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第69話 再会

 ユリシルトは慎重に二、三歩前へ進み出ると、しかと相手へ見えるよう、恭しく敬礼を現した。そう、それは久方ぶりに主君の子息に再会したがゆえの、間違いなく自然と出た動作だった。


 「……君は」


 むろんそんな儀式張った姿にアラミスの王子は一瞬虚を衝かれたものの、しかしすぐにそこへ懐かしさのようなものも確かに感じ取っている。何より、彼女の放つ雰囲気、立ち振舞いにかなり強い見覚えがあったのだ。

 すなわち目の前にいるのは他でもない、今は捨てた故郷たる王国の名誉ある騎士、その一人のはずで……。


 「ユリシルト、なのか」


 だが、いやそれゆえにというべきか、その声音には当惑が甚だしい。もはや会うことなどありえないと思っていた相手を、突然前にしたのだからそれも当然であろう。青天の霹靂、とでも言うべきか。いずれにしても畢竟、この事態にどうしたものかとしばしエリックは呆然としてしまい……。


 「ユリシルト卿……まさかアラミスの騎士の、一人?」


 それゆえそんな恋人を引き継ぐように隣からふとメルフィが言葉を放つまで、彼は驚愕のうちに石化された者めいた静けさ、示していたのだった。


 「はい。エリック王子、それにメルフィ様、実にお久しぶりです」

 「ええ……でも、なぜあなたがこんな所へ?」

 「分かりませんか、私がどうしてクラウゼンブルクまではるばるやって来た理由が?」


 そうしてまず始まったのは、女同士の静かな問答。もちろん最初に問うたメルフィの方も、ユリシルト見た途端その目的に関しては薄々勘付くものがあったのだろう、その声音の中にある警戒した響きはまるで隠し切れていない。

 それゆえ、おのずと二人の会話は緊張をはらんだものとなり……。


 「……さあ、どうかしら?」

 「むろん、それは私個人ではなく、国王陛下直々の思いともなりますが」

 「……」

 「つまりは」


 かくてどこかとぼけた態度取る侍女に対し、ついに言わざるを得ないと真摯に心決めたのは確実、はたして騎士が決定的一言、その瞳見つめながら告げようとした、


 「――待て」


 ――しかし、まさにその時。


 「それ以上君が言う必要はない。目的は、明らかなのだから」


 ふいにげに真剣な面差し現わして、女たちの密やかな話制するがごとく、エリックがゆっくり宣ってきたのである。



 「君は、僕らを王都へ連れ戻しに来たのだろう?」


 そしてエリックは思いつめた面ともなりつつ、そう問いを発する。相手がどう答えるか、もう全て分かっているがごとくに。


 「……はい。それが私に課せられた使命である上は」

 「どうしても、力づくでも、か」

 「その必要があるならば」


 むろんユリシルトとしてももはや言葉を濁している場合などではない。それゆえ彼女の返事には、揺るぎないとしか言いようのない感情が明々とこめられていたのだ。


 「この命に替えてでも」


 さらには、毅然とした素振りで腰の剣の柄へと、その手をやって。


 「君は確か、騎士になってからさほど経ってはいなかったな」

 「……二年ほどです」

 「なるほど、余程信頼されていると見える。歴戦の勇士を押しのけ、遣わされてくるとは」


 するとエリックがどこか他人事のように述べた。眼前の若き騎士のことを興味深げに見ている、そんな言い方でもあった。

 もちろん、それにユリシルトが何とも言えない、といった表情浮かべたのは論を待つまでもない。対してまるで言い訳するような言葉も、次いで出てきたのだから。


 「いえ、もちろん宮廷には私などより遥かに優秀な騎士が数多います。それこそ百戦錬磨、古代の勇士にも比肩すべき。……ですがことは魔法の関わっている事態、すなわちまずはクラウゼンブルクを目指すという。それゆえ、マクセル伯に認められた私が微力ながら今回の仕事を任されたわけです」


 はたしてその言葉は、エリックをして妙に納得した感、露わともさせ。


 「なるほど、マクセル、あの宮廷にいながら魔道研究に生涯捧げた変わり者か……。確かに彼なら、経験等に何ら惑わされず、適切な人材選ぶことも可能だろうな。そして不幸にもそのお眼鏡に適ったのが、君だと」

 「はい。決して私が最高の騎士だから、ということではありません。……とはいえ、殿下たちをエメロットへお連れする、という意志の強さでは誰にも負けませんが」

 「――そしてまさしく、それが父上の望みだということか」


 次には小さく溜息まで、零している。

 すなわち彼には瞬間、相手が纏う意志の強さが余りにも眩しく思え、


 「ならば、もはや説得することは不可能のようだな」


 ……そんな一言、知らず諦念のうちに洩らさざるをも得なかったのである。

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