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LAST・LIFE  作者: 裏虞露
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【5】特殊エリア・店


早朝、朧は自室の小さな机に肘をつきながら、静かに考え込んでいた。目の前にはガラス製の虫かごが置かれ、その中で理想的なパラサイトワームが静かに動いている。体の隅々まで計算されたかのような完璧な個体値と、強力なスキルを備えたその存在を見つめるたび、朧は自然と口元を緩めてしまう。


「計画が浮いてしまったのは嬉しいけど……この時間をどう使うべきか、悩むわね。」


春休みをパラサイトワームの厳選に費やすつもりだった朧にとって、この予想外の成果は望外の喜びである一方、予定外の問題も生んでいた。


「今すぐ新生に入るか……それとも通常の条件を満たしてから挑むべきか……。」


朧は机に頬杖をついたまま呟く。貪食者の効果でデメリットを無効化できると思われるとはいえ、もしダメだった時低レベルのまま新生に入るのはリスクが高すぎる。けど、逆に通常条件を満たすには時間と労力がかかる。


「新生の後は色々ごたつくだろうし……やっぱりここは慎重に行動すべきね。」


冷静な思考が答えを導き出す。朧は新生を一旦保留し、通常条件であるレベル25を目指すことを決めた。


「確か……洞窟地形ならあの特殊エリアがあったはずよね。」


朧は転生前の記憶を呼び起こすように瞼を閉じる。ダンジョンの洞窟地形に存在する特殊エリアのひとつである“店”には独特の侵入方法が存在する。魔物の湧き穴のひとつに、魔物が一切湧かない穴がある。それを見つけ、その中に入ることで、エリアに到達できるのだ。


「洞窟地形なら店エリアで効率よくレベル上げができるわ。……11階層までは昨日の感覚なら問題なく行けそうね。」


思考を終えた朧は席を立ち、荷物の準備を始めた。翌日の戦いに備え、彼女の心は既に整っていた。



朧は朝早くからダンジョンへと向かった。既に道中のルートは把握しているため、無駄な寄り道をすることなく、目標の洞窟地形となる11階層に辿り着いた。


「さて……ここからがらが本番ね。」


11階層に足を踏み入れると、少し前までの樹海が嘘のようゴツゴツとした岩肌が視界いっぱいに広がり、洞窟特有の湿った空気と、どこか生命の脈動を感じさせる環境に、朧は自然と集中力を高める。


魔物の湧き場所を見つけるのは簡単だった、兎に角魔物が沢山いる方向に向かえば直ぐに見つかった、人が多いとこうも簡単には行かないのだけどね。


「確か、こここの何処かに“静かな穴”がひとつだけあるはず……。」


魔物が湧き続ける穴の中で、唯一、魔物の気配を感じない静かな穴。それを探し当てるには、周囲の魔物を排除しながら注意深く観察を行う必要がある。


「一掃するわよ。」


戦闘用のスキルを持って居ないとはいえ、ここはまだまだ序盤、湧いてくる魔物はスライムが含まれてるし、一番数が多い蝙蝠は耐久力に乏しいから問題無くやり切れるはずよ。

朧は腰に備え付けた短剣を抜き、一気に群がる魔物たちへ飛び込む。スキルや戦闘の経験値を稼ぐにはもってこいの場だ。次々と現れる魔物たちを軽やかに片付けながら、朧は一つずつ湧き穴を確認していく。


「……これじゃない。これも違う……。」


しばらく戦闘を続けた後、朧の目がふと一つの湧き穴に留まった。他の穴とは違い、そこには微かな風の流れが感じられるものの、魔物が一切湧き出してこない。


「ここね。」


確信を持って朧はその湧き穴の前に立ち、短剣を収めた。そして、足を踏み入れる。


無機質な石壁に囲まれた特殊エリア「店」。その中央には粗削りな石板が据え付けられ、無言の威圧感を漂わせていた。周囲に設置された金属製の棚には、剣や盾、防具が整然と並んでおり、その一つ一つがどれも独特な雰囲気をまとっている。


朧は石板の前に立ち、指を石の表面に軽く這わせた。その瞬間、石板が魔力を帯びたかのように青白く発光し、朧の脳内に直接、選択肢が次々と流れ込んできた。


「やっぱりここは便利ね……代償はシビアだけど。」


店での通貨は魔物から得られる魔石のみ。魔石の価値は、その魔物の強さに応じて変化する。朧の荷物には、これまで討伐してきた魔物から得た魔石を換金せずに溜め込んでいたが、それでも購入できるものは限られている。


「さて、何を選ぼうかしら……。」


朧はまず「武具」の一覧を確認する。表示された選択肢には、洞窟地形の階層相応の強力な装備が並んでいた。それぞれの武具には詳細な効果が記されており、ただ攻撃力や防御力が高いだけではなく、特殊な付加効果を持つものも多い。


「ふむ……これなんか面白そうね。」


朧の目が留まったのは、一つの短剣だった。


【深淵の牙】──攻撃時に一定確率で出血効果を付与する短剣。環境が洞窟地形時、魔物に対して攻撃力15%上昇。


「これなら、今の環境にちょうど良さそう。」


深淵の牙は洞窟地形の魔物に対して特に相性が良い武器だ。付加効果の出血は、持続的にダメージを与えるだけでなく、敵の動きを鈍らせることも期待できる。


「この短剣をメインにして、あとは防具も揃えないとね。」


次に朧は防具の一覧を確認した。洞窟地形では魔法攻撃を使う魔物も少なくないため、物理防御だけでなく魔法耐性を上げる装備が必要だった。そして彼女が選んだのは……。


【影の外套】──魔法耐性+20%、移動速度上昇、暗闇で一定確率で敵の攻撃を回避する外套。


「移動速度上昇と回避効果……これなら格上狩りもやりやすくなるわね。」


深淵の牙と影の外套、この二つを揃えるだけで魔石の大半を使い果たしてしまうが、それだけの価値があると朧は判断した。



他にめぼしい物はないかと石板の選択肢をさらに眺めていると、朧の目に「設計図」というカテゴリーが映った。設計図は特殊な効果を持つ装備を自作するためのアイテム。


「ふむ……興味はあるけど、今は資源が足りないわね。」


設計図を使いこなすには大量素材と拠点設備が必要だ。今すぐに揃えるのは難しいため、朧は一旦この選択肢を見送り、手元の装備だけで洞窟地形内の攻略を進めることにした。



購入した装備を整えた朧は、店エリアからの出口へと向かった。足を踏み出した瞬間、視界が一瞬だけ歪み、再び湿った洞窟の空気が肺に満ちる。


「さて……準備は整ったわね。」


深淵の牙を腰に装備し、影の外套を肩に纏う。これまでの装備とは段違いの性能を感じながら、朧は周囲の魔物たちに視線を向けた。


「相性有利な装備を手に入れたんだもの、早速試してみないとね。」


朧の目標は急速なレベルアップだ。そのためには、相性有利を活かして格上の魔物に挑み続ける必要がある。だが、10レベル以上の差がある相手にはさすがに分が悪い。無理のない範囲で格上を狩って効率よく経験値を稼ぐ計画を立てる。


「まずは……レベル10台後半の魔物から試してみようかしら。」





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