#84人でゲームセンター
なぜかみんなとゲームセンターに行くことになった賽瓦。人づきあいが苦手な彼女はしっかり楽しめるのか?
放課後、いつも通りに帰ろうとしたら藤井が寄り道をしようと誘ってきた。
「ん~~、寄り道ってどこ行くの?」
藤井なら変なところ選びそうだなと思いつつ聞いてみた。
「ゲームセンターに行くって。楽しそうだし一緒に行こうよ!」
...なんか藤井の言い方が妙だな...まあ、ゲームは好きだし一緒に行ってみるか。
「いいよ、じゃあ行こう。あんたは何のゲームが目当てなの?」
ゲームセンターとなると、たくさんゲームがあるだろうし藤井が私の好きなゲームやるなら、少しは付き合ってあげてもいいけど
「う~ん、私はよくわかんないや!あんまり行ったことないし、適当に遊ぶよ。あなたは?」
「そうだねぇ。クレーンゲームは論外として、少しアーケードゲームが遊びたいかな。できれば、メダルゲームも」
藤井はそれを聞いて、嬉しそうに
「へ~、メダルゲームっていうのをやるんだ!みんなもそのゲームをやるみたいだし、私にもやらせてね!」
藤井とメダルゲームか。すぐに溶かしそうだな。いや、それよりもみんな?みんなとは?
「ちょっと待って。みんなって?」
率直に聞いてみた。藤井は不思議そうに、
「みんなはみんなだよ?田中さんでしょ、鈴木君でしょ、あなたと私でしょ?ほら、みんないる」
なんてこったい。こいつ、最初からそのつもりだったのか...正直、藤井以外の人間と仲良くできる気がしないから、あんまり乗り気になれないんだけどな。う~~ん、でも楽しそうだし行ってみるか。
「しょうがないなぁ。一緒に行ってあげるよ」
「何がしょうがないのかよくわかんないけど、それならよかった!」
かくして私は、藤井with愉快な仲間達とゲームセンターに行くことになった。
ゲームセンターについた私たちは、とりあえずメダルを借りた後に各自好きな台で遊ぶことになった。そんなに長時間いるわけでもないし、1000円分ぐらい先に買っておこうかなと思いながら貸出機に行くと、藤井が万札を投入するのを目にした。
「!?!?藤井さぁん!?いきなり一万円も入れるわけ!?」
藤井は大富豪の娘か何かなのか?それとも単なるミスなのか?
「え、これって高いやつほどたくさんメダルが出てくるんだよね?」
「そうだけど!でも、これメダルに変えたらお金戻ってこないよ??」
「そうなの!?」
開幕から不安しかない。日本語ワカリマスカ?と聞きたくなるぐらい説明を読んでなかったようだ。
「あ、下になんか書いてあるわ。良かった~、5千円分買っただけで済んだ~」
それ、私の今月の小遣いと同額なんですけど???十分致命傷なんですけど???
「とりあえず!それ以上メダルにお金使わないでよね!マジで!!」
本気で警告しておくが、さてどれぐらい通じるか。
「わかったよ。教えてくれてありがとうね!」
すると、藤井はいきなりハグをしてきた。百合の性癖はなかったが、いろいろすごかったしとてもうれしかったのでOKです。
藤井を適当な台に置いてきた後、私は絶滅寸前のアーケード筐体でギルティギア ストライヴを何回か遊び、湾岸ミッドナイトを遊んだ後、店内を回ることにした。
「やっぱりブリジットは強いなぁ。PCで遊ぶのもいいけど、ゲームセンターのアーケード筐体でしかできない体験もあるよね」
一人でそう呟きながらゲームを三回ほどクリアしたのち、湾岸ミッドナイトで周回遅れを連発し、クソゲー認定をした。
さて、だいぶやりたいこともできたし、ほかの愉快な仲間たちの様子でも見に行くか。
まずは、藤井を探さねば。あいつのことだから、また重課金をしてないといいが...あ!見つけた!競馬のゲームをしている!なんであんなに計算とか予想をしなきゃいけないゲームをあいつがしているんだ?
「いけぇ!!!させえぇぇぇ!!!お前に全部賭けてるんだぁぁ!!!!!」
...今からでも知らない人のふりができるだろうか。しかも、別に一頭だけにかけてるわけじゃなく、逆に一頭以外の全部の馬に賭けてるし。あれじゃあ、勝っても負けても損をするだけだろう。そして、結果発表。なんと、藤井が賭けていなかった馬が一等になった。なんだそれ。悪運通り越して幸運だろ。
「なん...だと...」
藤井が燃え尽きた。真っ白に。仕方ない、後で慰めてあげよう。
「勝ったな。やっぱり、内部が悪かったみたいだ」
一人でそう話すのは鈴木だった。鈴木は藤井とは逆に、藤井が選ばなかった一頭にすべてを賭けて見事的中したようだ。大量配当を手に入れた鈴木はメダルをすべて払い出し、台車に詰め込んだ。
「うわぁぁ す...鈴木が台車で練り歩いている!」
叫んだのは藤井だ。しかし、かろうじて息を吹き返した藤井だったが、あまりのショックにまた燃え尽きた。
「すいません、敗北者を二度刺すのはルールで禁止スよね」
と思わず言ってしまったが、幸いにも藤井以外の誰にも聞かれていなかったようだ。
そういえば、田中はずっと見ていないがどこに行ったのだろう?鈴木に聞いてみた。
「ねえ、鈴木。あんたは田中さん見てない?」
鈴木は引き続き台車を押して練り歩きながら、
「あ~~、あいつならパチンコ打ってるよ。運がよかったらあれでたくさんメダル稼げるから」
鈴木はそういうとまた練り歩き始めた。あれほどまでの練り歩きをあの台車でできるとは...脱帽です。
燃え尽きた藤井の肩を支えながらパチンコ台のほうまで行くと、そこにはバカ勝ちしている田中がいた!
「あ!!二人ともちょうどいいところに!なんかね?鈴木がこれならお前でも勝てるだろ。って言って私をここに置いて行ったの!しかも、500円も入れちゃって!ムカついて適当にボタン押しまくったら、メダルがすごいことになっちゃって...どうすればいいと思う?あと、藤井さんはなんで灰みたいな顔になってるの?」
これ見せられたら私もどうすればいいかわかんないよ!とりあえず、店員を呼んで台車を持ってきてもらうことにした。店員が来るまで少し待つことになったが、いかんせん話したことがほぼないので気まずい。
「う...うん...?」
まずい!藤井が目を覚ましそうだ!こんな光景を見たら、今度は真っ白どころか木っ端微塵になる!
「ごめん!ちょっと私たちはもう帰るね!」
「あ...うん。わかった!鈴木にも伝えとくね!」
田中がそう返事をする。ありがてぇ!これで藤井の介抱に専念できる!
そう言ってその場を離れ、近くの公園で藤井を介抱していると、段々と藤井の顔に生気が戻り始めた。
「...あ、おはようございます」
「こんにちは」
藤井が目を擦りながら起き上がると、状況が把握できないようで、私に質問をしてきた。
「もしかして、あなたは命の恩人ですか?」
「はい、そうです。あなたはもうゲームセンターに行かないでください」
「わかったよ...もうあそこには行かない!代わりに駄菓子屋行こ!」
何とか立ち直った藤井がいきなり歩き出す。
「仕方ないなぁ。私はそんなにたくさんお金持ってないからね!」
この後、10円ガムを15個も買ってもらったのはとてもいい贅沢だった。