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冥婚から始まる皇妃戦略 - 棺桶で叩き起こされた最強の妻  作者: 白狼九音
第一卷 冥婚から始まる鎮魂歌
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棺の中 結婚

暗い。息ができない。

白檀の香りがむせ返るほど強い。誰かが私の鼻の下でお寺を丸ごと燃やしてるみたい。

私は目を開けた。

いや、開けようとした。

まぶたが鉛みたいに重くて、やっとの思いで細い隙間を作った。

そして、うっすらと見えたのは、

板。頭上は板だった。古びていて、木目に埃が詰まってて、細かいひび割れが何本かある。

私は瞬きした。

やっぱり板。

指を動かした。

動く。

足の指も動かした。動く。手を上げようとした。

手は上がった。板にぶつかって、「ドン」って鈍い音がした。

痛い。これ、マジで痛い。夢じゃない。

私は息を深く吸い込んだ、ここの空気は異常に少なくて、

一口吸うごとに他人の吸い殻を吸ってるみたいだけど、それから自分の服を触った。

触れた。

布。厚手の布。刺繍が施されてて、凹凸があって、手に刺さる。

また自分の髪を触った。

髷。硬い。何か刺さってて、冷たい。簪だろうな。

あと、いろんな装飾品がぶら下がってて、頭皮が痛い。

なにこれ?

私は強く瞬きして、暗闇に目を慣らそうとした。

だんだん見えてきた、

頭上にある板に、細かい隙間が一本。そこから光が差し込んでる。蛍のお尻くらいの弱い光だけど、確かに光だ。

隙間に顔を近づけて外を見た。

白い。一面の白。

違う、白い布が何かに掛かってる。

もっとよく見ると、

幡だ。

霊幡。魂を呼び寄せるためのやつ。

マジか。棺桶の中か。

その認識で……自分の姿を見下ろした。

赤い。金糸で鳳凰の刺繍が施されてて、職人の技が尋常じゃない。鳳凰の目は小さなルビーで、暗闇でかすかに光ってる。

一枚、二枚、三枚……

指で数えてみると、全部で十二枚。

これって……まさか、婚礼衣装?

