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第47話 炎の魔人

 真っ暗で、ひたすら静かな、まるで人気のない部屋。しかも壁や天井、床にはどうやってか星々のような色とりどり、小さな瞬く輝きが数限りないほどちりばめられた。

 その異様なまでに圧倒的な様はまさに夜空、というかほとんど宇宙のまっただ中すら想起させ――。


 「クヌ・エスバ・ラハム……」


 『星海の間』。かくて黒の魔道士本拠地黒水晶館の中、特に秘められた場所にある一室には、先ほどから重々しい声音が響いていた。すなわちそこは術者の魔力を極限まで高め、その持てる魔法、完璧なまでに使えるように特別設えられた部屋。何より静謐な空気と隠された魔の波動が、彼の者の強大な力をどこまでも引き出してくれる……。もちろんその部屋の持つエネルギーは実に大きく、一般の大した腕無き魔道士が使うにはあまりにリスクがあり過ぎたのだが。

 そう、そこはまさに選ばれた者のみが入れる、特殊にして密やかな領域、それは一握りの天才のような――例えば今必死に何かを念じているバロン・ズ・ドルトレウスの如き偉大な者のためにこそ存在するエリアにふさわしく、


 「おお、後、もう少しだ……」


 ――すなわちその言の通り、彼は何よりも今まさしく緊急に、並外れた大いなる力の解放、是が非でも必要としていたのである。


                  ◇


 「!」


 部屋の中央、星々の集団の真ん中、巨大な椅子にどっかりと陣取った黒の長たる大ガエルは、そうして幾度目かとなる奇妙な文言を告げ終えるや、突如として眼前、空中に炎が巻き起こるのを目撃した。

 それはまるで火炎の渦のようであり、異様なまでの熱がバロンの元にも確かに伝わってくる。黒色を基調とした部屋の中、それは実に目立って輝き放つ赤い光だ。しかもそれ自体が命あるように、決して消え去ることがなく。

 かくしてその怪しい炎はしばし大魔道士の前で激しい回転運動、見せつけるように示して、それは畢竟半永久的にいつまでも続くかとさえ思われたのだが。


 『――召喚は適った、我は今こそ地上へ姿現さん!』

 「おお、ジンよ!」


 しかし次の瞬間、そんな叫び声とともに炎が突然人の形となり、そしてたちまちそこへ出現したのは、胴衣と長袴纏った容貌魁偉な黒髭の大男なのだった。

 その背丈、2ユーは優に超える高さだろう。召喚者ほどではないにせよ、横幅もかなり大きい。そんな赤銅色の肌でむくつけき体躯の巨漢が、さらに言えば空中に紛れもなく浮かんでいる。これはどう考えても威圧的かつ奇妙な絵面ではあった。

 むろん当の呼び寄せたバロン自身にとっては、さほど驚くに値しない予期通りの姿であった、としても。


 『我を呼んだ上は、何か願いがあるのだろう?』


 やがて太い腕を組んだ姿勢のまま、ジンが宣った。それは予想通り、稲妻を思わせる太々した声音だった。


 「むろんだ、儂はお前に一つ、是非とも訊ねたいことがある!」

 『それを告げるが良い、黒の王よ。我が力の適う限り、教えてやろう』


 対してぐっと椅子から身体を前方へ乗り出し、眼の色を狂熱的に輝かせた大ガエル。まさしく何かに取りつかれたかのような態である。そうして彼は僅かな時も惜しいとすかさず大口を開くと、


 「<悪魔の血>。禁忌の薬たるあれが今どこにあるか、教えるのだ!」


 そう、溢れる欲望も露わに力強く宣っている。何より、喉から手が出るほど欲しいあのアイテム、しかし何者かに奪われてしまったあれをまざまざ脳裡へと浮かべて。

 はたしてそれはむろんジンをして大きく深く頷かせる、すなわち受諾するに十分な響きで、


 「よかろう』


 炎の魔神がすかさずその一言で応じてきたのもまさしくむべなるかな、というものであった。瞬間バロンの息を飲む音もはっきりと聞こえ――。


 「おお、では早く告げるのだ!」

 『その薬があるのは……』

 「ウム!」


 そしてジンは一瞬意識を飛ばしたかのように目を閉じ、奇妙な間を挟むや、


 『そう、遺跡地区、その中にある――』


 たちまちカっと赤き両目を開き、放つ言葉にもただならぬ力こめ、


 『それは、<ワルドー王のコロセアム>』


 ――最後にそんな言葉、託宣の如く、ひたすら厳かに告げてきたのである。

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