第58話 ナイト・ブレイカー
「よいな、お前との契約、確かに結んだぞ」
かくして神秘公コルネリウス・アグリッパはロディとの会談後、自らを取り囲んでいた三人の仮面魔道士――公の側近にして、あらゆる魔法使う万色の魔道士たち――促し、やがてその場からすっと姿を消した。それはほんの一瞬のことで、まさしく今までの事象が全て夢幻だったのかと思わせたほど、げに鮮やかで速やかな消滅の仕方だった。
「ふう、ようやく帰ったか」
むろんその後には、黄金の輝きも跡形なく掻き消えた、もはや真っ暗となった闇夜の広場の光景がすぐさま戻ってきて――。
そうして冷え切った静けさまでもが辺りへ回帰してくると、ようやくユリシルトは我に返ったように隣の魔道士へ急ぎ物問うていたのである。
「ねえ、今のが伝説の神秘公、ていうか、あなた、まさかあの人の――」
「さっきの話か? さあ、どうだろうな」
「とぼけないでよ。あの人、はっきりロディに向かって不肖の息子って言ったんだから」
だが、対するロディの答えは相変わらず緊張感のない、実に通常の態のものでしかなかった。
「ふん、何が不肖、だ。偉そうに。しかもこういう面倒事がある時だけ会いに来やがって、現金なものだぜ」
そしてユリシルトへの返答はそれきり曖昧なままで終わりとすると、彼は次には、神秘公から貰った件の壜――王の水――を手に、ふっとその表情、真剣味のある風へ変化させたのだった。
「それはともかく、仕事はいよいよ最後の仕上げなんだ。すなわち、これからエリック王子たちの隠れている所へ行く」
「え? でも、さっきも言ったように、まるで居場所が……」
「大丈夫、ロディには秘策があるからね。彼にしかできない。それがナイト・ブレイカーさ」
「ナイト――?」
一方そう言われてもユリシルトとしては怪訝な表情浮かべるしかできなかったものの、すると背後からファルが自慢げに口を添えてきて。
「な、何それ」
「……最強の戦闘形態、そして破壊をもたらす漆黒の鎧」
加えてイーノも、どこかうっとりとした声音でそんなこと宣うや――。
「つまりは賢者の石で作り出した、この世で最も強さ与えてくれる魔法の鎧。ロディがそれを纏えば、彼に敵う者など一人もいなくなるんだ」
「賢者の石で、作った?」
「そう、ユリシルトも一目見れば、感動すると思うよ、その姿に」
闇を増しつつある広場の中、それを受けナッシュがその声高らかに辺りへ響かせる。何よりその勇壮な言があまりに真に迫ったものであったこともあり、知らず騎士はゴクリと唾を飲みこんでしまい、かつ眼も丸くし、
「破壊をもたらす……」
……最後に彼女はそんな一言とともに、初めて傍にいる魔道士へ向かって紛れもなく畏怖の籠もった視線、刹那向けざるを得なかったのであった。
「ん、どうした? 急にそんな顔で」
ロディ・ランフォード。『万能の錬金術師』とも別名呼ばれている、クラウゼンブルクでも一、二を争う凄腕のよろず屋にして、何より彼女の仕事引き受けた、その青年の顔を――。