違う。

これは、

冥婚。

その言葉が突然頭に浮かんだ。

冥婚。死者と一緒に生き埋めにする、あの冥婚。

なんで私がこの言葉を知ってるんだろう?聞いたことなんてないのに。

でも出てきた。

同時に、大量の記憶も流れ込んできた、

私自身の記憶じゃない。

頭の中に、流れ込んでくる。

見たことのない景色、聞いたことのない言葉、知らない人間の顔——

全部、他人の記憶だ。

ここは――『大燕王朝』。都は『京』。

私は今、『顧清落』という十六歳の庶子の身体にいる。

丞相府の隅で、まあまあの容姿、息を殺すように育った娘だ。

母は私を産んで死に、正妻は私を埃のように扱い、使用人も私を無視した。

臆病で、小心で、人を見れば逃げる――それが、この子の人生だった。

唯一の取り柄は、ほどほどの器量。だが、それがこの後宮では命取りになる。

そう、この世界は、女を食い物にする場所だ。


三ヶ月前、この世界で最強の大国・燕国の第三皇子、『戦神』と呼ばれた蕭景瀾シャオ・ジンランが北方帝国との戦いで敵の奇襲に遭い、戦死した。

太后が命令を下した。高級貴族の嫡女を選び、冥婚の生贄にしろと。

正室は自分の娘を差し出すのが惜しくて、この元の身体を届け出た。

身代わり。

元の身体が知ったときは、もう遅かった。

彼女は薪小屋に閉じ込められて、三日三晩、飲まず食わずだった。

四日目、引きずり出され、無理やり花嫁衣装を着せられ、棺桶に詰め込まれた。

彼女は金の簪を一本隠していた。

抵抗するためじゃない、彼女にはそんな勇気はない。

自分の命を絶つためだ。

生き埋めが怖かった。

あのゆっくりと息ができなくなる感覚が怖かった。

一人で暗闇の中で死を待つことが怖かった。

だから自分でケリをつけたかった。

でも、間に合わなかった。

棺桶に入れられる前に、彼女は死んでしまったから。

そう。

元の身体は死んだ。

棺桶に詰め込まれる前に。

恐怖で。

今ここに横たわってるのは、私――鈴木彩夏、二十八歳、日本芸能界最後の神様。自分で育て上げた七人のクズに毒を盛られ、パトカーの中で死んだ。そして――転生した。

この哀れな庶子の身体に。

棺桶の中に横たわり、花嫁衣装を着て、もうすぐ生き埋めにされる。

私は頭上にある棺の蓋を見つめて、三秒黙った。

そして笑った。

なるほどね。マジでね。私、鈴木彩夏は前世で何人も社会的に抹殺してきたけど、今世は最初から自分が抹殺されかけてるわけだ。

神様よ、なかなか粋なことするじゃん。

袖の中を探った、

やっぱり金の簪があった。

元の身体が隠したやつ。

抜き出して見た。細くて、尖ってて、十分使える。

でもこれで自殺するつもりはない。

バカバカしい。

鈴木彩夏は、誰にも自分の死に方を決めさせない。

前世もそうだし、今世だって。

金の簪をしまって、打開策を考え始めた。

三、棺の隙間から見えた世界

棺桶の中にうつ伏せになって、棺の板に耳をくっつけて、じっと耳を澄ました。

外に音がする。

まずは足音が聞こえた。乱れてて、地面を「サクサク」と踏んでる。

それから甲高い宦官の声。

「七殿下、本当によろしいのですか?」

七殿下?

息を殺した。

「怖がることなどあるか?」

若い男の聲。

陰険、じゃない。

楽しんでる。面白いゲームを見つけた子どものように、純粋に、無邪気に——病的なまでに、楽しんでる。

「三番目はもともと死ぬべきだったんだ。太后が冥婚で慰めようとした?」

一瞬間を置いて、突然笑った。

「面白い。ならば、あの女(太后)にこの目で思い知らせてやろう。自慢の孫に贈られた輿入れが、共同墓地から掘り出した野良犬だったとな。」

笑い声と野良犬の遠吠えが混ざり合った。

でも彼が去ろうとした瞬間、彼の視線が私の棺桶をかすめた、

ほんの一秒だけ。

でもその一秒間、彼の目の奥の色が変わったのが見えた。

陰険なものじゃない。

好奇心……だ。

「待て」

彼は手を上げて、棺桶を担ぐ者たちに合図した。

彼は私の棺桶の前に歩み寄り、蓋に刻まれた文字を見下ろした、丞相府庶女、顧氏清落。

「丞相府の庶女か」彼は静かに言った。「母上が言うには、阿呆で、恐怖で死んだそうだな。本当か?」

側近がへつらうように笑った。「殿下、確かに恐怖でお亡くなりになりました。こちらに運ばれてきた時には、もう息がありませんでした」

「息がない……」その三つの言葉を繰り返しながら、彼の口元が徐々に上がっていった。「それはつまらないな」

彼は棺の板を軽く叩いた。眠っている人を撫でるように。

「まあいい。どうせ死人だ」

彼は去っていった。

彼が振り返った時、最後に私を見た視線は見えなかった、

あの目にあったのは、言葉にできない何かだった。

「お前が生きてたら、さぞ面白かっただろうに」と言っているかのよう。

棺の隙間から外を覗いた、

棺桶が持ち上げられた。

歪んで、ガタガタと揺れて、七転八倒だった。

あの細い隙間から、外の世界が見えた。

白い霊幡、白い紙銭、白い喪服。

大勢の人が遠くに立っていて、先頭に立つのは紫色の蟒袍を着た若者だった。

十八、九歳くらい。五臓の一つ一つが完璧な位置にある。

でもあの目は、

冷たい。

蛇みたい。

口元には病的な笑みを浮かべ、手には死んだ犬をぶら下げてる。

彼は手近にあった薄汚い棺桶に、その死んだ犬を投げ入れた。

あの棺桶は小さく、ボロボロで、藁の敷物が巻いてあり、隣にある金糸楠木の豪華な棺桶とは対照的だった。

それが本来私の入るはずだった棺桶、もしここに運ばれていなければ。

あの紫の蟒袍の男、元の身体の記憶によると、彼の名は蕭景琰、第七皇子だ、手を叩いて、ゴミでも捨てるみたいに軽くやった。

彼の後ろに立っていたのは、七人の男たち。

この七人は、年齢も十代から二十代まで様々。

どの一人も、

現実離れして完璧だ。

七人。七つの、作り物みたいな顔。

黒衣の男——立ってるだけで、空気が凍る。目が、刃だ。

白衣の男——扇を揺らす。口元は笑ってる。でも目が、笑ってない。

錦袍の男——全身、宝石まみれ。顔はにこにこ。無害そうな金持ちのボンボン。一番、タチが悪い。

青衣の男——妖艶すぎる。女みたいだ。背負ってるのは、薬箱?

