第63話 激闘
広場の中央、まず、攻撃を仕掛けてきたのはモハードだった。ローブ姿のまま、その大柄な体躯が一挙にロディの元へと接近してくる。それは正確無比な正拳突き、しかも拳風生むほどの凄まじい勢い持った。当然鎧纏っているとはいえ、ロディとしてもその一撃どうにかかわさざるを得ず――。
「もらった!」
だがそれと時を同じくして響き渡る、マリー・メイの絶叫。むろんそれは相手に生まれた一瞬の隙を狙ったものだった。畢竟、手にした真っ赤なダガーがいよいよその輝きいや増したのだから。
「喰らえ!」
そして次の瞬間、放たれたのは赤い風とでも表現するべき一大衝撃波。周囲の空気を凝集し放出した、何よりまさしく一撃必殺の。その波動はロディには避けようのないくらいの絶妙なタイミングだったと思われ。そう、たちまち間違いなく冷酷無比な、逃れる隙など一厘もない攻撃とすら化し。
「む、来たか!」
もちろんそれに気づいたからといって、刹那過ぎて彼にはもはやどうすることもできない。
必然的に、その身体がまともに強烈な衝撃の餌食となっていく――。
「!」
だが、そうして勝利確信したはずのマリーが驚愕に目を見開いたのは、息つく暇もない、その次の瞬間だった。
「な、何だと?!」
すなわち、そんな渾身の風の塊が相手直撃する寸前、あまりに奇妙な現象が起こったのだ。
「これは、魔法陣?!」
そう、ロディの間近にいるモハードが知らず叫んだように、突如として彼女の瞳が捉えたのは、魔道士の前方に展開された輝ける奇妙な図形。つまりは大きな円の中に、未知の記号や不可思議な図形が幾つも並べられた……。
そうして衝撃波は一瞬ですべてがその魔法陣の中へと吸いこまれ。……かと思うや時を置かずして従前の威力そのままに、マリー狙っていっときに逆放射されてきたのである。
「ちい、小賢しい真似を!」
当然ながらすんでのところでマリーはその反撃かわした。そして次いで洩れたのは、いかにも悔しげな感で満ち溢れた声だった。
「しかし、詠唱時間もなく魔法を……?」
しかもその表情に、思わず畏れのような色も映して。
すなわち、相手が使ったのは確かに反射の魔法だったが、しかしそのかなり高度な技に対し呪文を読む時間も、いやそれどころかその発動示すいかなる素振りもなく駆使してきたのだ。これはまこと信じ難き手管、そうとしか言いようがない。どう考えてもよほどの腕ある魔道士でしか、行うことできないような。
畢竟、そのロディの想像以上の実力は女魔道士に刹那だけとはいえ、動き止めさせたくらいで――。
「では、これならどうだ!」
むろん、だからといって戦闘が休止したわけでは決してない。
件のロディのすぐ傍にいる食屍鬼がすかさず次の攻撃に移ったのは、それゆえ当然のことなのだった。
かくて再びその太い腕は振り上げられ、今度こそは強烈な一撃、相手へ完璧に見舞おうとする。
息つく暇もなく、たちまちにして巌の如き拳がロディ・ランフォードを逃れようのない照準へと収め。
「待って、モハード!」
はたしてその見事な拳撃がまごうかたなく命中するかと思われた、……しかし、その次の瞬間。
「うお?!」
マリーが何かを感じ取り叫ぶと同時に、突如として相手の黒い兜、面頬の中で青い眼光が眩しく輝き出していた。それは何と言うべきか、とにかく余りに剣呑な光としか言いようがなかった。そのあまりの突発的事態はモハードをして、刹那躊躇にも似たものおぼえさせたほど。畢竟彼は繰り出す拳、知らず抑えようとさえしたのであるが。
「な、グアアアア!」
「モハード!」
――瞬間、食屍鬼の身体はなぜか一斉に黒い炎に包まれ、彼の纏っていたローブも激しく、そして狂おしく、急激に燃え始めていたのである。




