【3】ワームがイッパイ!
現在レベル:5
朧は密林の中で目の前に広がる濃い霧を見つめながら、彼女自身の現在の状況を一瞬だけ振り返った。中学卒業後、すぐにダンジョンに潜り込んだ彼女のレベルはここに来るまで数度の戦闘をこなしたもののまだたったの5。今のところ高いと言える数字ではない。
とはいえ、この世界での転生者としての知識が、彼女のレベル以上の行動を可能にしていた。そしてそれらの戦闘で発生した「スキル習得」や「クラス変更」をキャンセルした際の判断もまた、彼女にとって極めて重要な選択だった。
「レベルを上げれば解放されるものもあるけれど、無駄なスキル枠を埋めると継承を行う時の効率が悪くなるわ。スキルを厳選し、必要なものだけを拾う……基本よね。」
朧は胸中でそう呟き、目の前にいる巨大な魔物──マザーワームを改めて見据えた。
マザーワーム Lv.12──推奨レベル20
朧がじっと睨みつけているその巨大な体躯が、ずるずると地面を這い回り、周囲に毒々しい粘液を撒き散らしている。だが、朧はその姿に一切の恐怖も感じず、むしろ楽しげに笑みを浮かべていた。
「さぁ、どんな動きを見せてくれるのかしら?」
マザーワームが朧の目の前で大きな口を開き、その口内から小型のワームたちが次々と這い出してきた。さらに、尾を振り上げると、鋭い棘を含む毒液が朧の方へと勢いよく飛んできた。
「そんな単純な攻撃じゃ当たらないわ。」
朧はすかさず横に飛び、毒液を回避すると同時に、目の前に迫ってくる小型ワームたちを鉄剣で次々と切り伏せる。ワーム系は速度が総じて遅いのもあるが彼女の動きには無駄がなく、一撃一撃が的確だ。
「こんなところかしら。次はあなたのターンね。」
朧は軽く肩を回し、マザーワームの動きを観察する。マザーワームはさらに怒り狂ったように地面を激しく振動させ、周囲に小規模な地震を引き起こした。これにより足場が崩れ、朧は少しバランスを崩すが、その表情はどこまでも余裕に満ちていた。
「なるほど……範囲攻撃もできるわけね。でも、それだけ?」
朧はわざと挑発するようにマザーワームの方へ一歩踏み出す。その瞬間、マザーワームが彼女に突進を仕掛けた。
「そう来ると思った。」
突進のタイミングを見切った朧は素早く地面を蹴り、跳躍してその突進をかわすと、マザーワームの背中に飛び乗る。そして、鉄剣を構える代わりに、笑みを浮かべながらその背中に手を伸ばした。
「ユニークスキル【貪食者】……ゲーム時代にはなかったスキル…検証は不十分だし試して見た方が良いかしら?」
そう呟きつつ、朧はマザーワームにトドメを刺さず、そのまま背中から飛び降りた。
マザーワームを放置したまま、朧はその周囲に大量に湧いているワーム系魔物に目を向けた。
「さて、次は本命の作業ね。どれだけ優秀な魔物がいるかしら。」
朧は周囲のワームを観察しながら倒し続ける。数十匹を仕留めたあたりで、条件を満たしたのか、頭の中に新しい感覚が芽生えた。
汎用アクティブスキル【鑑定】を習得しますか?
「ようやく来たわね。【鑑定】があれば、この後が楽になるわ。」
朧はさっそく【鑑定】を習得、使用し、周囲に湧いているワームの個体値や保有スキルを一匹ずつチェックしていく。
目的の個体の発見
数十匹の魔物を鑑定し続けた結果、朧はようやく八匹の「当たり個体」を見つけた。
一匹目は、パラサイトワーム。吸血鬼系の種族パッシブスキルの【吸血】を持ち。
二匹目も当然同じくパラサイトワームで、こちらは龍系の種族アクティブスキルの【龍の息】を持っている。
後のパラサイトワームはそれぞれ別の個体値がMAXの個体。
「これで決まりね。」
朧は捕まえたパラサイトワームを持って来ていた虫かごにそれぞれを収めた。
「帰って準備を整えれば、次は新生に一歩近づくわね。」
彼女は満足げに微笑むと、再び視線をマザーワームに向けた。
「お楽しみはここまで。今度はちゃんと戦いにくるからその時までに強くなっておきなさい。」
マザーワームに軽く手を振りながら、朧はその場を後にした。