入浴
「王妃様、お湯のご用意ができました」
話しかけてきたのは十五、六歳の小さな侍女。
なかなか可愛い、ハムスターみたい。
彼女の名前は青児。執事が私に付けてくれたお側付きの侍女で、
太后の方から遣わされたのだそうだ。
太后は私に監視役を寄こしたのか、それとも萌えペットを寄こしたのか?
東の離れの浴室は湯気で熱気むんむん。
大きな木の桶にいっぱいの湯が張られ、湯の表面には花びらが浮かんでいる。
青児が私の衣を脱がせてくれた。
「王妃様、こんなにたくさんお傷が……」
私は下を向いて見た。
左肩に一つ傷跡がある。
前世で事務所の女の子を守るため、万策尽きてヤクザの構成員と命がけでやり合った時の傷だ。
右脇腹には引っかき傷の跡がある。
男団のあの七人のクズに毒を盛られた後、胃痙攣を起こした時に自分で掻きむしった跡だ。
背中にもいくつか古い傷がある、
元の身体が残したものだ。
庶子が狭間で育つんだ、傷がないわけがない。
青児の目が赤くなった。
「泣かないで。みんな職業病。慣れてるから」
「王妃様は以前……鍛冶屋を?」
PR業界は、鍛冶屋よりずっとキツい。
鍛冶屋なら少なくとも、人精たちと頭脳戦を繰り広げたり、
毎日文春週刊誌の記者を相手にしたり、
自分で育て上げたタレントに毒を盛られたりはしない。
でもこれは言えない。
「まあね。前は人と渡り合う仕事をしてたの」
青児はぱちぱちと瞬きし、意味がわからなかったみたいだけど、
それでも空気を読んで、もう何も聞かなかった。
湯船に浸かった、気持ちよすぎて叫びそうになる。
棺桶から這い出てから今まで、
これが初めてのリラックスだ。
お湯が体を包み込み、あの傷の痛みも少し和らいだ気がする。
青児がそばで世話をしながら、時々お湯を足してくれる。
彼女は口数が少ないけど、動作はとても軽くて柔らかい。
訓練されているのがわかる。
目を閉じて、頭の中で情報の整理を続けた。
屋敷には四十三人。少なくとも三つの勢力がある。
太后側の人は、執事?周嬷嬷?呉嬷嬷?青児?入り口のあの二人の侍女?
淑妃側の人、あの渡り廊下で私をこっそり見ていた人?西の離れの半開きの扉?東の離れの開いた窓?
不明の第三者、あの掃除の老人?彼はいったい誰の人だ?
それにあの蘭の鉢。誰が動かした?なぜ動かした?
そんなことを考えていると、青児が突然「あっ」と声をあげた。
「どうしたの?」
青児が窓の方を指さし。
「さっき、人影が……あったような」
東の離れの窓。
さっき入ってきた時は閉まっていたのに、今は少し開いている。
面白い。これは下見に来たのか?
それとも私が死んだかどうか確認しに来たのか?
私はわざと外に聞こえるように。
「大丈夫、風かもしれないわ。
あなたは出てて、一人でしばらく浸かるから」
扉が閉まった瞬間、私は湯船から立ち上がり、
素早く体を拭いて下着一枚を羽織り、窓辺に歩いていった。
あの隙間から、渡り廊下の曲がり角で人影が足早に去っていくのが見えた。
男だ。灰色の作業着を着ていて、体格は小柄で、動作が素早い。
私は彼の背中を目に焼き付けた。




