第42話 追跡
マリーが警戒とともに背後振り返った、その時。
「やあ、また会ったね。でも、こんな所で何しているのさ?」
機先を制するように、道の真ん中に立つその人物は静かに声を掛けてきた。
そのややハスキーな声音、雨に濡れていても眩しく輝いて見える金髪、そしてハッとするような青いアーモンド・アイ。間違いなく、それは――。
「ロディ・ランフォードの仲間……これで三度目か」
「そうさ、ちなみに名前はナッシュっていうんだ、よろしく」
「……それはどうも」
そう、ダークエルフにして街のよろず屋のクールな助手が一人、美貌のナッシュなのであった。
「私はマリー・メイよ、ナッシュ。それであんたこそ、何しにきたの?」
「おや、何で僕がここにいるか、気にならないの?」
「大方あの廃劇場で会った時、私に何か発信機でも仕掛けておいたんだろ? ちょっと迂闊だった」
だが、対してマリーはさほど慌てずに対応する。まるで久しぶりの友人にばったり再会したように。煙る雨脚の中、その顔に掛かる雨滴、一つも拭おうとせず。
「……ただ、ロディは一緒じゃないようだね」
もっともナッシュの周囲見やりつつ、唯一気になることはあったようだが。
「ふふ、安心して。彼には何も言っていない。だって、僕一人で君のことくらい、相手できるんだから。あの薬を取り戻すため」
「あなただけで、私を倒しに来たってこと?」
「その通り。幸い、あの大男も今はいないみたいだし」
「……お互い一人きりってわけ、か」
そうして尚も自信満々にダークエルフが応じてくると、ぼそりとそう口にした放浪の魔道士。それはどこか他人事のような、何とも奇妙な口ぶりであった。
何より、相手がすっと物騒にも腰からダガー引き抜いても、しばしぼうっとその光景見つめていただけだったのだから。
「どうしたの? まさか怖気づいたわけじゃあるまいし」
むろんその態度はナッシュをしてさすがに怪訝に眉を一瞬ひそめさせ、
「今さら泣き言は聞かないよ」
ゆっくり、慎重に二、三歩、魔道士へとにじり寄らせたのだった。
はたして両者の間のその距離、大体にして5ユー程度、か――。
つまりは、ほんの刹那の内に切り結ぶことできる。
もちろん、二人がタイプは違うとはいえ魔法使える者である以上、そこの数字に大して重要な意味などなかったのかもしれないが。
すなわち、ナッシュは聖召錬屍幻、クラウゼンブルク五系統とは異なる、エルフに伝わる独特な妖精魔法の使い手。そして一方マリー・メイは――。
「!」
それ見たナッシュに刹那目を大きく見開かせたほどに、つとその手に握られていたのはダークエルフと同じような得物、ただしただ鋭利なだけではなくその刃が真っ赤に妖しく輝いたやつ。そう、それが示すのは彼女が自ら異能の道具作り出せる者、錬金術師に違いないという証しで。ロディとどこまでも似たような……。
「なら、こっちも全力でいくよ。覚悟はいいかい?」
かくして迎え撃つマリーの顔には、その時ここに来て初めて、不敵極まる笑みさえはっきりと浮かんでいたのである。




