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第30話 黒の街へ

 五芒星の一番北側の角、黒の街は何とも不気味な雰囲気持った領域である。

 そこでは町中、広場などに異様な姿した魔獣の像が列なして置かれ、またガーゴイルが建物の屋根屋根を居丈高に飾り、噴水の真ん中には奇妙な半魚人の巨頭が置かれている。何よりそのどれもがあまりに迫真性のある出来栄えで、知らずここに入った者は間違いなく仰天してしまうであろう高いレベルなのだ。

 まさしく、そこはいつどこにいても、げに禍々しき存在が避けようもなく目に入る街、とでもいえようか。しかもそれは、まるでこの地にいる魔道士たちを鮮やかに象徴しているようでもあり。

 すなわち彼らは、色とりどりの宝石――それこそが、黒の魔道士を他の存在から差異化する最大の特徴、別名宝石魔道士とも呼ばれるゆえん――を、皆が例外なく身体のどこかへ常に着けていたのだから。つまりはその美しい石の中には、他でもないその魔道士が使役する奇妙な形姿の幻獣たちが間違いなく閉じ込められているはずであり……。



 「ここが、黒魔道士の街、そして幻獣の棲む……」


 それゆえそんな光景の中辺りに漂う恐るべき獣たちの放つ気配は、ふとアラミスの騎士ユリシルトをして茫然と呟かせていたのだった。


 「召喚士たちの領域さ。バロン・ズ・ドルトレウスの支配する」

 「そしてここに、ファルが」

 「うん、手紙にあった通りに」


 そうして彼女ら、つまりロディ、ナッシュも含めた三人は今、街の北の方、角の先端の部分に位置する小さな広場に揃って立っている。爽やかな朝だというのに人通りのまばらな、そこは長方形した殺風景な場所。周りには幾つか建物が軒を接して並んでいたが、一つを除けば、大して目立つような物件も見当たらない。

 すなわち、中央に置かれた泉を挟んでロディたちがさっきからじっと鋭い眼差し送っているのは……。


 「つまりは、あのカスターヴァ劇場の中」


 ここで唯一傲然と堂々たる偉容見せつけている、しかし今は誰も入ることのない、げに古びた大劇場なのだった。


                  ◇


 『ファルは我々が預かっている。無事に返して欲しければ、ミラルカの家で手に入れたものとともに、明日の朝カスターヴァ劇場へ来い』


 そう、昨夜猫が持ってきた手紙には、確かにそんな文章が記されてあった。要するに、その自らの指定した場所で、怪しさ極まる<取引>を行なおうと提案してきたのだ。むろん他の細かいことは一切省いて、差出人の名前も見当たらず。……とはいえロディたちにとって犯人の目星は大体付いていたものの。


 「さあて、行くか」


 当然それゆえに、こうしてファルが捕らえられてしまった以上、彼らが僅かの逡巡も見せず時間通りすぐここへ駆けつけたのは言明するまでもなかった。事実、そのロディの声を合図に誰一人として怯えた素振り現わさず、むしろ勇んで一歩、前へ踏み出していたのだから。

 もちろん目的地は眼前に聳える巨大な劇場、二階建てで青い屋根、特に見事な三角破風が特徴的なファサード。だが数年前死者が多く出た悲惨な殺人事件を起こした後は、もはや歌手が唄うこともダンサーが踊ることも絶えてなくなった。その別名を、幽霊劇場とも言う、不吉感まこと溢れる……。


 「――でも、本当薄気味悪いわね」


 はたしてその外見からだけでも如実に分かる隠しようのない廃墟ぶりが、さすがのユリシルトをしてほんの一瞬、そう、我知らず気圧されたような声、発させていたように。


 むろんそれは間違いなく、そこで待ち構えているはずの存在が厳然ともたらしたものでもあり、

 ――そうしてユリシルトのみならず他の二人も似たような思い抱きながら、やがて三つの人影はアーチの下の白い扉、注意深く潜り抜けていったのだった。

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