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冬凪

作者: 職員M
掲載日:2025/12/30

 寒い、寒い冬の日だった。

 こんな日には家族が亡くなったあの日を思い出す。


 "しろこ"と名付けた真っ白なジャンガリアンハムスター。薄いグレーが背中に入っていたけど、冬の間は雪の様に真っ白に変えるのだ。

 彼女を初めてちゃんと抱いた時のことは忘れられない。ケージのお掃除をしないといけないから、しろこにとっては嫌かもしれないな、と思った。

 だってペットショップの店員さんさえ、まるで卵を扱うかのように木くずのフワフワと一緒にハムスターを持ち上げていたのだ。


 手のひらを差し出しながら不安になる。もしかしたら、私に飼われるのは嫌かもしれないと。

 しかし予想に反して、しろこはよちよちと、覚束ない足取りで私の手に上ってきた。

 自分が認められたような気がして、とても嬉しかったのだ。


 可愛い、この子はとにかく可愛い。

 春に日光浴を楽しむ私の、頭上に乗ってくる。落っことさないか不安に駆られてずっと頭と手を動かしていた。

 夏には一緒に浜辺で戯れる。私が砂浜で作ったトンネルに、必ず頭を出してくれる。白い身体が分かりやすくて、私はしろこの名を呼んで手元に寄せる。

 秋はしろこを踏まないように気を付けながら、落ち葉を踏んだことを思い出す。動きを止めても、その場で寝ているのが分かる落ち葉の上下に嬉しくなった。

 冬は、特別な日になった。


 それは初めてヒーターを入れた日だった。しろこはずっとそこに居るだろうと思っていたのだが、玄関先でばいばいと言った私を送ってくれるようにして、ケージの中から私の方を、じっと向いていた。


 珈琲を飲んでいる時や、昼食の途中でもしろこのことが気になる。彼女はヒーターの上で大人しくしているだろうか。


「ただいま!」

 部屋の中では、しろこが回す滑車の音がガラガラと響いていた。それだけで生きていたと実感できる。

 自分の仕事ぶりを思い起こしながら、いつものようにしろこに愚痴をこぼした。


「今日もしんどかったよー! しろこは大丈夫だった?」

 いつもの表情を浮かべるだけのしろこに、私は安心する。きっと人間の数十倍速い生涯を送るはずだ。

 私は他の雄を飼ってはいないし、ここに住まわせるつもりもないけども、しろこにだってきっと生活があり、ストレスがあるに違いない。

 何なら毎週やっているケージの掃除すら、嫌なのかもしれなかった。


「ピュウ、ピュウ」

 私はしろこがたまに鳴く音に反応するほかない。


「大好きだよ、しろこ」


 私はしろこを腕に上らせる。ふと頬の近くにまで来て、ちょっとした獣臭さとか、齧歯類独特の臭いが鼻を突くが、それすら愛おしいと思えた。餌や木くずの匂いすら香ってくる。

 私も思う存分、しろこを愛する。

 こんな日々は、ふとして終わった。


 あれは寒い日のことである。


 いつものように仕事を終えて家に帰ってくると、嬉しそうに迎えるでもなく、可愛い布団にしろこは包まっていた。恐る恐る布団を避けると、身体のあちこちから出血しており、毛もかなり抜けていた。

 私はすぐに動物病院に駆け込み、最近の餌事情や様子などを事細かく医者に伝える。

 駄目だった。


 私の手の上で、しろこは天国へ旅立つ。

 その数舜手前で、しろこは私に向かってすくっと立った。


 私はそれが忘れられない。それからくたっとなり、そのまま彼女は子孫も残さないまま虹の橋を渡った。

 私は、誰にも悟られることのないように、静かに泣いた。

 別に大声を出したっていいのに。しかし抑え込むように、ただ今を生きるように。

 嫌だ。行かないでよ。



 私はしろこのお墓を作る。土葬で良いかなぁと悩んだが、ほったらかしにしていてもいけないので、

瞳を閉ざして土に埋めた。

「ありがとう……」


 私は翌日、しろこのケージを残したまま職場へと出ていったのだった。

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