体力テストにて
人生をちゃんと生きれば異世界に行ける。
その尊い(?)仮説のもと、曲枝賢治は今日も静かに燃えていた。
その日は朝から体育の授業。テーマは――
「体力テスト」
「うっ……マジか……」
教室でそのワードを聞いた瞬間、賢治の顔色が変わった。
なぜなら、彼の身体能力は一般男子以下。
むしろ異世界で言うところの“筋力E以下”。
だが、今日は違う。今日は魂の炎が違う。
「待てよ、体力テストって……“成長イベント”じゃね? 下手したら転生ポイント、爆稼ぎなんじゃね?」
脳内で天の声が響く。
〈新たなクエストが発生しました〉
「全力で体力テストをこなせ!」――報酬:異世界転生スコア+10(仮)
「やってやろうじゃねーか……俺は異世界に行くんだ!」
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種目1:握力測定
女子の記録:28kg
男子平均:40kg
賢治の記録:19kg
「なにこの手首の優しさ……」と先生に言われた。
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種目2:長座体前屈
賢治、前に手を伸ばす。手が、太ももあたりで止まる。
隣のやつ「え、まだ測ってないの?」
賢治「もうMAXです」
※記録:マイナス3cm(伝説)
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種目3:シャトルラン
担任「30回は頑張れよ~!」
賢治「(30回? 転生ポイント30ってことじゃん)」
――結果:9回
3回目でヒザが笑い始め、5回目で笑顔が消え、9回目で魂がどこかに行った。ちなみに終わったあとゲロった
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種目4:反復横跳び
途中でどっちが「横」か分からなくなる。
2ステップで完全に足がもつれ、壁に接触。
保健委員に「とりあえず座ってください」と心配される。
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それでも彼は立ち上がる。
「これ……転生ポイント……入ってるよな……?」
誰にともなく呟いたその言葉。空からは何の声も届かない。
だが、彼の中には確かに“何かをやり切った感”があった。
帰り道、膝をガクガクさせながらつぶやく。
「体力ゼロでも、魂は燃えてんだよ……っ!」
――そうして、曲枝賢治の異世界転生スコアは、
その日だけで+0.5ポイント(推定)加算された。