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第76話 エピローグ② ユリシルトの魔法

 そうして今では平常そのものの態示しているエリック王子ではあるものの、しかしあの夜現実に彼を襲った事態となると、筆舌に尽くせぬ厳しいものだったのは論を待つまでもない。すなわち、ゴブリンの狙撃手ベネディクトの放った凶弾は見事王子の心臓付近を直撃し……。


 (! ユリシルト、どうするつもりなの?)

 (この光なら、王子の傷も治せるはず)

 (あなたが……?)

 

 それゆえ彼はもはや死に至る状況とメルフィにも見られたほどだが、しかしそこで救いの手をさし述べようとしたのがユリシルトだった。つまりは結界をその力で破った彼女はずいとさらに前へ、王子の元へ出ると、躊躇いなく光り輝く両手をその深い傷の方へかざしていたのである。はたしてその姿はまさに奇跡を起こそうとする聖者のごとき真摯さで、そこには迷いというものが微塵もなかった。傍らにいるメルフィですら、状況も忘れて知らず驚愕の眼差し、送らざるを得なかったくらいなのだから。

 かくして場が緊迫の度を増す中、時にして僅か数十秒、騎士はじっとひざまずいた姿勢のまま両手でエリックに自らの光を与え続けて――。


 (え。嘘!)


 そしてまさしく次の瞬間、あろうことかエリックの胸をえぐった銃弾による致命的な傷は見る見るうちに塞がり、王子の顔も安寧の色、やっと速やかと増していったのであった。


                  ◇


 「いや、それにしてもあの時は結構焦ったぜ。何せ塔の一番上まで登ったら、まさか王子が思いきり倒れていたんだからな」


 するとそこで、ロディがふっと話題を変えた。さらにユリシルトからエリックへと眼差しの向きを変えて、うんうん頷きもする。それはまさしく相手の鋭鋒避けるには十二分な、実に自然に見える流れというやつに違いなかった。


 「……確かに、後少しで大変な事態になるところだったわ」


 むろんだが対するユリシルトにとってはそうやって緑の魔道士が策を弄してきたことは余りにも歴然、それゆえまだ色々言いたいことはあったようだが、しかし一方で話の重大さゆえとても聞き逃すわけにはいかず、結局彼女は彼女で渋々応じていたのである。


 「あの光がなかったら、今頃は……」

 「神聖なる光。白魔道の力か」

 「そう、確かにあの場面で、急に私に不思議な力が湧いてきて――」

 「! そうよ、でもなぜ突然、ユリシルトが魔法を使えるようになったの?」


 と、その刹那突然メルフィが声を大きくする。何といっても彼女はその現象を一番間近で見ていたのだから、それも至極当然のことであろう。必然的に、その眼は魔道士ロディの方をまっすぐ向いていた。


 「まあ、それは恐らく、ここクラウゼンブルクのせいだろうな」


 だが、対照的に青年の方はあくまで冷静である。


 「クラウゼンブルクの……?」

 「この街には、いや、正確にはこの街の地下には、巨大な魔力の塊が埋まっていると言われている。いわば魔道士全員の、エネルギー源だ。実物を見た奴はまだ誰もいないが。……いずれにせよ当然ながら、それは上にいる人間に大なり小なり何らかの影響を与えずにはおかない。そう、たとえばある日、誰かの魔法の力が増強されたりして。そしてそれが魔道士でない人間の場合には、突然魔力が備わることも充分考えられる」


 そうして滔々と説明を始めたロディ。もちろんそれはさすがこの街で長年生きて来た者と思われる口ぶりだった。


 「へえ、そんな凄いものがここの地下に……」

 「それで、ユリシルトが一瞬だけ魔道士になったわけね」


 ――むろん、その賢しげな言葉で二人の娘、半ば感心させて。


 「加えて、それならユリシルトが王子の傷を回復させた後、また魔法が使えなくなったのも理解できる。要はまだ君は魔法に慣れておらず、魔力を充分使いこなすには早過ぎたんだろう。エネルギー源、まあこれからは研究者の間で呼ばれている<龍脈>の方で通すが、その源から受けたショックで起きた覚醒も、結局はほんの一瞬だけだったってわけさ」


 しかも彼は相手が驚きと納得半分ずつの反応示すと、にっと悪戯っぽい笑み浮かべ、最後にどこかからかうように一言付け加えてきたのである。


 「とはいえユリシルト、君なら後一年ここに滞在すれば、立派な白魔道士になれると思うぜ?」


 と、相も変わらず、あの飄々とした様子で。

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