現実という名のラスボス
その日、朝のHRで担任が言った。
「今日はテスト返却するぞー。覚悟しとけー」
教室がざわつく。悲鳴、ため息、微妙な笑い。
そして曲枝賢治は――
「……ふっ。異世界転生者たる者、現世の評価などに動じはしない」
そう言いながら、内心はガクブルである。
何せ今回、ほとんど勉強していない。理由は明白。
「勉強って、異世界じゃ必要ないじゃん?」
魔法使いになるなら魔力ステータス、戦士なら筋力、
そもそもチート能力持ちなら勉強なんか関係ない。
――という見事な理論武装のもと、ノー勉で挑んだテスト週間。
その成果が、今ここで審判を下される。
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英語:18点
担任「これはもう“動詞に対する反逆”だな」
賢治「え、主語の気持ち考えたことあります?」
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数学:9点
解答欄、ほぼ埋まっていない。
唯一書かれていたのは「√異世界 = ワンチャン」という謎の数式。
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現代文:22点
問題:「主人公の心情を述べよ」
賢治の解答:「もうこの人生に意味はないと思っている。でも異世界があるなら話は別。」
担任「いや、賢治の心情書いてどうすんだよ」
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総合結果:クラス最下位
賢治「…………」
スコアも、笑いも、ない。
異世界ポイントは……おそらく-2くらい。
帰り道、賢治はコンビニの駐車場でベンチに座り、空を見上げた。
「……俺、本当にこのままでいいのか?」
少しだけ、現実の“自分”に向き合う気持ちが芽生える。
異世界を夢見るのは、逃げじゃない。
でも――“ちゃんと生きる”って、やっぱり簡単じゃない。
その時、ふとスマホの通知が鳴る。
委員長に強制参加させられたクラスLINEに、ひとつのメッセージ。
「明日、グループ発表の準備で残る人ー?」
数人の名前が並ぶ。その中に、意外な名前があった。
「曲枝、手伝ってくれるって」
「……え?」
誰が書いたのかもわからない。
でも、なぜか断る気にはなれなかった。
「……よし。とりあえず、明日は現世で“グループ行動”するか」
今日の賢治は、ちょっとだけレベルアップしていた。