目を開けたとき。
そこは家ではなかった。
白い光。
無機質な廊下。
カイトは床に横たわっていた。
ゆっくりと起き上がる。
目の前に少女が立っている。
何も言わず、ただ彼を見ていた。
そして──
彼の手を掴む。
カイト:
「……ここはどこだ?」
しかし返事はない。
少女はそのまま歩き出した。
エレベーターの中。
カイトは再び問いかける。
カイト:
「説明くらいしろ。お前たちは誰だ」
沈黙。
数字だけが上昇していく。
扉が開く。
長い廊下。
その先に大きな扉。
扉が開いた瞬間──
カイトの目がわずかに見開かれる。
そこには同年代の子供たちが並んでいた。
全員が彼を見ている。
誰も言葉を発しない。
静寂だけがそこにあった。
少女は彼の腕を引き、別室へと連れていく。
扉が閉まる。
小さな部屋。
ベッドだけが置かれている空間。
カイトはゆっくりと腰を下ろした。
カイト:
「……変な場所だな」
そして横になる。
数秒後──
静かに目を閉じた。