南疆風の男——肌が透けるほど白い。背負った箱から、変な匂いがする。

僧衣の男——手を合わせてる。顔は慈悲深い。でも目が——この世の者じゃない。

白装束の男——十九くらい。病人みたいに青白い。古琴を抱えて、時々咳をする。その咳が、痛々しい。

七人があの薄汚い棺桶を見る時、その目に慈悲は一切なかった。

七つの個性。並んで立つと、一枚の絵のようだ。

完璧な絵。

くそっ!完璧すぎて、頭皮がゾワゾワする。

私は彼らを知っている。

いや、この顔を知ってるわけじゃない。

この立ち位置、この雰囲気、この目つき。

天枢七曜。

あの七人の私が育て上げて、私を地獄に送り込んだクズども。

北辰、離火、修竹、星野、銀河、辰星、洛辰、

七人、七つのキャラ、私が一番よく知ってる人たち。

今ここに立って、時代劇の衣装を着て、同じ目つきで、あの薄汚い棺桶を見てる。

本来私が入るはずだったあの棺桶を。

胃がまた痛み出した。

毒薬に侵されたあの痛みが。

今は確かに棺桶の中に横たわってるけど、あの痛みの記憶はリアルすぎる。

「よし。運べ。三番目の棺は正門から、これは、」

彼はあの薄汚い棺桶を一瞥した。

「共同墓地の道を通れ。野良犬がもう穴を掘ってるから、そこに放り込めばいい」

「はっ!」

自分の棺桶が持ち上げられる。

あの薄汚い棺桶じゃない。この本物の、「第三皇子妃」の棺桶だ。

金糸楠木で、とても重くて、担いでいるのは十六人。

私の入るはずだったあの薄汚い棺桶は、二人の下男に担がれて、別の方向へ運ばれていった。

あちらからは、野良犬の鳴き声が聞こえる。

私は棺桶の中で、じっと動かなかった。

二人の下男が薄汚い棺桶を担いで、私の横を通り過ぎた。

隙間から彼らの顔が見えた、

一人は四十過ぎで、顔中に肉がついてる。

一人は二十歳そこそこ、痩せて小さくて貧相。

どちらも底辺の卑屈さと無感覚がにじみ出てる。

自分たちが何を運んでるのか、彼らは知らない。

知ってるのは、これは共同墓地に捨てるべき棺桶だってことだけ。

まだ見えた、景琰があの七人と共に、もう背を向けて去っていくところが。

彼らはこの冥婚に興味なんてない。

ただ確認しに来ただけ、

あの厄介な第三皇子が本当に死んだことを。

そして彼に宛がわれた女が野良犬の餌にされることを。

全てが計画通りに進んでることを確認しに来ただけ。

私はあの七人の背中を見つめ、口元が徐々に上がった。

マジかよ。

前世で私を殺しただけじゃ足りなくて。

今世でもまた来るのか。


二人の下男が私の棺を担いで、必死で走った。

あの速さ、オリンピックの競歩より速い。やっぱり命がかかってると必死になるんだな。中で私は振り回されて、左右にぶつかり、頭を棺の板に打ち付け、足で底を蹴る始末だった。

「お兄様たち」

私は辛うじて口を開いた。

「ち、ちょっと遅くしてくれない……痛い……」

「ダメだ!」

年長の方が荒い息を吐いた。

「遅くなったら間に合わない!死ぬぞ!」

棺がさらに激しく揺れた。

私は必死で棺の壁にしがみついた。

全身、ジェットコースターみたいに上下に飛んでる。

あんなに脅かさなきゃよかった。

前方からざわめきが聞こえてきた。宦官の悲鳴、護衛の怒鳴り声、儀仗隊の叫び声。

「止まれ!何者だ!」

「第、第三皇子妃、お成り!」

若い下男の声は震えてたけど、叫んだ。

「黙れ!第三皇子妃の棺はあっちに埋まってるはずだ……待てよ、これは……」

「早くどいて!太后様がそこにいらっしゃる!私たちは、私たちは太后様に直訴したいんだ!」

状況はかなり混乱してるみたい。

足音、叫び声、武器のぶつかる音が聞こえた。

そして、棺が置かれた。

「ドン」と音がして、また頭を棺の板にぶつけた。

痛い。本当に痛い。

外に出たら、絶対に二人に文句言わなきゃ。

「太后様、お成り!」

この一声で、全ての音が消えた。

私は棺の中に横たわり、鼓動が速くなり始めた。

いよいよ本番だ。

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