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第10話 檻の中の囚人

 青の街はクラウゼンブルクでもっとも普通の表情持った領域である。つまりは外側の世界、魔法の存在しない都市と似たような街並み、空気、そして道行く人々。何よりロディがユリシルトとの待ち合わせ場所に指定したように城門がある唯一の区画で、外部の者がまず入るとすれば当然ここしかない。畢竟、そうしたことに関係しているのか市民の雰囲気にも取り立てて変わったところはなく、もちろん一見、ごくありふれた市街地としか見受けられず……。

 ちなみに青の魔道士はクラウゼンブルクにおいては第五等、すなわち最下位に位置する存在に過ぎず、当然ながらその持っている力も他に比べれば相当弱かった。そもそも彼らの得意とする技はまやかし、幻術の類だが、それは実体を持った他の魔法に比べれば一段も二段も劣る魔道とされていたのだ。

 まさしく青魔法は初級中の初級、かくてこれしか使えない者が半人前扱いとなるのも致し方なかろう。むろん青魔道士の中にはこうした屈辱に耐え切れず早くメダルの色変えようと日々努力する者もいたが、しかし魔法とは元来生まれた瞬間からその力量定まっているものであり、そうした健闘が見事成就する可能性自体が限りなく低いのだった。

 そう、それゆえ虚無の丘訪れた後の九時課のこと、緑のメダルぶら下げたロディ及びユリシルト(ナッシュたちは今回留守番)が街路進めば実に効果てきめん、たちまちにしてこの地区の住人たちは伏し目がちにあっさり道を開けて行き――。



 「あそこが、監獄……」


 そうしていつしか二人は街の最東端、ごみごみした家並みからはいくらか離れた円い広場のとば口に、その位置を占めていたのだった。

 バシュタール監獄。灰色のレンガでどこまでも野卑かつ堅牢武骨に組み立てられた、青の街で一番巨大な建築物。何よりも、市の法令に反した悪名高き犯罪者たちが有無を言わさず刑期終わるまで閉じ込められる、一切逃げる隙なき完璧な大城塞、それがまさしく正面に見える。



 「ああ、クラウゼンブルク中の罪人たちが集められる」

 「確かに、相当頑丈そうね」

 「どんな魔法の使い手でも、決して脱走させないように、な」


 かくてユリシルトがいかにも広場の向こう側に聳え立つ建物へ対し気圧されたような声洩らすと、隣から解説の声が聞こえてきた。振り返るまでもなく、それはロディの声だった。


 「じゃあ、やっぱり彼女が訊ねていたミラルカって男も」


 それゆえ当然ながら、騎士の次なる問いも前方向いたまま発されている。


 「うむ、あいつは緑の魔道士だが、少し前に何らかの罪で捕えられ、ここへぶちこまれた。とにかく突然のことだった」

 「何らかの……?」

 「ほとんど誰も、あいつの罪状を知らないんだ。何せまったく公表もされていないんだから」

 「そんな……」


 そして続けて付け加えられた言葉は栗色の髪の娘をしてあまりに予想外のことであり、もちろん一層懐疑的な視線で眼前の建物見つめざるをえないものなのであった。


 「誰も罪を知らないのに、捕らえられるなんて。それが正当なものか検討もできないじゃない」

 「検討? そういわれりゃそうだが、でもよっぽど悪どいことしでかしたんだろうよ。無闇に公開もできないくらい――それはともかく」


 と、だが一方の魔道士はそこに大して疑問覚えていないらしく、そのまま風のように流してしまう。あるいは、こうした事態は彼、いやこの街にとってよくある、日常茶飯的なことだったのかもしれない。

 特に、次いであっさりと話題変えてしまった上は。


 「一応事前に連絡して、あいつとの面会予約は取れたんだ。ちなみにこちら側で会えるのは最大二人まで。だから俺と君で来た――。さあ、では準備はいいかい?」

 「え? あ、はい!」

 「よし、行くぞ」


 さらに顧客に対して号令掛けるロディ。間違いなく、その表情に微妙な緊張感漂わせて。やはり、監獄とくればさすがの彼も構えるものあるらしく。


 昨日まで降り続いた執念深い雨が嘘のような、良く晴れた日の昼下がり。

 広場には散策や移動に励む人々の姿も多い。

 そう、そんなむしろのどかで平和としか言いようがない、生ぬるい時間帯。

 行き交う人々の表情も限りなく穏やかだ。


 「恐らく、あまり時間は取ってもらえないだろうからな」


 だが、魔道士と騎士のそんな奇妙な二人組は心の内に様々な思いこめ、しばらくするとようやく広場の端から難攻不落の城へと、勇んで足踏み出したのだった。

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