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第75話 エピローグ① 七人の宴

 一連の騒動の最後、セラーティの塔で起きた出来事から、一週間後のこと……。


 その日は朝から四月にふさわしい実に爽やかな風が吹いていて、また太陽も眩しく、まこと気を朗らかにさせるには充分な気候というやつであった。もちろん道行く人々の表情もどこか穏やかで、足取りも軽快、げに春らしき光景といえよう。そう、中でも特にクラウゼンブルクの玄関口たる青の街、都市の南東部はいまだ昼前だというのに既にかなり賑わい、どこまでも明るい情景見せている。

 すなわちそれはまるで、何かこの街に訪れた見えざる幸福、皆で寿いでいたかのよう。むろんたとえその活気が、まったき見ず知らずの部外者のものであったとしても、今日だけは特別に。

 はたしてそれくらい、街はどこもかしこも浮かれたような気分に包みこまれていたのだから。きらきらきらきら、春の陽射しに笑みを浮かべつつ。……当然ながらつい先日までそんなクラウゼンブルクを危機に陥れるような大騒動が起きていたことなど、関わった者以外誰一人、微塵も知ることなく。

 ――何より常にある平凡な日常が、今日という日もまたにこやかにやって来た、と。


 そしてもちろんそれは街の城門近く、カルレート広場に面したその酒場『灰色の壁』においても例外ではなく、はたしてまったく同じ様相だったのであり。


 「おい、そんな遠慮するなって、今日はマジで無礼講なんだから!」


 とりわけ店の一番奥にある円卓囲んだ年若い七人の客たちは、朝とは思えぬくらいの陽気さで酒を片手に先ほどから賑々しく、尽きぬ話語り合っていたのだった。


                  ◇


 「あ、エリック様、そんないきなり飲まれては……」

 「そうよ、傷は癒えたとはいえ、あなたはかなりの重傷だったんだから」


 かくて宴もたけなわ、店内で一番の明るさ見せるテーブルの中、茶髪の若者を左右から囲んだ二人の娘たちの声は特にかしましく、また分かり易くも実に心配げだった。それはむろんユリシルトとメルフィのもの、そして対する相手は他でもない、アラミスの王子エリックである。はたしてそのお小言に杯を口へ運ぼうとしていた若き王子は多少迷惑そうな面現わしつつ、しかし持ち前の穏やかさでゆったり答えていたのだった。


 「はは、二人ともそんな心配しなくても。もう身体は完全に良くなったんだから、これくらいの酒……」

 「そんな、駄目です! 大事なお体なんですから」


 だがその返答も大して効果はなく、中でもユリシルトに至ってはかえって目を三角にしそうな勢い。畢竟、彼女はさらに相手へ食って掛かろうと表情厳しくし。


 「それに、これからの旅のことを考えると――」

 「でも、適量の酒は、むしろ薬にもなるって話だぜ」


 それゆえその時対面の席からロディがふいに口を挟んでこなければ、そんな攻勢はずっと終わりなく続いていたのかもしれなかった。事実その声に、女騎士がムッとした顔で魔道士見つめながら、それでもようやく言葉途切れさせたところ見れば。

 ……もっとも、そうして代わりに自分へ攻撃が来た点については、ロディにとってはまこと計算外だったのかもしれないが。


 「もう、何であなたがそんなこと言うのよ!」

 「へ? いや、これはでも、一応世間でよく言われていることで……」

 「それは元気な人だけに当てはまる言葉でしょ? でもエリック様は大変な怪我を負ったのよ! 僅か一週間前にっ」


 はたして始まったのは、名うてのよろず屋を向こうに回してのもの凄い剣幕、というやつ。当然ながら標的となった青年はその勢いに思わず目が点になっている。ゆえに彼がたまらず両サイドの助手たちへ助け求めていたのは、状況鑑みれば決して無理もない選択なのだった。


 「いや、そんなこと言われても、エリックはもう大分治っているわけだし。……なあ、ナッシュ」

 「さあ、医者じゃないから詳しくは分からないけど、そうなのかな?」

 「じゃあファル、お前だって俺と同じ意見のはずだろ?」

 「僕お酒飲まないから分かんないよ」

 「……イーノ、世間に詳しいお前なら」

 「コメントは控えさせてもらう」


 とはいえそこはなかなか機知に富んだ三人、ロディの期待した答えが返ってくることはついぞなかったのだが。


 「ロディ、私はあなたに話しているのよ! ちゃんと答えてよ!」


 おまけに、再度向かいから騎士の迫力ある追及、またも放たれてきて。


 「あ、いや、それに関しては……」

 「何? まだ何か言い足りないの?」

 「言い足りないなんて、まさか――」


 それゆえ途端青年が思わぬ窮地へ追い込まれてしまうや、


 「はは、ユリシルト。これは僕の問題なんだ。だからロディさんをそれ以上いじめるのはやめてくれ」


 そんな彼の声途切れさせ、それまで注意されていたはずのエリックが、なぜか今や魔道士かばうような言葉穏やかに発していたのだった。

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