第53話 地下道
コロセアムの真下には、やたらと広い地下道が広がっていた。
すなわちそこは、かつてアリーナに上がる前、準備中の剣闘士や猛獣たちを収容していた場所。むろん彼らはそこから万を数える観衆待ち構える上の世界へと、騒然とした喝采の中上がっていったのである。当然ながら古代では一日に幾つもショーが行われたこともあり、当時そんな地下にいたのは相当な数に上ったはず。畢竟、そこには大小部屋がやたらとできることとなり、それをつなぐ通路もほとんど迷路のような混沌的状態と化し――。
「彼女たちのアジトはこっちだ!」
「凄い、暗い……」
「こりゃミノタウロスの迷宮並みだな」
そんな闇と静寂が支配する領域に、五人の声と荒い息遣いが慌ただしく響いていた。
むろん先頭を行くのはここを探り当てたイーノとナッシュ、その後にロディとユリシルト、そしてファルといった順番である。見たところその五人とも松明等の明かりは何一つ持っていなかったが、しかし緑のぼうとした光が一行全体を柔らかく包んでおり、それがロディの魔法の力によるものなのは言うまでもなかった。
そう、紛れもなくこの場面には実に最適な。
「でも、イーノには何で魔道士のアジトが分かったの?」
と、そうして闇の中を迷いなく進みながら、ユリシルトが素朴な疑問を口にした。ふとかような問いが頭をよぎった、そんな言い方だった。
「何でって、そりゃ実に簡単なことさ」
「え、そうなの?」
「あれ、言ってなかったか? つまりあいつは……」
一方問われた方のロディは後ろさっと振り返りざまいかにも女騎士へ軽くそう応じると、
「紛れもない、人狼だからさ。つまりは異様に鼻が効く」
いともあっさり、そんな衝撃的な答え返してきたのだった。
だが、これにはさすがのユリシルトも驚き隠せない。
「え、知らなかった。ていうか全然そんな風に見えない……」
「でも狼になった時のあいつはとにかく凄いぜ。その戦闘力と迫力は、クラウゼンブルクでも相当上の方に当たるほどだ」
「それに銀色の毛並みをした、とても綺麗で格好いい狼だよ。ユリシルトさんも見たら必ず感動する」
「……ふうん」
かくしてファルも含めた後方の三人は、しばし眼前の問題とは別の話題で妙な盛り上がり見せ始めるも――。
「何しているの、みんな。もうあの部屋に着いたよ!」
……その時突如として先を行くナッシュの鋭い呼び声が届いてきて、それは一瞬のうちにあっけなく中断されてしまうこととなったのである。
◇
長々と続いた地下道の端、その扉の四方の隙間からは仄かに青い光が外へと零れており。
「よし、行くぞ!」
早くもそこの前へ辿り着いた一行。するとイーノとナッシュ押しのけまず気合を入れたロディが先頭に立ってノックもなくがっしとノブを掴んだ。そしてそのまま躊躇なく、かつ威勢よくそれを押し開けていく。途端古びた木の扉は軋み音を盛大に上げ、増していったのは眼に入る青光の強さと範囲。それはやはりやたらぼんやりとしていて、まるで海の底の光景のよう。さらにそれと同時に、すぐに大して広くもない室内の様子は手に取るが如く知られることとなり、はたして次の瞬間そこで彼らが見たのは――。




