第29話 第三の助手
ミラルカの家で襲撃があり、そして最後はファルが何者かにさらわれるなど、とにかく色々あり過ぎた日の、翌日の朝。
いまだ早朝の爽やかな空気色濃く残るクラウゼンブルク唯一の市門には、やはり大勢の人だかりができていた。そう、それは街を出て行く者、街へ入ってくる者それぞれで、とにかく言えるのはもの凄い賑わいだということである。むろんその服装、種族がともに実に種々雑多、人間から妖精族、獣族にまで至るのはさすが魔法の街の持つ光景。それゆえ入って来る者をいちいち調査しなければいけない門番の任務は、特に重責抱えたものなのであった。
「さあ、ちゃんと一列に並んで。あ、そこ、割りこむな!」
「うるせえ、こっちは急いでいるんだ! てめえらこそ早くしろ!」
「ちょっと、だからって入ってこないでよ! ここは私の位置よ!」
そう、かくしてとても優雅とはいえぬ罵声の数々、至る所でかしましくも発されていたように。
「……何々、イーノ・フランツ。緑の街に居住。しばし市外へ旅に出ていた、と」
そしてそんな門脇の小屋で相変わらずのひたすら続く流れ業務の中、門番の一人は灰色の修道士服纏ったとある青年を受け持っていた。
「はい。久しぶりに帰ってきたんです」
「一年ぶりか……確かに長い旅だな」
「色々と見てきたかったので」
むろん対する相手は他の者たち同様相当門前で待たされていたはずだが、しかしその様相には一見全く怒りのようなものは窺えない。むしろ彼は三十路のむさくるしい男と話すのがよほど楽しいのか、さらに笑みまで加えて喋りかけてきたのだ。
「それで、この街には何か変化はありませんか?」
「え、クラウゼンブルクにかい?」
「ええ、それくらい長い間、ここを留守にしていたので」
とはいえそんなことを言われても、門番に返せるのはありきたりの答えだけだったのだが。
「一年くらいじゃ、大して変わらんよ。神秘公も五人の魔道士長も相変わらずだし」
「ふうん。でも外の世界じゃ、一年は変化を起こすのに十分すぎる時間ですよ。反乱があったり、宗教改革があったり、あと新しい技術が出てきたり。……やっぱりクラウゼンブルクに流れる時間は凄く緩やかなんですね」
これには男は何とも素っ頓狂な声を出す。
「そんなもんかね? まあ俺はそんな長い旅をしたことがないから分からないが……で、あんたはこれからまたクラウゼンブルクで暮らすのかい?」
そして彼は待ち人がまだたくさん――しかも皆イライラしながら――いることもあり、仕事への責任感からさっさとこの目の前の案件片づけるため、話纏めようとしたのである。
……確かに対峙する彼に、普通とはちょっと違う雰囲気感じていながらも。
「さあ、どうでしょう? 何せ生粋の放浪フリークなもので。まあ、でも家には仲の良い友達もいるから、しばらくはいるのでしょうが」
一方青年はまったく変わらぬ優雅さで。
「そうかい。まあ、いずれにせよ楽しく暮らすことだ」
「お。ふふ、良いこと言いますね。確かにそれが一番!」
そうして門番がこれでもう終わりと決めの台詞放つと、実に効果てきめん、彼は今度は満面の笑みでにこにこ応じていたのだった。
「その言葉、そしてあなたにそのままお返ししますよ」
そう、そんな風に、どこまでも穏やかに。




