夜半の恐怖
真夜中。
ベッドに、眠れなかった。
寝床に慣れてないからじゃない。
待っているからだ。
奴は絶対にまた現れる。
青児は隣の控え室で寝ている。母屋には私一人だけ。
月明かりが障子を通して差し込み、床にぼんやりとした白い影を落としている。
目を閉じて、でも耳は澄ませていた。
風の音を、虫の声を、普通じゃない物音を。
子の刻(午前零時頃)三つ。聞こえた。
ごくかすかな「きい」という音、
窓が押し開けられた。
そしてごくかすかな着地の音、誰かが入ってきた。
動かなかった。
寝たふりを続けた。
鼻に変な匂いが入ってきた、生臭くて、冷たくて、
頭の皮がぞわぞわするような感じ。
蛇だ。
私ははっと目を見開い。
月明かりの下で、青い蛇が一匹、窓台から這い降りてきている。
三角形の頭、縦長の瞳孔が暗闇で光っている。
窓台を這い、机の上を這い、
ベッドの方へ向かって滑ってくる。
私はその蛇を見つめながら、
頭の中に前世の記憶が走馬灯のように蘇った、
男団・天枢七曜の中に、洛辰って奴が、
十三の時に私が救い出す前、人に強要されて街で蛇遣いをして生計を立てていた。
彼はいろんな種類の蛇を飼っていたし、蛇に関する知識もいくつか教えてくれた。
蛇の視力はとても悪い。
主に嗅覚と熱感知に頼っている。
刺激臭、例えば雄黄や、硫黄、唐辛子パウダー、を嫌う。
蛇の攻撃速度は速いけど、方向転換は遅い。
一番大事なのは、蛇は不快な匂いを覚えていて、
その後は避けるってこと。
私はゆっくりと手を伸ばし、枕の下を。
さっき入ってきた時、
今日厨房からこっそり拝借したものをいくつか枕の下に入れておいた、
小さな唐辛子パウダーの包みと、小さな塩の包みと、それにショウガのひとかけ。
これは職業病。
前世でタレントを連れてロケに行く時、
バッグには必ずこういうものを用意してた。すごく役に立つ。
虫除け、蛇除け、そして記者除け。
一番すごいのは——
保安検査万能!
唐辛子パウダーの包みを手に取った。
あの蛇はもうベッドのそばまで這ってきて、
頭をもたげて、私を見ている。
私は唐辛子パウダーの包みを握りしめ、息を殺した。
すぐには攻撃しなかった。
ためらっている。
私を「見て」、
獲物か脅威かを判断しているのが感じられた。
三秒、二秒、一秒。
蛇の頭が少し後ろに引かれ——
これは攻撃の予兆だ!
食らえ!!事務所最強無害攻撃!
私は跳ね起き、
唐辛子パウダーの包みをその顔めがけてぶつけた!
「バシッ!」
紙の包みが空中で破裂し、唐辛子パウダーが蛇の顔面を直撃した!
あの蛇は狂ったようにのたうち、
向きを変えて逃げ出した!
蛇め、まだ終わらないよ!
ベッドから飛び降り、
あらかじめ用意していた銅の鉢を手に取った、
鉢には事前に作っておいた食塩水が入っている、
蛇が逃げた方向に向かって浴びせかけた!
蛇は食塩水を頭から浴びて、さらに激しくのたうち、
窓枠にぶつかり、
そして来た道を戻って外へ逃げていった。
私は追わなかった。
ベッドのそばに立ち、息を切らしながら、
あの蛇が窓の外に消えるのを見て。
ふん!
手段がえげつないな!
最初の暗殺で蛇を寄越すなんて?
お前たちは私の前世の経歴を知らないのか?
そばで三年間、蛇遣いをしてたクソガキがいたことを知らないのか?
こっそり窓辺に歩み寄り、外を見た。
月明かりの下、人影が一つ、
こちらに向かって走ってきている。
多分、刺客だ。
蛇が私を噛み殺すのを待って、
遺体を回収しに来るつもりだったんだろう。
でも蛇が無様に逃げ帰ってきたのを見て、焦ったんだ。
私はベッドのそばに戻り、
枕の下のショウガと塩を取り出し、準備。
あの人が窓の下まで走ってきて、
蛇を捕まえようと手を伸ばし……
「ギャア!」
一声の悲鳴。
あの蛇はもう興奮していて、今は主人が誰かなんて構わない。
動くもの全てを攻撃する。彼の手の甲に噛みついた!
あの男は悲鳴をあげて蛇を振り払おうとしたが、
蛇は噛みついたまま離さない。
ますますきつく絡みついてくる。
これがお前たちが私に用意した暗殺か?
蛇すらちゃんと調教してないで放すなんて?
プロ意識がなさすぎるよ!
しばらく待つと、外の悲鳴が次第に小さくなった。
窓辺に行き、窓を押し開けて外を見る。
黒装束の男が一人、窓の下に倒れて、手の甲がミットのように腫れ上がり、顔色は青ざめ、唇は紫になり、目は白目をむいている、中毒だ。
あの蛇はまだ彼の手首に絡みつき、縦長の瞳孔で私を見ている。
「おい!やるじゃん!乗り換えて私のとこで働かない?」
蛇が人間の言葉を理解するはずもない。
でも奴は首をかしげて、本当に考えているみたいだった。
それから壁際に這っていき、まるで死体を私に引き渡すかのようで、
全く私を攻撃しようとしない。
は?この世界の蛇は、賢すぎない?
