第77話 エピローグ③ 女魔道士と食屍鬼
風吹き渡る、どこまでも広々した草原の中――。
そんな晴れやかさと寂しさのない交ぜとなった場所に、黙々と歩みを進める二つの人影があった。一つは小さく、もう一つはやたらと大きく。だがその息はピッタリということか、足並みは完全なまでに揃っている。そうして一体どこを目指しているのやら、人影たちはひたすら魔道の街クラウゼンブルクを離れ、西へ、西へと向かっていたのだ。
そう、まるで魔法の束縛からできるだけ早く逃れるように。もうあんな悲惨な目にあうのは、絶対に御免蒙ると。
「次の街までは、二日ってところか」
はたして辺りの光景はどこまでも辺鄙ながら、そんな彼女たちの進み具合に迷いなど一切あるはずもなく。そもそもが大分長旅に慣れているのだろう、軽快と言ってもいい、それは軽やかな道行きですらあった。それもどことなく力強く、戦意に満ちたような。
すなわちその大小の人影、他でもないマリー・メイとモハードのコンビはいまだよろず屋ロディに対し、捲土重来の気持ち強く持っていたのであり――。
「それにしてもあのよろず屋、強かったわね」
知らずマリーの呟きも、はやあの青年のことに集約されている。むろんそれは相棒も完全に同じ気持ちだったのだろう、彼にも同様の応え、すかさず洩らさせて。
「万能の錬金術師、か。油断したわけでもないのだがな」
「向こうはでも完全に余裕の戦いよ。結局あの夜あんたにも私にも、とどめを刺さずに立ち去ったんだから」
「……」
「世界は広いってことかしら? 強い奴はいくらでもいるっていう」
かくてもはや感嘆したような声さえ零す魔道士。実際刃交わし合った緑の魔道士に関しては、今やどこか尊敬の念すら抱いているのかもしれない、それはそんな声音だった。
「――だが、そんなお前もまだ諦めていないんだろう?」
それゆえだろう、特に傍らの食屍鬼の言葉に、敏感に振り返ったのを見れば。
「諦める、私が? ふん、そんなはずないじゃない。これからまた武者修行の旅に出て、絶対にもっと強くなってやる。そして次こそは、あの黒い鎧もろともあいつのこと、ぶちのめしてやるわ」
「……なるほど、実にお前らしい」
「何より私たちに強さがあれば、当然エリックたちだって守れたはず。とにかく、今は力が欲しいの」
当然ながらその返した声音には、眼を引くような力強さもあり。
いまだ太陽東の方にある中、しこうして辺りの気候は次第にその温もり増していきつつ。白や黄色の色とりどりの蝶たちが、無邪気に周囲飛び回り――。
「……そう、あいつとの決着は、まだついていないんだから」
そうしてそんな朗らかな景色の中、遍歴の魔道士マリー・メイは湧き上がる闘志を抑えんと、声を落としつつそんな一言、静かに零していたのだった。




