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冥婚から始まる皇妃戦略 - 棺桶で叩き起こされた最強の妻  作者: 白狼九音
第一卷 冥婚から始まる鎮魂歌
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神級PRの終わり

鈴木彩夏。二十八歳。あだ名「芸能界最後の神様」。


最後ってのは、もうすぐ死ぬからじゃない。


たとえ今、パトカーの後部座席で手首に手錠をはめられていても。胃の中で一万匹の蟻が暴れていてもな。


――が、それはもうどうでもいい。


入行八年。手掛けたタレントは百三人。


沈静化した炎上案件は九十七件。成功率は——


計算するまでもない。100%だ。


不倫する男を、理想の夫に。刃物で顔を整えた女を、生まれつきの美人。酒に溺れる子を、素直で可愛い子に。




先月、とあるトップ俳優がウチのグループを潰そうと週刊誌にネタを流した。


三十秒で掘り返したぞ、五年前の配信。「あの場所、C国っぽいよね」発言。


あいつ、今ごろ田舎で芋でも作ってるだろう。




先週、二十年キャリアの大物監督がウチの新人を干そうとした。


東京地検とテレビ局にUSBを二本送ってやった。


中身は十年前の飲み會、酔った監督の一言録音――


「女優ってさ、ヤらなきゃ売れないよね」。




昨日、とある芸能雑誌がウチのメンバーの彼女とのデート寫真を撮った。


編集長に直電。三分後、その寫真は「生き別れの妹と感動の再會」になってた。




「このご時世」新人にはいつもこう言ってる。


「誰でも社會的に抹殺できるんだよ」


この言葉、私は絶対に笑わない。本当だから。




今日は、天枢七曜のデビュー三周年記念ライブの日。


「乾杯!」


楽屋で、七人が私を囲んで、グラスをぶつけ合ってた。


天枢七曜。私のキャリアの最高傑作。


七人、七つのテイスト。


少女漫画から飛び出してきたみたいな完璧なイケメンたち。


三年かけて、何もできなかった練習生を、


アジアのトップアイドルグループに育て上げた。


向かいに座る北辰が、あの「国民彼氏」スマイルで私を見る。


左隣の離火が、無邪気な「小さな太陽」、私の肩を叩く。


右隣の修竹は、相変わらずの「神兄」顏で、口元だけで笑う。


星野、銀河、辰星、洛辰――


七人全員、私がゼロから作った作品だ。


私の、寶物


——だった。




北辰が私の手を握った。目が赤い。


「彩夏姉......」


潤んでる。震えてる。完璧な演技だ。


「ありがとうございました。この三年間、お疲れさまでした」


笑っちゃうよ。


この子、役者になりすぎじゃない?


