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第71話 魔法の壁

 「!」


 ――だが、次なる瞬間。


 「うわあ!」


 突然辺りへ所狭しと響き渡ったのは、なぜかユリシルトの驚愕と痛みに溢れた叫声だった。しかも彼女はエリックたちに迫る寸前、何か見えない壁のようなものにぶち当たり、その身思いきり後方へ跳ね飛ばされている。すなわち、それは間違いなく魔法の関わる何らかの技だったはずで。


 「ぐあ!」


 畢竟吹っ飛んだ距離にして3ユー程、剣手にしたまま背中完全に石床へ打ちつけ、その強烈な衝撃に一瞬息さえできなくなる。必然的に体くの字に曲がって動きも止まり、その場でしばし横たわらざるを得なかったのもしごく当然。何より刹那脳しんとうめいた目眩すら覚えていた以上は。


 「くっ……」


 ――だが、さすがは使命感に溢れる宮廷騎士の一人。それでもまだまだと何とかその場で呼吸整え、できるだけ早く立ち上がろうとする。はたして精神集中し、とにかく落ち着けと自ら強く鼓舞しかけたものの。


 「……すまないな、ユリシルト。君には絶対この結界を破ることはできない」

 「……!」


 ふいにそんな騎士見下ろして、エリックが哀しげに告げたのだった。


 「マリー・メイが施してくれたものだ。そしてそれがまだ充分効果あるとなると、彼女もそれほどダメージが大きいわけではないのだろう。いずれにせよ、魔道士でもない君には、これを破る力はあるまい。そして僕らが悪魔の血を飲むのも――」


 むろんそう言いつつ、王子はさらにグラスを口へ近づけていく。当然のごとく、隣のメルフィにも同じ動作させて。

 かくて床に臥せったままその光景見つめるしかないユリシルトには、それはあまりに決定的過ぎて――。


 「王子、メルフィ様、駄目です……!」


 力の限りそう叫ぶしか、もはや彼女の取り得る選択肢は一つもなかったのである。


 「――君は素晴らしい騎士だ。使命感に満ち、力も充分ある。だからこそ父上の御不興を買わせるのは、あまりに忍びないのだが」


 対してどこまでも真摯な面で続けたエリック王子。その言の通り、自らを連れ戻しに来たユリシルトへは敵意のようなものなど微塵もないようであった。

 彼は、いや彼らにとってははたしてただただ自分たちの願いの成就、それだけが今唯一望むことだったのだから。目の前の騎士の勇気に、大いなる賞賛こそ覚えすれ。


 「だが、今さら国へ戻るわけにはいかないんだ」


 そうしてその思慮深い瞳が女騎士から傍らのメルフィ、次いで再びグラスの方へ向き、もはや障害も躊躇もなく、ついに一息にその中身呷ろうとし……、


 「エ、エリック様、待ってください、実は陛下はお二人のことを許す――」


 そのとうとう訪れた絶望的瞬間に、必然的にユリシルトが最後の絶叫、そう、魂から迸り出た叫び、放った、


 「?!」

 「え?」


 ――しかし、まさにその時。


 パアン!


 まるで無粋な闖入者の如くに、突如としてエリックとメルフィの眼すら見開かせる、空間切り裂く一発の甲高い銃声がどこかから仄暗い室内に轟いていたのだった。

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