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第74話 覚醒

 瞬間、白い光がユリシルトの両掌を突然包みこんでいた。それはどこかぼんやりとした、まるで泉が湧くような優しげな輝きだった。


 「え……?」


 だがその余りに不可思議な事態は、騎士をしてしばし場違いにもポカンとさせてしまう。間違いなく自分の内から発されたものなのに、どう考えてもその原因が分からなかったのだ。しかも、そんな光は収まるどころか僅かな時とともにますます勢いを増してきて――。


 (まさか、これって)


 もっとも、ではそれが完全に得体の知れないものかと言うと、実際の所彼女に多少思い当たるふしがあったというのもまた事実ではあろう。すなわち、ユリシルトは間違いなく、かなり最近、これに似た光をしかとその眼で目撃したはずなのだから。しかも相当間近、至近距離といってもいい間合いで。

 そう、それはすなわち……。


 「白の魔道士の、神聖魔法?」


 廃劇場、そしてコロセアムでの戦いで、それぞれの白魔道士が使った、あの光の魔法。敢然と黒の魔道士が召喚した幻獣にその力で立ち向かっていった。何よりどこまでも神聖で、そして強烈な――。


 「でも、何で私が……?」


 とはいえなぜそれがユリシルトに突然発現したかに関しては当然皆目見当もつかず、ただただ惑乱するばかりだったのだが。まるでまやかしにでも遭っているかのように。


 「エリック!」


 ――しかし刹那、再びメルフィの絹を裂くような叫びが耳に入って、彼女は途端現実へ引き戻されていたのだった。それも、先ほどよりさらに哀切な感いや増した風さえある。ユリシルトが知らずそちらへ目を向け、さらに両手を視えざる結界にかけようとしたのは、従って当然のことだったといえよう。事実、またもや騎士は触れた感覚によって、そこに明らかに固い障壁が存在するのを感じ取り……。


 「え?」


 だが、そうして再度壁に行く手を阻まれた、まさにその時だった。


 「嘘……」


 ふいに掌から発する光が強さと輝度、さらに増したように思われ、

 それは僅か数秒も経たない内のことだったろうか。

 いずれにせよたちまち壁の方も反応するかのように、一瞬眩い輝き放つや、


 「そんな」


 ……次なる瞬間、あろうことか目の前に立ちはだかる結界が音もなく一息に消滅したのを、ユリシルトは確かにその全身で悟っていたのである。


                  ◇


 「え、何で……?」


 メルフィはふいに背後から何かの気配を感じ振り向いた時、そこ、自分のすぐ傍にユリシルトが立っていたことに思わず驚愕隠せなかった。そう、彼女と自分の間には、常識的方法では決して破られない魔法の結界が厳然と張られていたはずなのだ。それもあのマリー・メイが事前に施しておいた。だが、それなのにアラミスの騎士は静かに、かつ気遣わしげにこちらの方を見つめている。表情に何やら呆然とした色も現わしつつ。何より、その両手が奇妙なことになぜか眩しく白い輝き発していて――。


 「ユリシルト、どうやって?」


 それゆえ知らずメルフィが戸惑いの声上げていたのも、さも当然のことなのだった。


 「どうやって、と言われても、私にも分からないんですが……」

 「え?」

 「でも、何だか今は、自分の中に不思議な力が感じられるんです」


 もちろんそう問われたところでユリシルトの方がそれに対して正解を持っているはずもなかったのだが、しかし代わりに彼女は正直かつ正確に、今自分が置かれた状態を告げている。そう、本人でもまるで理解できないながら、しかしそれが明らかに魔法の力以外のなにものでもなかった以上。

 すなわち、このどこからか溢れ出てくる力があれば、ひょっとして……。


 「――そう、なぜか自分が突然魔道士になったような気もして」


 しかし、その突拍子もない言にメルフィは必然的に目を丸くせざるを得なかった。


 「あなたが、魔道士……? でも、まさかそんなはずは」

 「はい、もちろんそれはまずありえないことです。私はただの騎士なのですから。……ただ、それにも関わらず、間違いなくこれは魔法の感覚そのもので。そう、私もこの都市で幾つか目にしてきたのと同じ。しかもやけに暖かい――」

 「魔法……」


 むろん、だがそれと同時に実際相手が結界を完全に破っている以上、彼女としても結局は信じざるを得なかったのだが。

 そうして、薄明りの下しばし見つめ合う二人。片方は驚愕、片方は戸惑いの眼差しで。一体今何が起きているのか、当然双方ともにまるで分かっていない霧の中。

 それでも、ただ時間だけがいたずらに過ぎてゆき――。


 「それゆえに」


 だがその時、メルフィ越しに苦しむ王子見つめながら、ユリシルトはおもむろに一つうなずいたのだった。


 「この力なら」


 そして最後に掌同様、瞳の色刹那眩しくすると、


 「そう、恐らくこの力があれば、エリック王子も」


 ――はたして途端まるで聖なる託宣のように、彼女の声音は室内に小さくも、しかし確かに響いていたのである。

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