あんたの本性、知ってるんだから。


「もういいって」私は手を引き抜いた。「ライブ終わったらご飯おごってよ。あのミシュランのお店」


離火が近づいてきた。


あの少年感あふれる顔が、完全に崇拝の表情。


「姉さん、今日終わったら、


僕たち七人でサプライズ用意してるんです!」


「まさかプロポーズ?七人同時ならお断りだよ」


「姉さん、図々しい!」修竹が白い目を向けた。あのクールで禁欲的な顔に、珍しく笑みが浮かぶ。「僕たち七人でお金出して、姉さんにプレゼント買ったんです」


心がちょっと温かくなった。


このバカども、


やっと少しは恩を覚えたか。


でもその瞬間


——見た。


北辰の手が私のバッグに滑り込み、


白い袋を押し込む。動作は軽い。自然だ。


ハンカチでも押し込むみたいに、


自然だった。


……わかる。


あれが何か。


覚醒劑。


五十グラム。


私を、三回は殺せる量。




私は動かなかった。


彼の手がバッグから離れるのを見て、彼が私に向かって笑うのを見た。


あんなに優しく、完璧に、


そして、偽物の笑顔を。


離火がまだ横で言ってた。


「姉さん、ライブ始まるので、行ってきます!」


七人が順番に出ていった。


出口で、修竹が一度振り返って私を見た。


その目。わかった。


憐れみだった。




楽屋のドアが閉まった。


私はそこに座ったまま、動かなかった。


三秒後、ドアが開いた。


入ってきたのは警察官。


「鈴木彩夏!麻薬所持の通報がありまして、ご同行願います」


私は抵抗しなかった。


手を差し出した。


若い警官は一瞬戸惑った。


こんなにおとなしい被疑者を初めて見たらしい。


彼は知らない。


私の頭の中には今、


この状況を簡単に解決する方法が最低十個は浮かんでるってことを。


私は彼に笑いかけた。


「緊張しなくていいよ。


麻薬取締り、初めて?」




パトカーに押し込まれる直前、私は振り返った。


七人が楽屋の前に立ってた。それぞれ違うポーズで。


北辰は両手をポケットに入れて、優しく微笑んでた。


離火はうつむいて、肩が小さく震えてた。


修竹は無表情で、彫刻みたいだった。


星野は電話してた。弁護士に連絡してるんだろうな。


銀河はスマホを見てた。世論の動向をチェックしてる。


辰星は洛辰を慰めてた。


洛辰がようやく顔を上げて、私を見た。


その目には、罪悪感と、葛藤と、苦しみがあった。


でも最後まで、彼は何も言わなかった。




私が車に乗ったとき、


向かいのビルの巨大スクリーンにライブのオープニングが映し出された。


七人がせり上がり台に立って、光を浴びて、


七体の神像みたいだった。


北辰がカメラに向かって手を振り、優しく微笑む。


「七年間の応援、ありがとうございます!


この曲は、私たちの大好きな彩夏姉さんに捧げます!」


会場中が叫んだ。


あの男、ライブで流す汗さえ、


ファンが試験管に入れてアマゾンでオークションにかけるんだよな、


これも全部、私のプロデュースだけど。




パトカーが走り出してしばらくして、スマホが震えた。


メッセージだ。


あの若い警官、ボディチェックすら忘れてる。


やっぱり新人だな。


一通じゃない。七通だ。


北辰「姉さん、ごめん。でも、あなたが邪魔だったんだ。」


たった一言。その後に、能天気なパンダのスタンプが一つ。


離火「姉さん、あなたが教えたんでしょ、「人は自分のためじゃなきゃ滅びる」って。


修竹「姉さん、AI顔交換の動画、もうトレンド入りしてるよ。恨まないでね。」


星野「姉さん、あなたが握ってたネタは、もう処理済みだよ。安心して行ってね。」


銀河「この三年間ありがとう。でも人は前に進まなきゃね。」


辰星「姉さん、Goodbye。」


一番下、洛辰から。


既読はついていない。


メッセージは、下書きのまま送信されていなかった。


洛辰「姉さん。僕、やっぱりできません。ごめんなさい。」




このメッセージを見た瞬間、胃が痛み始めた。


すごく痛い。


内側からえぐられるような痛み。


あのジュース、やっぱりヤバかったんだ。


私はシートにもたれて、


窓の外を過ぎ去るネオンを見ながら、急に笑いたくなった。


三年。


私は三年かけて、何の取り柄もなかった七人の素人を、


アジアのトップグループに育て上げた。


北辰のマカオでの借金三千万を揉み消した。


離火の未成年飲酒運転の事故を隠蔽した。


修竹の財閥令嬢との恋愛を隠してやった。


洛辰が小さい頃に誘拐された実の両親を見つけてやった。


彼らのスキャンダルは全部、私がファイルに保存してた。


脅すためじゃない。


いつか誰かに掘り返されたとき、すぐに対応できるように。


まさか、そのスキャンダルが、


彼ら自身に使われるなんて思わなかった。


途中の街頭スクリーンに、私が逮捕されたニュースが流れてるのが見えた。


トレンド一位:#鈴木彩夏麻薬所持逮捕


トレンド二位:#天枢七曜マネージャー


トレンド三位:#芸能界最大の不祥事


動きが早い。




私はスマホを取り出して、


あのプライベート配信ルームを開いた。


このルームは私が作ったもので、知ってるのは私たち八人だけ。


毎回ライブが終わると、ここで反省会をしてた。


外には言えない話をするために。


七人はやっぱり全員オンラインだった。


祝賀会の真っ最中。


「おい!」若い警官がようやく気づいた。「なんでスマホ持ってるんだ!」


私は彼にウインクした。


「電話はしない。三分だけ。一緒に聞かない?


