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LAST・LIFE  作者: 裏虞露
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【4】帰還

帰路──夜の帰還


森の出口に足を踏み入れる頃には、空はすでに暗闇に包まれていた。昼間の陽光に照らされていた世界は影を潜め、代わりに月の光が静かに足元を照らしている。


「ふう、結構遅くなっちゃったわね。」


朧は軽く息をつきながら、片手に握った虫かごを確認した。結局あの後、戦い足らずに追加で数体のマザーワームと戦ってその成果は…籠の中で蠢くパラサイトワームが1匹──それが持つ完璧なスキルと個体値を考えれば、今回の大満足と言えるものだった。理想個体が配合厳選も無し手に入るという上振れはゲーム時代で経験したとはなく…朧は流れと言うしかないものを強く感じていた。


「でも、みんな心配してるかしら……。」


自分がダンジョンに行くことは、あらかじめ家族と巡に伝えていた。しかし、日が沈むまで帰らないというのはさすがに想定外だった。家に帰れば母の叱責と、巡の不安げな顔が待っているだろう。それを想像しつつも、朧は苦笑いを浮かべて歩を進めた。



自宅が見えてきた頃、玄関先には明るい灯りが灯っており、家の中から誰かが動き回る気配が見えた。


「……巡がまだいるのね。」


玄関に近づくと、そこで朧を待っていたのはまさに巡だった。制服のままソファに腰掛け、落ち着きなく足を揺らしていた彼は、扉が開く音に反応して立ち上がった。


「朧さん! 帰ってきたんだね!」


巡の顔には、安堵の表情が浮かんでいる。その反応を見た瞬間、朧は少しばかりの罪悪感を感じた。


「ごめん、ちょっと遅くなっちゃった。」


そう言いながら虫かごを隠す仕草もなく、自然体で家に上がる朧。それを見た巡は、眉をひそめて彼女の顔を覗き込む。


「遅くなるなら連絡してって言ったじゃないか。何かあったかと思ったんだよ……。」


「そうね。確かに心配させちゃったわね。」


朧は巡の頭を軽く撫でて、少しだけ申し訳なさそうに微笑む。しかしその目にはどこか飄々とした光が宿っている。


「でも、何もなかったわよ。ほら、私は無事でしょ?」


その言葉に、巡は少しだけ口をへの字に曲げたが、彼女の無傷の姿を確認すると大きく息をついた。


リビングに入ると、そこには母親の姿があった。朧が帰ってきたのを見ると、母はほっとしたような顔を見せながらも、すぐに真剣な表情に変わった。


「朧、さすがにこんなに遅くなるなんて……心配したのよ。」


「ごめんなさい。ダンジョン探索に思った以上に時間がかかっちゃって。」


「ダンジョンは危険だって分かってるでしょう? 一人で行くのはやっぱり無茶じゃないの?」


母の問いかけに、朧は軽く肩をすくめる。彼女の頭の中では、既に『危険』という言葉があまり実感を伴わなくなっていた。しかし、それを口にするのは賢明ではない。


「大丈夫よ。ちゃんと気をつけてたし、無理はしてないわ。」


「そういう問題じゃないのよ……。」


母親はまだ何か言いたそうだったが、彼女の顔を見るとそれ以上は何も言わず、ため息をついて引き下がった。その横で、巡がそわそわしながら彼女の様子を窺っている。


「まぁいいわ。でも、次はもっと早く帰ってきなさいね。」


「分かってるわ。心配させないようにする。」


母親とのやり取りが終わり、自室に戻ろうとする朧を巡が追いかけてきた。


「ねぇ朧さん、本当に大丈夫だったんだよね?」


その言葉に足を止め、朧は振り返る。巡の目には、まだ少しばかりの不安が残っていた。


「大丈夫よ。ほら、これ見て。」


彼女は虫かごを巡の前に差し出す。その中で蠢くパラサイトワームの姿を見た瞬間、巡は思わず息を飲んだ。


「これ……魔物だよね?。朧さんが捕まえたの?」


「ええ、ちょっと厳選に時間がかかっちゃったけど、なかなかの成果でしょ?」


誇らしげに微笑む朧を見て、巡は呆気に取られたように口を開けた後、小さく笑った。


「やっぱりすごいな、朧さんは……。」


「当然でしょ?」


軽く胸を張る朧に対し、巡は小さく肩をすくめながら、彼女について歩き始める。


巡とゲームをしたり他愛もない会話し、帰る巡を家に送り届け、家族との晩飯、風呂などを済ませ自室に戻った朧は、机に置かれた捕獲したワームたちを、しばらくじっと観察した。それぞれのスキルと個体値を思い出しながら、次の計画を頭の中で組み立てていく。


「さて、まずは……どうしようかしら思ったより早く厳選が終わったのよね」


彼女はスキルの使い道を考えるのと同時に、パラサイトワームとの新生の計画を少しずつ形にしていく。


「これが上手くいけば……さらに面白いことになりそうね。」


机の上でうごめく虫たちに微笑みかけ、彼女は静かに立ち上がった。そして、枕元に荷物を置いてベッドに横たわる。


「ふふ……本当に楽しくなってきたわね。」


月明かりが窓から差し込む中、朧は次の計画を夢想しながら、ゆっくりと目を閉じた。

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