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第62話 作戦

 かくしてロディも聞くべきことを聞き、いよいよ両者の激しい戦いが始まるかと思われた、しかしその時。


 「わあ、間に合った、まだ戦う前だ!」

 「ロディめ、本当その状態だと足が早過ぎるんだから……」


 街路の彼方、暗闇の中からそれを鋭く切り裂くようにして、突如として白銀の毛並み持つ狼に跨った二人の少年が姿現したのだった。


 「さすがのイーノでも全然追いつけなかったよ」


 そう、むろんそれは異種族の美少年ナッシュとファル、およびついに狼へと変身果たしたイーノの三人。――よろず屋ご自慢の、それぞれ個性溢れる助手たち。

 その三者が三者とも、まさしく眩いばかりのきらめき、放っているような。


 「でも、今からなら充分加勢できるな」


 そうして彼らはやや離れた所からしばし状況観察し、いまだ開戦前だと悟ると俄然やる気出し始めている。まさに今こそ、自分たちの持てる力発揮する時だと感じたのだろう。すなわち狼状態のイーノでさえ、いつの間にか鼻息荒くしていたほどだったのだから。


 「うん、早くロディを助けよう!」


 それゆえ畢竟、ロディの元には頼りになる戦力一気に増え、状況は彼に相当有利なものとなった、そう思われたのだが……。


 「おい、みんな」


 しかしその時ふいにロディが背後振り返り、そんな彼らへと声を掛けた。至って静かながら、それは紛れもない意志の力こもった声音だった。


 「急いで来てくれたところ悪いが、この二人の相手は俺一人がする」

 「え?」

 「ガウウッ」

 「何言っているの、この非常事態時に!」

 「だから三人は、白黒魔道士が来ないか、そこで見張っていてくれ」


 しかもその内容は助手たちにとって余りに予想外のものでしかない。訳が分からなさ過ぎて、あの弱気なファルでさえ当然の如く抗議の声上げたのだ。さらにそれが気の強いナッシュや獣モードのイーノとなると、もはや尚更のことでしかなく。

 まさしく状況は非難轟々の嵐、そのもの――。


 「ロディは僕たちのこと、戦力として見てないってこと?」


 しこうして三人代表して、特にナッシュが声を大きく迫ろうとしたものの。


 「いや、それは絶対に違う。ただ、今夜だけは俺に任せてくれ。そう、この二人は、それくらい何故か特殊な感じがするんだ」


 しかしそれでも、鎧纏った青年の思いはなぜかどこまでも強く、むろん最高の鋼鉄のごとくそれを曲げることいささかもできず。



 「……ちぇ、分かったよ」

 「すまないな、みんな」


 こうして三人の助手がその意気についには諦め顔となると、心からの謝辞とともに次いでロディは自らの傍ら振り向いた。むろん、そこにいるのはユリシルト以外の何物でもないのだった。


 「え、何?」


 むろん女騎士の方は突然視線向けられて、知らず戸惑いの表情浮かべている。


 「話は聞いていただろ? 俺が魔道士たちを引き受けるって」

 「うん」

 「当然隙はできるはず。君はとにかくそこを狙って、あの塔目指してくれ」


 対して青年はあっさりとそう言い放つや、ついでに手の中の壜――神秘公より貰ったもの――差し出してきたのである。全てを溶かすという、怪しげな液体入った壜を。


 「私が――」


 だが、当然ながらユリシルトはその液体前にしてゴクリと唾を飲む。間違いなく自分の役目の大きさに、思わず気圧されてしまったのだ。

 畢竟壜を取ろうとする手も、なかなか出てこなかったものの……。


 「ユリシルト、君は騎士で、もちろん王子様たちを探しに来たんだろう?」


 ロディは勇気づけるように、どこか穏やかな口ぶりでさらにそう告げたのだった。


 「これが疑いなく、最後の仕事となるはずだ。そして君なら必ずやり遂げられるはず。さあ、今こそ勇気を見せてくれ」

 「……私が」

 「そう、アラミスの騎士、ユリシルト・メナーズが」


 そうして黒い兜の中、魔道士の声がどこまでも真摯な響き帯びると、ついには騎士の瞳にもこれまでにない強い輝きが灯り――、

 それは数秒か、あるいは数十秒か、いずれにせよしばしの時を置いて。


 「分かった。――私に任せて」


 暗闇の中、そんな揺るがぬ決意で染まった声音とともに、やがてその手はしっかりとその壜へ伸ばされていたのであった。


                  ◇


 「何話し合っているのさ。まさか怖気づいたのかい?」


 するとその時、イラついたように声を荒げたマリー。何より、その手にはすでに自慢の深紅のダガーが握られている。その様見るにつけ間違いなく、自身としては完全なる戦闘モード全開、というやつであった。


 「こっちとしては、早く決着をつけたいんだけど」

 「ああ、そりゃこちらもまったくの同意見だ。……いいぜ、始めるとしよう」

 「――ふん、そこのダークエルフといい、本当生意気な奴が多いようだね」


 そうして彼女はようやくロディが自らと正対する構えとなったのを見ると、灰色の瞳これまで以上に妖しく輝かせる。それは疑いなく、もう手加減する必要が一切ない相手と遭遇した、そんな認識示すサインで。


 「でも、その自信、すぐに後悔させてやるよ!」


 ――そう、はたして一瞬後、その細身ながらよく鍛えられた身体は猛然と、しかも傍らの食屍鬼引き連れ黒鎧目掛け一気に疾走していたのである。

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