実は……この蛇がちょっと好きになった。
あの刺客はもう動かない。
自分の蛇に噛まれて死ぬなんて、
この死に方、言っても誰も信じないだろうな。
しゃがみ込んで、彼の死体を調べ。
黒装束、覆面、腰に札が掛かっている。
札を外し、月明かりにかざして見た。
そこには小さな印が刻まれていた、北斗七星の図案。
七つの星が柄杓の形に並んでいる。
天極閣。あの七人のクズども。
やっぱり……
立ち上がろうとした時、目の端に刺客の手首に印があるのが見えた、入れ墨だ。北斗七星だが、周りに一重の模様がついている。
天極閣の印じゃない。
何だ?
細かく確認する余裕はなかった。背後から足音がした。
私ははっとして振り返った。一人の男が渡り廊下の下に立っている。月明かりが彼を照らしている。
灰色の作業着、小柄な体格。まさに昼間、私をこっそり見ていたあの男だ。
「お前は誰の人間だ?」
彼は答えず、向きを変えて走り出した。
追おうとしたけど、二歩走って止まった、私は下着一枚に裸足で、絶対に追いつけない。
まあいいか。
刺客のそばに戻り、もう一度詳しく調べようとした。その時、枕の下から紙切れの白い端がのぞいているのを見つけた。
一枚の紙切れ。
さっきまでこんな紙切れはなかったはず、じゃあ、どうやってここに?
紙切れを開き、そこには一行の文字が書いて。
「蛇は雄黄を嫌う、厨房の棚の上にある。もしお前がこの紙を見ているなら、トラブルに巻き込まれているということだ。気をつけて」
この筆跡……
早足で灯りに行き、蝋燭を灯し、紙切れを近づけて見た。
間違いない。
本の中のあの筆跡だ。第三皇子の筆跡だ。
あの、もう三ヶ月前に死んだはずの男が、私に紙切れを残して、蛇は雄黄を嫌うと教え、厨房の棚の上に解毒剤があると教えてくれた。
「直接、生きてるって言ってくれないの?」
虚空に向かって言った。
誰も答えない。
三秒待つ、五秒、十秒。
それから足音が聞こえた、ごくかすかな足音が、屋根の上から。
そして一つの黒い影が軒先から逆さまにぶら下がり、窓の外に現れた。
月明かりが若い顔を照らしている。
二十歳そこそこ。
黒装束、引き締まった体つき。顔は冷酷で、目は死水のように平静だ。
彼はただ逆さまにぶら下がり、私と見つめ合った。
そして——
「王妃様」
「あなたは……?」
「拙者は主君の暗衛でござる」彼は身をひるがえし、窓の外に立った。うつむいている。「主君が臨終の際に仰せられまし、もし王妃様がお困りの際は、拙者を現せと」
「臨終の際?」
「はい」
「彼は……本当に死んだの?」
「はい」
彼をじっと見て、その表情から嘘を見破ろうとした、でもその顔には何もない。仮面をかぶっているみたいだ。
「名前は?」
「拙者には名前はございません。あってはなりませぬ」
「この紙切れはどういうこと?」
「主君が生前に書かれたもの、主君は百通以上の手紙を書かれ、拙者にお預けになり、状況に応じてお渡しするよう命じられ。あの方が仰るには、もし誰かが主君の遺志を継ぐ者が現れたなら、その者にこの手紙を渡せと」
「百通以上?全部で、何通?」
「百三十七通でござる」
「こいつ、まさか余生の言葉を全部書き尽くしたってわけ?」
暗衛が顔を上げて、私を一目見た。
たった一目だけど、その目の奥にある感情が見えた、とても複雑なもの。悲しみのようで、誇りのようでもある。
「主君は仰いまし、『私はもともと口数が少ない。死んだ後、妻と話す者がいなくなると可哀そうだから』と」
この言葉が、小さな針のように、そっと心臓に刺さった。痛くはない。
でも詰まる感じだ。
蕭景瀾め
この一度も会ったことのない、冥婚で嫁がされた男。
三ヶ月前に死んで、百三十七通もの手紙を前もって書いていた。
ただ、ただ死んだ後、私と話す者がいないのを可哀そうに思って?
——ツッコミどころ多すぎるでしょ!?
「あなたの主君って……本当にバカね」
暗衛はうつむいたまま、何も言わない。
しばらくして、私は深く息を吸い込み、尋ねた。
「あの手紙はどこに?」
「拙者が保管しております。時期が来たり、王妃様が特定の状況に遭遇されたりするたびに、拙者が一通ずつお渡しするようにしております」
「次の一通はいつ?」
「多分……明日の朝かと」
「明日の朝?」
「主君が仰いました。明日、王妃様をお訪ねする者が現れると。とても重要な方だと」
「誰?」
暗衛は答えない。ただ礼をして言った。
「王妃様、お早くお休みくださいませ。外の死体と蛇は、拙者が片付けます」
「あの……」
「ご命令を!」
「蛇、大切にしてください!」
「ご安心を!」
そして彼は身を躍らせ、闇の中に消えた。




