第50話 全員集結
「今までどこに行っていたんだ!」
ファルが背後に二人引き連れ大広間に入るなり、ロディのけたたましい怒号が室内に轟き渡っていた。むろんそれはファルではなく、後ろの二人、特に金髪のダークエルフへ放ったもの。何よりその常ならぬ彼の様子は、隣にいたユリシルトをして思わず驚愕の顔示させたほどだったのだ。
「ちょっと、ロディ、せっかく帰ってきたんだから……」
当然のようにその後すぐ、ナッシュかばうような言葉、発させて。
「だがどうせ一人であの魔道士の元に行ったんだろ? まったく、無謀にもほどがある!」
「……」
「何で一言も言わず――」
「まあまあ、ロディ。結果として無事だったわけだから、ここはそれで良しということで……」
そうしてそんな上司(?)の衰えを知らぬ叱責に思わず俯きしゅんとしてしまったナッシュに代わって、ふいにその隣にいた青年が弁解してくると、途端今度は魔道士の矛先は勢いよく彼へと向かっていたのである。
「イーノ、お前の方こそ今までどこをほっつき歩いていたんだ! いくら旅好きとはいえ、もう街を出て行ってから一年は経つんだぞ!」
「そりゃ出発前に言ったように、色々外の世界を見てきたんだよ。おかげで学ぶことも実に多かった。例えば――」
「そんなことはどうでもいい! 今は本当に大変な時なんだ!」
しかもさらにその眼は三角となり、まさに怒髪天そのものというやつだ。もちろんナッシュのこともあるが、余程これまでこの目の前の修道士服纏った青年――イーノの不在が応えていたに違いない。
ロディと同じような長さの、ただしややウェーブのかかって柔らかそうな栗色の髪に、どこか夢見がちの鳶色の瞳、形の良い鼻梁、桃色の唇、かつ少しふっくらとした頬が特徴的な、実に気品ある美青年の不在を。
もっとも対する彼は彼でそう言われても、ただ困惑の表情返すだけだったのだが。
「ああもう、切羽詰まっているんだ!」
「……へえ、そうなんだ」
「くそ、こんな時に、いなくなるは帰って来ないは――」
しこうして彼は一人ますますいきり立ち、二人の助手目掛け避難の声さらに浴びせようとしたものの――。
「ロ、ロディ。とにかくみんなこうして揃ったんだし、そろそろお昼にしよう」
しかしその時ふいにそれまで黙っていたファルが恐る恐る提案の声発し、それはそんな荒ぶる魔道士の怒り、僅かとはいえ瞬時に冷ましていたのである。
◇
かくて何とかロディも平常心取り戻すや、そのまま大広間での会議が始まった。窓側にロディとユリシルト、その対面に右から順にファル、ナッシュ、イーノの座った、一応パンとチーズにスープ、飲み物も用意されたそれは食事兼用という形だった。
「――で、何があったんだ?」
そんな中まず口火を切ったのはもちろんロディ。もっとも先ほどまでの怒りはようやく収まり、かなり穏やかになった風だ。
対するナッシュがコーヒーを飲む手を止め改まった感で彼に応じたのは、言うまでもなかった。
「……ロディの言う通りさ。僕は劇場で事前にあいつに発信機をつけておき、そしてそれを追跡して居場所を突き止めることができた。それを使ってマリー・メイの元へは辿り着いたものの」
「マリー・メイ?」
「あの魔道士の名さ。自分からそう名乗ったから……。そして僕はあの薬を取り戻すためあいつと戦うことになったんだけど」
そこでいったん言葉を止めたダークエルフ。むろんそれはこれから彼にとって実に言いにくいことを語らなければならないからだったのは疑いないだろう。もちろんだからと言って話を終わりにするわけにもいかず、やがて少年は続き始めざるを得なかったのだが。
「――でも、結局まるで敵わなかった。あいつは凄い使い手だった。それもロディと同じ緑の魔法の。僕はあいつの力で吹っ飛ばされ、気まで失ってしまったらしく」
そうして再びの沈黙。屈辱というか後悔というか、そこには余りに色々な感情が隠し切れずこもっていて――。
「そう、後はナッシュの匂いを嗅ぎつけた僕がその気を失った状態の彼を見つけ、近くの宿屋へ急ぎ運んだんだ」
結局その後を受けたのは、隣に座っていたイーノだったのである。
「なるほど、それで戻るのが遅れたと……だがそのマリー・メイとの戦いは昨日の夜のことだろう? いくら何でも遅くなりすぎはしないか?」
「それは、ちょっと用事があって……」
「用事?」
加えて青年がさらに続けると、途端再び険しさ増したロディの表情。
「だから違うよ、ロディ、これはちゃんと今回の仕事に関わることで!」
それゆえそれ見たナッシュがまた慌てて横から入ってきたのは当然のことなのだった。
「つまりマリーとの戦いの時、負けたとはいえ僕は彼女からこれを奪い取ることができたんだから」
そして急ぎすっと懐からロディたちの方へ差し出された、手の中のあるアイテム。それは小さな、かつ銀色に光る美しい飾り物めいた品で――。
当然ロディとユリシルトの瞳はそれに釘付けとなる。
「イヤリング?」
「これは……」
「そう、マリーの着けていたイヤリングさ。何か彼女の正体に繋がるかもと思って、その時はとにかく無我夢中で。でも、これが後で十分役に立つことになったんだから」
そうして彼は隣に座るイーノの方へちらと眼差し向けると、
「――要は、イーノにこれの匂いを嗅いでもらったんだ」
「何だって、まさか……」
「その通り。それで今日あいつらのアジト、見つけてきたという訳さ」
――いかにも自信満々、つまりはいつもの強気な調子取り戻し、口辺には笑みまで浮かべてそう宣っていたのだった。




