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第33話 聖なる歌い手

 ――しかし、その時だった。


 「え、何これ?」

 「――歌?」


 まずそれに気づいたのは、ロディの背後にいるユリシルトとナッシュの二人だった。急に声を出した両者とも揃って驚いた顔となり、そしてすぐに自らの後ろの方振り返っている。


 「女の人、の……?」


 すなわち、そちらの方向、メインホールの入口たる赤い扉側から、突如として何かが聞こえてきたのだ。それもどことなくかよわく、しかし何よりも清楚で美しい旋律持った歌声が。

 そう、それはあまりに儚く、幻想的で、加えて同時に心穏やかにもさせ。

 ――こんな廃墟にはどう考えても場違いなほどに。


 「! まさか、これは」


 むろん、ロディがすかさずユリシルトたちにならっていたのは言うまでもない。そして彼はそこにいつの間にか一人の人物が立っていたのを、しかと目撃している。

 白い毛織のブラウスに、革の半ズボン、膝まで紐を編み上げた革サンダル、そして緑色のマントといういでたちした、可愛らしい少女を。


 「まさか、白の魔道士か!」


 ――そして次の瞬間当然ながらその姿は、突然アルフィノをして誰よりも大きな声、知らず上げさせていたのである。



 かくして一挙に異様な雰囲気に包まれたメインホール。

 それを瞬時にしてもたらしたのは、開かれた扉の真ん中に立つ、たった一人の赤髪の少女。恐らく齢15、6程度だと思われる……。

 彼女はそして、眼を閉じ胸の前で手を組み、一心に祈るようにずっと歌い続けている。とにかく、げに美しい歌声だ。それはまるで天上で奏でられる音楽そのもののようで、心の琴線を揺さぶり、知らず感動の涙さえ流させていくほどで――。


 「何これ、何だか、戦う気もなくなってきた……」

 「ていうか、やる気自体が……」


 すなわち、それを耳にしたユリシルトとナッシュに、まずあからさまな異変生じさせていたのである。


 「……どうして私、剣なんか持っているんだろう、こんな物騒なもの」

 「そうだね、そんなので争っても、意味がないよ」

 「早くここから出て、お祈りでも捧げないと――」

 「おい、二人とも!」


 むろんそれ見たロディが途端驚きの声上げていたのは言うまでもない。どうやら体質か魔道士としての力によるものか、彼にはいまだその歌声の効果は現れないようだ。つまり半ば慌てながら、二人の様子見つめていたのみで。


 「あ、やっぱりだめ、もう力が――」


 だが、やはりその呼びかけもむなしく、結局ユリシルトたちはついにパタリと床にしゃがみこんでしまい、もう立ち上がろうともせず……。


 「グ、ムムム……」

 「! どうした、グロズニー?!」


 と、そこでステージ上の方から、今度は突然獣の呻くような声が聞こえてきた。そしてそれに合わせて、アルフィノのロディ同様驚愕した声音までも。むろんそれは青年をさっと振り返らせたものの、しかし一体何が起きたのかについては、わざわざ眼差し向けるまでもなかったようだ。


 「ウウ……」


 はたして次の瞬間、巨体誇る大男――グロズニーが急に床へ片膝を突き、ユリシルトたち同様完全に戦意喪失の態現わしてしまったのだから。しかも彼はそのまま、隣のファルのことなどまるで顧みなくなってしまう。その頭を床にどこまでもうつむけて。だがもちろんそれは、一瞬生まれた、逃げ出すには絶好の好機……。


 「ファル、今だ!」


 当然目端の利くロディがその隙を見逃すはずもなく、畢竟彼の鋭い声が、聖なる歌に混じって大きく響き渡る。


 「ロディ!」

 「ファル!」

 「しまった!」


 そうしてそれ受けたハーフリングは生来の素早い身のこなしでさっと巨人から離れるや、束の間茫然としていたアルフィノさえもうまくかわして、ステージの上から一気に飛び降りていた――。

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