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第18話 ミラルカの家

 ナッシュたちが二人の襲撃者と遭遇した日の、午後――。


 「うわ、こりゃひどいな」


 緑の街でも下町の奥まった所にあるミラルカの家には、無粋ともいえる四人の訪問者の姿があった。むろん家主は今現在まごうかたなく牢屋の中である以上、つまりは勝手に入りこんだのだ。しかもまず一階の入り口潜るや彼らはその居間的フロアにはまるで見向きもせず、たちまちにして階段上がり二階、三つある中一番東側にある部屋目指している。


 「市政府の仕業かしら。連中も相当手荒な真似するのね」


 そうしてユリシルトが知らず呟いたように、扉開けてもなおそこのあまりの惨憺たる有様に、しばし全員唖然としていたのであった。

 すなわち室内に置かれた、机、椅子、本棚、そして無数の実験器具は、全て乱暴に床の上へと倒されていたのだから――。

 もちろんそこはいうまでもなく、ミラルカにとってもっとも大事な場所、彼の仕事部屋。特にビーカーやらフラスコ、携帯用の小さな炉やら、見るからに怪しげな道具類が緑の魔道士のテリトリーであることを如実に証明している。まさしく別名錬金術師と呼ばれるにふさわしい証しといえよう。

 だが、その全てが、今はまさに強盗にあったかのごとく、完全にしっちゃかめっちゃかと化している――それはもはや足の踏み場もない、嵐の後の状態。逆にいえば家探ししにきた者がいかに執念深くそれを行なったのか、分かり易いくらいにはっきりと物語ってもいるのだった。

 そう、監獄で忘却の薬まで飲まされていたミラルカが犯した罪がどれだけ大きなものだったのか、声を大にして証言するように。



 「ねえ、ナッシュ。アンナさんの言っていたあの絵はどこだろう?」

 「多分あの棚の向こうあたりだと思うけど……」


 かくてロディたち一同が入口辺りからしばし部屋の様子観察していると、魔道士と女騎士を差し置いて一番手前に陣取りキョロキョロしていた二人の少年が、身を乗り出しながらともに呟いた。間違いなく自分たちこそがそれへと至る情報を得てきたという、大きな自負からくる前のめりに違いなかった。


 「ドワーフの絵だっけ?」

 「ゴルド14世、<大王>の肖像画さ」

 「とにかく偉そうなドワーフの絵だね!」


 そうしてファルがいかにも納得したようにうなずいてみせると、途端背後から入ってくる声がある。


 「おい、そこに確実に隠し部屋への入口があるんだろうな」


 それはむろん魔道士ロディ。午前中の探索は助手二人に任せていただけあって、声色、表情ともになかなか元気一杯の風だ。どこか冷ややかなのもいつも通り。……だがそれゆえ、かえってその言耳にしたナッシュが振り返りつつ皮肉げに答えたのは言うまでもないのだった。


 「もちろん。だって僕らが必死になって聞いた来たんだから。その後変な奴らに襲われたりして」


 と、はたしてこれにはさすがの黒髪の青年も途端あたふたと言い訳がましくなる。


 「だからそれは悪かったって。まさかもうあいつらが接触してくるとは夢にも思わなかったから……」

 「ふん、僕の幻術がうまく通じたから良かったものの」

 「そうだよ! 本当怖かったんだから、あの人たち」

 「だからごめん――」

 「そう、確かに私たちが悪かったわ。後でお礼もちゃんとするから、今は協力して。お願い」


 するとそこへユリシルトが慰めるような笑み浮かべつつ加わってきた。女性らしい、柔らかな笑顔だ。そして畢竟その言葉は、ロディのものなどよりよほど二人の少年へ効果があったようなのである。


 「あ、うん……」

 「そうだね、早く絵を探さないと」


 たちまちにして二人にそう、トーンダウンまでさせていたのだから。


 「二人とも、でもありがとう。私の為に危険な目にまであって」

 「そ、そんな、いいですよ! これが僕たちの仕事だから、ねえナッシュ?」

 「ああいうことには充分慣れているしね。特にロディと一緒だと」

 「あら、そうなの?」

 「うん。この人、本当人使いが荒いから。まったく助手なんてやるもんじゃないよ」


 しかも騎士がさらにしっかりと感謝の辞述べると、機嫌がよくなったのか二人とも妙に饒舌な風出し、おまけとばかりに勢い色々喋り出してきて……。


 「おっと、そんな話はもういい。それより今は仕事だ、それじゃ行くぞ!」


 だが、ふいに当の魔道士が後ろからやたら威勢よく言い放ち、そんな取り留めのない少年と娘たちの話、力尽くで中断させてしまったのだった。

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