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第28話 誘拐

 「何だって、ファルがまだ帰っていない?!」


 鑑定屋ファジオへ一旦謎の薬を預けてからようやく帰宅したロディは、しかし慌てて玄関へ駆けつけて来たナッシュの報告に途端目を丸くした。何といっても今は夕食時、大分夜が深まり出した頃合いである。むろんファルがその食事の買い出しへ行ったのは充分承知していたが、とはいえいくら何でもまだ戻ってこないとは遅すぎる。まさかよほどの大きな買い物しているとも思われず、だとすれば何らかの不測の事態が起きたとしか考えられなかったのだ。それも先ほどミラルカの家で謎の襲撃者に巡りあってしまったこともあり。


 「まずいな、これはまずいぞ……」

 「単にどこかで寄り道しているんじゃなくて?」

 「ファルは料理に命賭けているから。夕食に遅れるなんてまずありえないよ」


 それゆえポーチ付きの洒落た玄関に突っ立ったままで、三人はあれこれ議論交わしている。周囲は既に夜の闇に沈みつつあったが、そこだけはやかましく思えたくらいの賑やかさであった。


 「じゃあ、本当に考えられるのは……」


 そしてそんな慌ただしい中、女騎士が早くも辿り着いた結論は、


 「ユリシルト?」

 「誘拐」

 「! いや、でもまさか」


 ロディは何とか否定しようとしたが、しかしその不穏な二文字、まさにそれ。


 「そうだね、何者かが、例えばミラルカの家にいた奴らの仲間がファルを」

 「そうとしか考えられない。特にあの子、天使みたいに可愛いから」

 「いや、今は可愛いからとかは関係なく……」

 「――と、すると。狙いはやはり」


 そうして途端その意見はダークエルフ同意に至らせ、眼光鋭くさせたものの、それに覆い被せるようにすかさず声重ねてきたのは魔道士だった。どうやら彼も最悪の事態発生を、結局は認めざる得なかったようである。


 「あの薬、か」


 ――そう、状況証拠が種々余りにも揃い過ぎている上は。



 「でも、だとしたら犯人はすぐ接触してくるはず」

 「ああ、恐らく目的の品を手に入れるためにな」

 「またあの巨人が来るのかな……」


 かくてハーフリングの身が案じられて仕方ない中、同時に三人の頭の中に浮かんでいたのは、あのミラルカ家にあった謎めいた薬以外何物でもないはず。そう、今はファジオが急いで複写品を作っているところだが、とにかくミラルカの犯した罪にも大いに関係している――。


 「くそ、てことは相手の出方次第か。面倒だな」


 はたしてその突如として浮上した問題のあまりの複雑さ、深刻さに畢竟ロディが忌々しげに零した、しかしその時。


 「あれ? あそこ」

 「ん? どうした?」

 「猫が、こっちを見ている……」


 ナッシュがふと何かに気づいたように道路側の一点、慌てて指差したのだった。


 そこはちょうどロディ家と道を挟んだ向かいの住宅との、真ん中くらいの位置。ただでさえ静かな夜の中、月明かりもない、一際暗いその一角に――。


 「ニャアオ」


 ようやく自分に気づいてくれたとばかりに小さく一鳴きしたのは、ナッシュの言った通りの、一匹の斑猫。それも、首環の辺りに手紙らしきもの、確かに挟みこんだ……。

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