通報してきた連中が今どんな話してるか。気にならない?」


私は続ける。


「三分後、ちゃんと前の座席にスマホ投げるから。OK?」


彼はゴクリと唾を飲み込んだ。何も言わなかった。


でも奪おうともしなかった。


配信ルームの音声をオンにした。


中は歓声の嵐。


「やったやった!ついにあのオバサンから解放された!」


「北辰兄、すげえ!あの罠は完璧だった!」


「修竹兄さんが警察に送ったAI顔交換もヤバかった。マジで本物みたい!」


「離火、お前の実名通報もえげつないな!」


離火の声が少し震えてた。「僕……僕だって仕方なかったんだ。彼女に握られてた弱みがあったし……」


「怖がるな」北辰の声は優しくて残酷だった。「あの女が入ったら二度と出てこれない。私たちにはまだ別のネタもあるし、一生刑務所の中で過ごさせる」


画面を見て——


笑いが、こみ上げた。


涙が出るほど、じゃない。


涙ごと、笑っていた。




配信ルームで、口を開く。


「こんばんは〜私の、七人のちびっ子ファンたち」


配信ルームが一瞬で静まり返った。


七人の顔が同時に青ざめた。


私は微笑んで、ビデオ機能をオンにした。


「ハーイ、みんな」


北辰のアイコンが震えた。「姉さん?」


「『姉さん』って呼ふな。キモいから」シートにもたれて、


胃の痛みで冷や汗が出始めてた。


「お前らみたいなクズを片付けるのに、一分もあれば十分だよ——」


「第一条、」


「北辰、お前は変装してマカオのカジノで三千万の借金を作った。


カジノのオーナーは山口組だ。世界中でお前を探してる。


ついでに言うと、二分後にお前の全情報、住所、スケジュール、家族の連絡先、全部あの男のスマホに送信される。姉さんはがっかりさせないからね」


北辰の顔が一瞬で真っ白になった。




「第二条、」


「離火、お前が十六のときに飲酒運転で人身事故起こした件、


お前の親父が身代わりになって一年刑務所に入った。


あの被害者の妻、


実は私がずっとアシスタントとして匿ってたんだ。


知らなかっただろ?


彼女は明日、裁判所に再審請求する。


ついでに言うと、ドライブレコーダーの原盤も持ってる」


離火はその場に座り込んだ。




「第三条、」


「修竹、お前とA財閥令嬢の恋愛契約書、


次期のドッキリ番組で公開されるから。


二人の每条のラブラブ投稿の値段もちゃんと書いてある。


テレビ局からすぐに電話来るよ——番組出演依頼が」


修竹のスマホが鳴った。


彼が画面を見ると、顔面は蒼白。




「第四条、」


「星野、お前の脱税の証拠、国税局に送ったよ。


どういたしまして。みんな納税者だしね」


「第五条、」


「銀河、お前が同期の練習生を蹴落として這い上がった動画の原盤、


私が持ってるよ。今すぐ送ろうか?」


「第六条、」


「辰星、お前の『未成年』の彼女、実は二十五歳だ。


年齢詐称させたのはお前だろ。


明日、彼女の両親に連絡行くから。


告訴してもらうように頼んでおく」


辰星の顔は完全に青ざめた。




「最後に、」


隅で震えてる洛辰を見て、一秒だけ黙った。


「洛辰、お前が十三のときに人身売買業者に売られかけそうになったのを助けたのは私だ。


このこと——


他のやつらには一度も言ったことない」


洛辰がはっと顔を上げた。


「これはお前の意志じゃないってわかってる」私は静かに言った。「責めないよ」


彼の涙が流れ落ちた。


「姉さん……」


「ただ言いたいだけ」私は遮った。


「お前が私に借りがあるってことは、


一生で返しきれないってことだよ」




それから私は画面の中の七人の顔を見て、笑った。


「最後に、」


「洛辰以外はね。ジュースに毒を入れたのが誰かなんて、追究しないよ。


お前たち六人、忘れてない?


私の事務所に入る前に、


詐欺で契約させられた裸の借金契約書のこと。


私が一年前に買い取っといたんだ。


まあ、必要ないと思ってたけど、今は状況が違う」


私は息を継いだ。胃の痛みで画面がもうほとんど見えなくなってた。


「私が死んだ後、あの契約書は全部の動画配信サイトとテレビ局に自動アップロードされる仕組みになってる。私が設定したから。誰も止められない」


配信ルームには、私だけが残った。


北辰が何か叫んでるけど、もう聞こえない。


離火が泣いてる。修竹が電話してる。星野が何かを壊してる。


私は画面を見て、ビデオをオフにした。


それからあのカジノのオーナーにメッセージを送った。


「北辰の資料、二分後に届く。ちゃんと受け取ってね」




恥ずかしいですね……


もう痛くて携帯を前座に落とす気力がない……


耳元でパトカーのサイレンが鳴ってる。


あの若い警官が何か叫んでる。もう聞こえない。


うるさいな。


叫びたかったけど、声が出なかった。


胃が、誰かの手に掴まれて、ギュウギュウ絞られてる。


視界の端で、ネオンが滲む。赤、緑、青、全部が混ざり合って、


ぐちゃぐちゃの光の帯になっていた。


巨大スクリーンでは、まだ天枢七曜が歌ってる。


七人が、ライトを浴びて、輝いてる。


私の最後の考えは、


来世があるなら、どんな世界でも、


一分で誰でも社会的に抹殺できる。


トップアイドルでも皇子でも、大統領でも神様でも。


例外なく。


私、鈴木彩夏は、絶対に負けない。


そして、


真っ暗になった。

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