第51話 ワルドー王のコロセアム
クラウゼンブルクの中央、五芒星の中心部たる五角形した<黄金の街>南西には、遺跡地区と呼ばれている広い場所がある。そこはその名称通り古代に栄えた文明の跡が色濃く残る領域であり、実際2カル(キロ)四方の範囲の中に神殿や邸宅、大浴場などの貴重な遺構が幾つも立ち並んでいた。
そう、それは古代レガリア時代にまで遡る、まさしく悠久の遥か昔からのあえかな贈り物そのもの。むろん彼の黄金時代の眩しき姿、滅びつつも連綿と伝え続けている。
すなわちあの、<魔法>が誕生したとされる、偉大にして神秘なる時代の――。
だがかつては大いに繁栄誇っていたその一帯も、今ではただ都市の中にポツンと位置している寂寥と静謐の支配する地でしかない。なぜか妙な所でドライな面見せるクラウゼンブルク市民にとっては、所詮単なる過去の遺物というやつでしかなかったのだ。
畢竟そこはもはや賑わいの外、基本的にほとんど人気のない、あまりに寂れた地と化していて。
特に今日のようなこんな静かな夕暮れ時、いよいよ夜も迫ってこようかという時間帯には。
……ただ、そこ、夕日を受けて悠然と聳え立つ、かつての大競技場だけを除いて。
『ワルドー王のコロセアム』。
高さ30ユー、長径130ユー、短径100ユーの楕円形。そんなかつて1万人を収容できたといわれる、いかにも厳めしい名のついた、その一大構造物だけを。
◇
「グフフ、やはりやって来たか、鉄仮面よ」
かくて赤く染まるアリーナの中央で、バロン・ズ・ドルトレウスはいかにも愉快そうに声を響かせた。それは間違いなくこれから行われる戦いへ、その闘志昂揚させているという何よりの証しに他ならなかった。
「……バロン殿。あなたもあれを求めてここへ来たのですね」
対してあくまで冷静に放たれる、鉄仮面の声。相変わらずその白銀の鎧が夕闇に眩しい立ち姿だ。しかも今は腰に提げた剣の柄に、ぐっと手を掛けている。
「当然だ。あれは、悪魔の血は必ずや儂のコレクションに」
「そんな簡単に手にして良い代物ではないはずですが」
「それは持ち主次第。愚かな盗人に取られるくらいなら、儂のもとにあった方が遥かに良かろう」
召喚のスペシャリストたる醜き大ガエルと、聖なる魔法に身も心も捧げた、鎧の魔道士。
しこうして魔薬求める二人は古のコロセアムを舞台に、火花散らして静かに睨み合い――。
「さっさとここにいる不届き者を捕えて悪魔の血を手に入れるつもりだったが、お主が来たからにはそうもいかんようだ。――ならば我が力の元に、一息にねじ伏せてくれるわ!」
――そして僅か数瞬の後、古代の名高き暴君の造った闘技場は、まさしくその名にふさわしい激戦の場となっていたのである。




