第22話 奇襲
「何だこりゃ!」
かくてナッシュが幻を見事見破るや、途端キマイラの姿は霞のように掻き消え、そこに現れたのは一本の薬壜――。
難逃れた一同はそうして再び隠し部屋から出てミラルカの仕事場へ戻っている。今はその小さな壜を検分するロディ取り囲むように、三人がじっと様相見守っている状態だ。もちろん相変わらず乱雑にモノが床へと散らかされた中、特にユリシルトに至っては壜へ向ける視線余りに熱心で、畢竟彼女は背中越しに急いたように魔道士へすぐ声掛けていたのだった。
「あのキマイラはまやかしだった……。ねえ、でもそれ何なの?」
だが、対する青年はしばし壜の中身揺らしたりしながら眺めているばかりで、これといった返答がない。その様はまさしく騎士をしてじりじりさせるに充分というやつそのもの。従って次には娘は、その声の音量さらに増させていたのである。
「その壜の中身がミラルカの秘密なんでしょ? でも見当はつくの?」
「……うーん、そうだな。確かにあいつが作ったものには違いないんだろうが」
「うん」
すると数秒置いて、ロディがようやく返事をした。しかしそれは案に相違してというか予想通りというか、明らかに惑乱している風のものだった。
「駄目だ、これだけじゃさっぱり分からない」
その証拠に、直後には情けなくもそんな一言返してきたのだから。
「そう、というか、やっぱり」
「やっぱり?」
「……何でもないわ。でもとにかく正体が分からない以上、これからどうすれば」
そうしてユリシルトはそれなりに苦労した末手に入れた結果の内容に、知らずため息交じりで応じたものの――。
「まあ、これは鑑定屋へ持っていくことになるな」
一方ロディはそんな中割と平気な態で告げてきた。
「鑑定屋?」
「とにかくどんなモノでも、それが何かをたちまち解明してしまう魔道士。緑の街には大勢いて、特に高名な者も存在するんだ」
「そうか、その人にお願いすれば……」
しかもユリシルトの声に大きくうなずき返すと、
「ああ、ミラルカの罪名だってあっさり分かっちまう」
加えて、ようやくにして先に光明の見える発言、放ってきたのである。
◇
「さて、だとすればもうここに用はないな」
「じゃあ次は、早速その鑑定屋――」
「! 待って、ファル、危ない!」
――しかし、そうして束の間の談義の後次なる策も決まり、魔道士たちがそろそろミラルカの家退去しようとした、まさにその刹那だった。
「え?」
突然ナッシュがファルに猛然と飛びかかり、その小さな身体床へと強引に押し倒したのだ。当然ながらファルは驚愕一色、どうしたことかと上に乗っかった相棒の少年、大きな眼で見つめたものの――
「!」
「な、何だ?!」
だがその瞬間、部屋の奥に置かれてあった白い壺が突如としてパリンと軽やかな音立てて砕け散った。その中心射抜かれたような、それは完璧ともいえる割れっぷりであった。
そう、まさしく魔弾の仕業とでもいうべき。
「攻撃か? しかしどこから!」
「多分外よ、窓の方から!」
「銃だ、狙撃手だよ、きっと!」
はたしてそれ見て俄然騒然とし出す一行。先程のキマイラの幻とは異なりこれはまず現実のものに違いないから、その程度が甚だしいのは言うまでもない。必然的に訪れたのは、まさしく正真正銘のパニックそのものだった。
「く、あっちの建物だな、その狙撃手は。とにかくここにいるとヤバいぞ!」
「そう、早く出ないと!」
「ほら、ファル、早く立って!」
「う、うん!」
畢竟、皆が皆あまりに分かり易く一瞬で慌て出したような。
「よし、一気に出口へ行くぞ!」
そしてロディの必死極まる大きな号令一下、再び謎の銃撃受ける前に出入口へ皆で一斉に殺到しようとしたのだが――。
「げ、何だこいつ!」
……しかしあろうことか、その扉開け放たれた空間塞ぐようにして、突然巨大な人影がぬっと大胆不敵に登場してきたのだった。




