第23話 狙撃手と巨人
それは狼の毛皮の胴着とズボン着た、見上げるような巨体誇る大男だった。
2ユーを遥かに超す長身である。しかも横幅もかなり大きい。
そして何より浅黒い顔はびっしりと赤茶けた髭に覆われ、そこに細く鋭い目と潰れた鼻がついている。まさに山賊の頭領だとしても何ら異存のない見た目といえよう。
はたしてそんな偉容誇る巨漢が厳然と立ちはだかっているのだ、ロディたちが途端目に見えて狼狽えたのは言うまでもなかった。
「……味方、じゃないわよね」
「ああ、間違いなく敵だ!」
実際、そんな余り意味を為さない会話交わされたように。
「ロディ、どうしよう、ぐずぐずしているとまた銃撃が!」
すると傍からナッシュが顔を青くして問うてきた。もちろんその隣にはピッタリと寄り添ったファルの姿もある。彼らもあまりの事態の急変に恐れを抱いているようだ、いつもの快活さがまるでない。
そうしてそれ見たロディは、一瞬チラと窓の方にも目をやってから、やっと決心したように口を開いたのだった。
「……仕方ない、強行突破といくか」
「強行……?」
「ああ、そしてユリシルト、それには君の協力が是非必要だ」
何より、その瞳に常にはない真剣な輝き、きらりと輝かせて。
「私の?」
「まず作戦だが、これから俺が銃撃を一時的に防ぐ。その間は自由に動けるはず。だからその時を使って、君があの巨人を倒してくれ」
「ああ、なるほど……って、私が一人で倒すの?!」
だが、次いで放たれたその一言はユリシルトにとって間違いなく仰天すべきものだった。そう、いくら自分が剣持つ騎士だからといって、あの巨漢を前に一人で立ち向かえと言われたのだから。
畢竟、抗議する声も知らず大きくなり。
「いくらなんでも無謀過ぎない? あいつ、私より頭三つ分くらいデカいのよ!」
「もちろんそのまま行けとは言わないさ。俺が君の剣に魔法をかけてやるから、それで戦ってくれ」
「魔法?」
「ああ、ただしこれはあくまで即席の方法。その剣が放てる魔法はたった一発だけだ」
一方ロディはこんな状況にも関わらずどこまでも冷静である。そもそもからして、もはやそれしか方法がないということなのだろう、はや肝も据わった感さえある。あるいはそれは初めて、彼が真の魔道士としての顔を表した時なのかもしれず。
「だから覚悟を決めてくれ、いいな、ユリシルト卿!」
かくて黒髪の青年は、一層声に力こめ、目の前の女騎士じっと見つめ返したのであった。
◇
「エーテル展開!」
それから僅かの後、部屋の中にロディの声が轟いた。それは南側に開いた窓に対して放たれたものだった。
「レベルは3。外から来るものは何であっても侵入させるな!」
そうして叫声一下、窓全体を光輝く幕のようなものが一斉に覆っていく。まさしくきらきら、春の気配をそのままカーテンにしたように。
「よし、こいつで防げる時間は15分、その間にユリシルト、君が巨人を倒すんだ!」
そして彼はまさについさっき自らの魔法与えた剣勇ましく構えた娘の方見やると、さらに声を大きくし――。
◇
その瞬間ユリシルトはままよと駆け出していた。もちろんその方向にいるのはあのむくつけき大巨漢だ。相変わらず永遠の壁のようにその場で仁王立ちしている。しかも近づいてくる騎士認めても、何ら怯えた様相示さない。それはまさしく余裕の体。
おまけにそのやたら太い丸太クラスの腕が、相手迎え撃とうとふいに前方へぐっと突き出されてきた。途端放たれる、間違いなくそれに掴まれたらもう一巻の終わりくらいの凄まじい迫力――。
「ハアッ」
だが、むろんそれ見たユリシルトは俄然さらに気合入れている。いや、むしろ彼女は巨漢との間合い詰めるスピードより一層上げて、
「私が相手よ!」
そんな一声、恐れ知らずにも部屋中に響かせていたのだから。
「凄い、あいつに向かって行く!」
「やっぱり騎士は凄いなあ!」
はたして、それ見た二人の少年が我知らず驚嘆の声上げたのも当然というもの。
「ウオオオオン!」
そして対峙する巨人が強烈極まる威嚇の雄叫び轟かすや、ミラルカの仕事場を舞台にして、いよいよ二人の戦士の戦いは開始され……。
「これでも喰らえ!」
刹那、ユリシルトの高く振り上げた剣からは、形容し難くもいと眩しき光、一斉に敵へ向かって解き放たれていたのである。
「! グオ?」
――そう、たちまちそれは、余りに強烈極まる衝撃波の塊へと変化して。




