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第66話 死闘

 突如ロディへと襲いかかってきた、風の刃。それはまさしく真空波、いわゆるかまいたちの類というやつで。


 「ち、あのダガー、空気を自在に操れるのか!」


 魔道士が手にした槍でそれ弾きつつたまらず声にしたように、マリー・メイは深紅のダガー使うことにより、その見えない刃次々と相手へ向かって放っていけるようであった。むろん今のロディならばナイト・ブレイカーで強化された魔法の力によりそれ防ぐことは容易であったが、しかしいかんせんその数がやたらと多い。とにかく打ち払うのに懸命で、なかなか自分の攻撃のターンへ移れないのだ。畢竟、どうしてもマリーの風攻撃にばかり注意払わざるを得ず――。


 「もらった!」


 当然ながら、かくてそのあからさまに空いた隙を狙って容赦なく打ちこまれてくる、モハードの拳による攻勢。それはむしろさっきよりもさらに勢い増した感さえあり、猛烈かつ正確にロディのこと餌食にしようとしてくる。その凄まじさたるや、まさしく嵐の如き迫力といえようか。

 どこまでも暗いフィールドの中、かくして一人対二人の息を飲む激闘は段々と片方へ優勢になってきた風、まこと甚だしい。やはり風と拳、双方の猛攻撃を同時に防ぎきるのはかなり難儀な技と言わざるを得ないようだ。

 ――何より、さすがの万能の錬金術師も激しさ増しゆく抜群の連携攻撃前にして、その息、次第に荒々しさ増してきたのだから。


 「まずいな、向こうの隙が見えない……」


 しかも襲いかかる一撃かわしまくりながら、加えて知らずそんな弱気とも取れる呟き、零れていたのを見れば。

 いまだ突破口がまるで見つからない、と。

 青き月の下で、しこうして悪魔の血を巡る戦いはいよいよその激しさの度合いをいや増していき――。



 「まずいよ、ロディが押されている!」


 そんな光景見やり、知らず不安げな声洩らしたのはファルだった。むろんそこは街路から小広場へ入るとば口辺り、激闘間近にして、その闘気とも呼べるものがひりひりと肌に痛い。特にこのハーフリングは元々戦うこと自体が苦手なのだろう、かえってとりわけその空気に敏感になっている感さえある。すなわちそれゆえ、どことなくその身体も緊張で硬直見せていたりして。


 「……でも、変だな」


 ……一方、そのすぐ傍らにいるダークエルフの方はというと、ファルに比べれば大分冷静な眼差しで戦況じっと見つめていたようだ。何より、確かに眼前の戦いには激しい風あったとはいえ、それでもその中にどこか気になる点、目敏く見つけ出したようなのだから。そう、それはしかし素人目には決して気づけぬ、ほんの小さなことではあったものの。


 「いつものロディより、何だか動きが悪い。まるで怪我でもしたかのように。でも、もしかしたら、あれは――」


 ――かくしてロディの姿追い続けながら、思わずそんな一言、零させていたくらいに。



 その時眼前で相手の体躯が思わず僅かによろけると、マリーは瞳の色、鋭く輝かせていた。

 それはもう何度目かすら分からない、モハードの鉄拳攻撃の直後のこと。ロディがその振るわれた一撃の猛威のあまり、地面に脚を取られてしまったのだ。

 当然ながら瞬間生まれる、まごうかたなき隙。まさしく決定的打撃にこそふさわしい。何より、いくら魔力高まっているとはいえ、何の準備もしていなければ撃ち砕くことげに容易であろう。


 「ハハ、これで決まりだ!」


 必然的に、マリーの顔にいよいよ来たと会心の笑みが早くも浮かび――。


 「『深紅の斬撃』。これでその鎧もろとも切り刻んでやる!」


 その手にしたダガーへ、今こそ渾身の魔力が注がれていき。


 「!」


 はたして瞬間、対する黒鎧の魔道士に自らへ一斉に打ちこまれんとする真空波の群れ、その兜の中の瞳でしかと認めさせていたのである。


 「ん、これは、何だ――?」


 ――加えて刹那、何か異質なものを感じたかモハードが放った訝しげな声、その風の立てる轟音で完全にかき消していきながら。

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