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第13話 洗濯女

 五芒星を象るクラウゼンブルク。その北西側に突き出た角は、全体が緑の街と呼ばれている。すなわちロディたちが住まう、緑の魔道士=別名錬金術師が支配するエリア。そこは青の街ほどには普通でなく、ただし妖気漂う赤の街ほどには魔的でもない、日常と非日常が分かち難く混ぜ合わせとなった区画。建物も古代風から現代風、大邸宅から質素な小屋までまるで同一感なく一緒くたになって立ち並び、危うく道行く者を混乱させかねない世界だ。何よりも、歩いている人々のいでたちからして完全にてんでバラバラ、どこにも共通点らしきものが見当たらない以上は。

 そう、そこをあえて表現するとすれば、それはどこまでも自由闊達で、勝手気ままなリゾーム状市街地、となる。もちろん誰一人として、上からでもまた下からでもこのゴチャゴチャ状態を秩序立て整頓しようとする者、存在するはずのない――。



 「ここかなあ……」


 そしてそれゆえにこそだろう。ファルが堤の上からキョロキョロと周囲見回したニルセン川の岸辺も、一見ズラリとまるで統一性のない建物群で囲まれた場所であり、すなわちここがはたしてどこの国の何時代なのか瞬間分からなくなるくらいの、実に奇妙な雰囲気で包みこまれた一帯だったのである。


 「あそこにいる人たちかな?」


 ……さらに加えて、朝だというのにその水辺の一角にはやけに賑やかな人込みも認められ、しかもそれが人間族のみならず、ドワーフ、エルフ、獣人らやたらバラエティーに富んだ。


 「だろうな。あの皆が着けている白のエプロンが、その何よりの証拠だ」


 するとすぐ隣から聞こえてきた、ややハスキーな声。その主が絶世の美貌もった金髪の少年なのはわざわざ言うまでもなかった。


 「やっぱり。洗濯女たちだね」


 当然ながら、すぐ振り返ったファルに実に親しげな返事、返させていたのだから。


 「こんな朝早くから、仕事しているんだ」

 「自作の魔法の粉で服を洗う彼女たちの熱心ぶり、有能ぶりは有名だから。上の階級の連中ですら、洗濯を依頼しに来るくらい」

 「ふうん。僕も今度、頼んでみようかな」


 そうしてにっこり、まるで天使のようにナッシュへ笑み零すファル。いみじくもユリシルトが言ったように、こちらはこちらでとてもハーフリングのものとは思えない類の笑顔だった。


 「……でもファルは、洗濯が大好きなんだろ?」

 「え?」

 「いつも口笛吹きながら、上機嫌にやっているよ」

 「う――」


 むろん相手にそう言われて途端言葉に詰まっても、可愛らしさに関してはいささかも変わることなく。



 「あ、あれだ!」


 と、突然ナッシュが珍しく大きな声を上げた。川辺の一点を指さしての、ハッとしたような一声だった。


 「え、どこどこ?」

 「あの洗濯女たちの真ん中あたり、ほら、赤い髪した」


 そしてそのまま彼は、いまだ標的探しあぐねている相棒置いて大急ぎで堤から駆け下りて行こうとさえする。


 「あ、待って!」

 「ファルも急いで、あれは間違いなくアンナさんだから!」

 「わ、分かったから!」


 かくて突如として慌ただしくなった二人の少年の動き。それはナッシュが言ったように、探していた相手をようやく見つけたからに相違あるまい。すなわち、ロディより頼まれた、ミラルカの愛人から話を聞き出す、という重要な仕事の為に。

 はたしてそれが結果的に、逃亡者たる西の国の王子たちの元へ辿り着くことに必ず繋がっていくはずなのだから。


 「ちょっと、ナッシュ、速すぎるよ!」


 それゆえナッシュがハーフリングの少年よりも遥かに速く、その女性のいる地点へあっという間に駆け寄って行ったのはさも当然のことで、畢竟、後ろのファルは大分後れ取ることとも相なってしまったのである。

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