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第38話 強奪

 「グオオオ!」


 そうして巨漢は胸の辺りで火の玉真正面から受け止めると、げに凄まじき雄叫び上げた。だがそれは一見痛みのもののようでありながら、まったく別の感情のもたらしたものなのであった。


 「これは、なかなか強い力だ!」


 すなわち、次にはあろうことか歓喜に満ちた声さえ上げていたのだから。


 「な、何?!」


 ――はたして当然その火弾放った張本人たるロディに、驚愕の表情露わとさせていたほどに。

 何しろ、間違いなくクリティカルヒット、魔法の火がもろに相手直撃したのだ。しかも大男のいでたちはローブだけのシンプルなもので、特に中に鎧めいたものを着けている様子もない。つまりは普通なら、今頃火の苦しみに悶え暴れていても何らおかしくないくらいで……。


 「どうした、もう来ないのか?!」


 だが男はむしろ声に勢いつけて、次の攻撃まで催促してくる始末だったのである。信じ難い事象が起こったとしかいいようがなかった。魔法の常識をどこまでも超越したような。


 「く……!」


 それゆえ当然ながら、ロディは第二弾放つのを知らず躊躇してしまう。

 どう考えても、次も無駄撃ちになる可能性が高かったのだ。そう、やはり別の手を使うべきなのか、など。


 (だが、どうする?)


 そうして彼は緊迫感いや増す空気の中、一瞬だけ隙を見せるというか、完全に目の前の巨漢に気を取られてしまったのだが……。


 「もらった!」


 しかし、まさに彼が急ぎ思考巡らせようとした、その時。


 「!」

 「え?!」


 突如として男の背後から蛇のごときもの――黒い鞭がロディの方に飛んで来て、そしてその左手からみごと件の薬壜、強引に奪い取ってしまったのだった。



 「やった、『悪魔の血』を手に入れた!」


 そして待望の獲物を自らのうちに収め、たちまち歓喜の声上げたマリー・メイ。その表情はまさに喜色満面といったものだった。


 「モハード、目的はもう達成した。さっさとずらかるぞ!」

 「了解した」


 当然それを受けた巨漢も戦闘終了と素早く退避体勢に入っている。


 「ま、待て!」


 一方不覚にも薬奪われた魔道士はなおもしぶとく追いすがろうとしたものの。


 「ふ、悪いがもうあんたたちの相手をしている暇はない。おい、そこのダークエルフ、これはこの前のお返しだ!」

 「何?!」


 はたして彼女はそう言って刹那ナッシュの方を勝ち気に見やり、次の瞬間突如としてその手に赤い球出現させるや。


 「足止めの閃光!」


 そしてその一言とともに、それを床へ思いきり力強く叩きつけていたのである。


 「ぐ!」

 「きゃああ!」

 「わあ!」


 その直後突然ロディたちを襲った、強烈な光の衝撃を置き土産にして。それはあまりに眩しく、その強さたるやとても目を開けていられないほどで……。



 「じゃあな、『万能の錬金術師』!」


 ――そうしてロディは光の奔流のただ中で、確かに女魔道士の放ったその揶揄の籠もった声を、最後に痛恨たる思いとともに耳にしていたのだった。

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