第4話 魔道士の街
幾つもの列強が覇権巡りいまだ相争うクラナト大陸、その東方、ほとんどさいはてといっても過言ではない荒れ地の中に、どの国にも属さぬ一つの街がある。
クラウゼンブルク。
それは伝説と虚言の深い霧にどこまでも包まれた、幻想の中の都市。どんな街道を通っても、またどんな立派な隊商を組んでも、許された者でない限りそこへは決して辿り着けないという。
事実、そこは外形からして奇妙極まる街だった。
むろん地上から眺めてもその不思議さははっきりと分かるほどだが、しかし鳥となって上空から見下ろせば、その奇怪なる偉容は手に取るように悟られる。そう、その俯瞰図はまさしく魔道にもっとも近しい神秘的図形――あろうことか完璧な五芒星の形をしていたのだ。
しかも当然ながら、外側を分厚く堅牢なる城壁で固く囲われて。
他の地域にはまず見当たることのない、間違いなく、それは普通の都市ではないということの明らか過ぎる証左。住民ですら、恐らくまともな者は一人もいないと予想できるような。
従って大陸の他の国々の住人でその都市へ訪れた人間はいまだ数えるしかいないとまで言われ、内部に関する話なども小さな事実に尾ひれがふんだんについて今や制御不能、まさに何でもありの状態であった。
いわく、そこではありえないほどの財宝が手に入る。
いわく、そこでは家畜として竜が飼われている。
いわく、そこにいる者は一つの例外もなく不老不死の力を得ている――等々。
まさしく百花繚乱にして奇々怪々の坩堝というやつなのだが、しかし、そういった一見荒唐無稽としか思えぬ噂話の中に、唯一と言ってもいい共通する、そして真実味のあるワードがただ一つだけ存在するのも、また確かだったのである。
すなわち、遍くそこに住むのを許されているのはたった一つの職位、あの孤高なる魔道士だけである、という。そして何よりそれこそが、このクラウゼンブルクが魔道の街と呼び習わされている最大の所以。他国では遥か昔に滅び去った、古代より伝わる神秘の技法の唯一生き残った……。
それゆえその恐るべき超自然の力を求めて、わざわざ長い旅路まで経てこの五芒星都市目指す外側の民はいまだ数多く存在している。むろん物見遊山どころか彼ら彼女らが途轍もない難題持って駆けこまんとする者たちなのは言うまでもない。大概それは、普通の方法ではとても解決できない類の案件なのだ。いわばそうした人々にとってクラウゼンブルクは最後の希望、全き闇の中に射す一筋の微かな光。
およそ通常では考えられない力持つ者たちが、信じられぬほど多く集った――。
そう、得がたい幸運に恵まれるか、滅多にないことだが都市内にいる魔道士から正式に招待でもされたなら、その者は苦労の甲斐あって、深い森の途切れた後現れる殺伐とした平原のただ中、長い旅路の果てにようやく奇妙な形の街を認めることができるだろう。そしてその偉容が見られたなら、それは魔法が使えぬ人間でもクラウゼンブルクへ入れるという証、やっとただ一つある門を潜ることができる。もっとも、正確な記録が存在しない以上はたしてそうしてこれまでに何人が入市適ったのかは、まったく想像だにできないのだが。
さらに言えば、問題解決の後、無事街から故郷へ帰れた者となると。
いや、そもそも魔法渦巻くそんな怪しげな世界の中にそれを使えぬ者が入ること自体、あるいは相当危険な行為に当たるのかもしれず。
そしてそれは、遠く西の国からはるばるやって来た彼女にとっても、まったく同様の事態だったはずで……。




