第8話 ガフ
トカゲの顔をした男は、差し出された銅貨をチラと一瞥すると、さも怪訝そうに首を傾げた。分かり易くも、わざとらしい表情だった。
「何だよ、これは」
「情報提供のお礼さ。つまりは、ここに魔法の使えない二人組がいなかったかという」
「……まだ教えるなんて、一言も言ってないぜ」
「俺も聞いてない」
対してコイン持った方はそんな態度まるで意に介さず、それを引っこめようとすらしない。むしろその面はありありと余裕感に満ち、すなわち相手が必ずこれを受け取るだろうと堅く確信しているようだったのだ。
「これでいい飯でも食えよ」
そうして、いかにも馴れ馴れしい目線で語り掛けつつ。
……そこは『虚無の丘』頂上近く、墓石の間に建てられた粗末な小屋の中。床は地面踏み固めただけの土間。壁を形作るのはいかにも安物感ある荒壁土。屋根も風が吹けば飛んで行きそうな簡単極まる藁葺きという。
そして小屋に住む住人の名はガフといい、ロディいわく、この丘状墓地の実質上最高責任者、つまりは墓守に当たる存在らしかった。
要は彼なら、この場所を訪れた者のことに関して大抵は知っていると当たりをつけたのだろう、はたして決して逃しはしないと、ロディはにこやかながら確実に相手へ鋭く迫っていったのである。
「どうだ、教えてくれるか?」
「……まあ、確かにいたことはいたが」
「!」
そうして結局、リサードマンにしかと銅貨、握らせて。
「ただし三日前までのことだがな」
かくて墓守がようやく喋り出すと、途端ロディは声を大きくさせた。
「三日前? くそ、惜しいな」
「二週間くらい前にここへ来たんだが、しかしこつ然と姿を消しちまったんだ、あの四人は。だから、もうどこにいるかなんて見当もつかないよ」
「四人? 魔法の使えない者が」
するとふいにユリシルトが驚きこめて尋ねる。よほどその言葉が意外だったようだ。
「でも、それだとちょっと……」
だが、対してガフが慌てて否定の素振り見せた。
「おいおい、早とちりするなって。別に全員非魔道士だなんて言っていないだろう。つまり二人がお宅らの言う魔法の使えない奴で、残りは明らかに魔道士だったんだから」
「! 魔道士が、二人も……」
「……ガフには相手の魔力を視る力があるからな。彼が言うなら、まず間違いないだろう。つまりは」
そこで口を挟んだのはロディ。いかにも考え深げな光、その黒い瞳に浮かばせて。
「件の女魔道士と、もう一人、てわけか」
「女……確かにそうだ、一人は若い娘だったな。そしてもう一方が、嫌に身長の高い男。結構威圧感あったぜ、あいつ」
「なるほど。では、魔道士じゃない方の様子は? 容姿とか」
「? うーん」
そうして次には見慣れぬ若い娘が勢いよく問うてきたのでガフは知らず驚き見せたが、しかしすぐさま落ち着き取り戻し答えている。まさにそれなりに昔から積み上げた経験値、というやつがあるのかもしれぬ反応だった。
「いや、それに関しちゃ何とも言えないな。何せ、二人とも分厚いローブ纏い、フードも目深に被っていたんだ。正直、男なのか女なのかも分からない」
「そう、では、どこへ行くのか、何か言っていたかしら?」
「だから何も言わず消えたから、俺にゃ分かりっこないよ。名前も知らないし。……ていうかあんた、何でそんな魔法使えないような連中えらく必死に探してんだ?」
と、だがそこでふいに黄色い瞳の輝き強くさせたトカゲ男。間違いなく、やたら口出す目の前の娘へ今になって不審な感覚えたようだ。革鎧に包んだ身体も、気持ちぐっと前へ突き出させたのだから。
「そもそも、余り見たことのない人だし」
「え? ……いや、それは」
当然一方の女騎士は逆に分かり易く身を後ろへ引き――。
「緑の魔道士ってことは、ロディの同僚。でもあんたみたいな――」
「おっと、そんなことより」
かくして墓場の中厳しい追及が俄然始まりそうになったものの、しかしその時ロディが横から口を挟んできた。こちらはほとんど慌てたところのない様子であった。
「ちゃんと銅貨に見合った仕事、してくれよ。何か他にいい情報はないのか?」
「――他の情報? うーむ」
そう言われると、ガフはしばし考えこむ。あるいは、記憶の中で何か引っかかるものはあったのだろう。その爬虫類独特の大きくぎょろりとした眼が刹那考え深げに瞬かられた。
「そういや、その娘が、シド爺さんに変なこと聞いていたらしいな」
「シド爺さん?」
「俺よりずっと長くここにいる、墓場の主みたいな人さ。当然色々なことを知っている。その爺さんが、こんなこと訊ねられたと俺へ注進してきたんだ」
そしてトカゲ男の眼がロディの面を正面からしかと捉えた時、ロディははっきりと大きな情報、得ていたのである。
「そうだ、確か、ミラルカって男が今どこにいるのか、質問してきたらしく」




