第65話 再起
「あ、ロディ!」
「!」
しこうして魔道士が勢いよく後方へ弾き飛ばされると、途端離れた所から少年たちの声が上がった。むろんそれらはファルたち二人、および銀狼イーノのもの。何よりロディが劣勢に立ったという眼前で起きた予想外の事態に、三人とも分かり易く驚愕隠せずにいる。しかもそんな中ナッシュに至っては今すぐ加勢に行きたいくらいの気持ち、持っていたようで、
「ああもう、言わんこっちゃない! 一人でできるなんて、余裕ぶっているからっ」
すぐさまそう強めの口調で言い放っていたのだった。
「だ、大丈夫かな……」
「まあ、さすがにあの程度でやられる人じゃないけど」
「ガウウ……」
もちろんそうした魔道士を案ずる気持ちは他の二人も全く一緒。それゆえそのそれぞれの表情に俄然不安なものが含まれ出していたのは言うまでもない。それくらい、戦況は急に予想できない展開となってしまったのだから。
まさしく予断を許さぬ、そんな言葉がまことふさわしいような。
「く、でも、助けに行くわけには――」
だがそれでも、助手である彼らにはロディを手助けすること、固く禁じられており、
「頑張ってよ、ロディ。あんたなら、誰が相手でも必ず勝てるはずなんだから」
――ゆえにいつもは勝ち気なナッシュでさえも、現時点ではそう祈るように呟きながら、ただじりじりと目の前の戦い見つめ続けるのがやっとなのであった。
◇
ユリシルトは豪快に吹っ飛ばされたロディの姿に思わず肝を冷やしつつ、だがそれでも戦いの有り様から目を離すことは決してしなかった。
そこは広場の一画、ファルたちよりは戦闘場面に近く、実際それがよく観察できる位置である。さらに言えばその先には件のセラーティの塔が月光背に冷然と聳えており、確かに走ればすぐに辿り着けるはずの距離。はたしていまだ隙を狙ってその塔いざ目指そうとしていた騎士ではあったが、しかし実際には諸々の状況からして、なかなかそれを実行する機会訪れそうもなく――。
そうしてあの怪しげな水の入った壜ぎゅっと握り締めながら、固唾を飲んで戦況見守っていたユリシルトだったのだが。
「ふう、結構効いたぜ、今のは」
と、その時ふいにロディが声を上げ、さらにはおもむろにゆっくり立ち上がってみせると、彼女は勢い前へ身を乗り出すようにして一層熱心にこの戦いの行く末、じっくり見定めようとしていたのである。
◇
「……ふう、結構効いたぜ、今のは」
やがて20秒ほどすると、かなりの衝撃に頭を何度か振りつつ、ロディが大儀そうに立ち上がった。その言葉の通り、今の一撃が相当効果的だったのは一目瞭然だった。そして改めて気合を入れるように、その場で大きく息を一つ吐く。
もちろんすぐ眼前には、相も変わらず魔道士と食屍鬼の二人組。遠距離、近距離どちらにもコンビで洩れなく対応できる高い能力持った。当然、すぐさまロディはそんな相手へ最大限の警戒態勢、再び示し――。
「どう、モハードの力は? いくらあんたが凄腕の魔法使いでも、肉弾戦なら相当分が悪いはずよ」
「そうだな、こりゃ少し甘く見ていた」
「そして私だって、まだ本当の力は見せていないから」
そうしてそれを受けて、いかにも自信漲らせ宣ってくるマリー。同時にその手の中のダガーが、今までにないくらい怪しき赤光放ってもいた。
「――誰にも、エリックたちのことは邪魔させない」
何よりどこまでも力のこもった光、その灰瞳に爛々と宿らせて。
かくていつしか辺りが真の闇に落ち、いよいよ満月も冴え冴えとした輝き一層強く灯してきた中――。
「さあ、ではとどめといこうかしら?」
異邦の魔道士のげに冷酷無情な声音が、冷たさ増してきた風に乗って滔々と流れて行ったのだった。




