【15】変化した身体
遊園地の出口を出た朧と巡は、並んで歩いていた。空は既に群青色に染まり、街灯が道を照らし始めている。
「今日は本当に楽しかったな……。」
巡は満ち足りた表情で、何度目か分からない言葉を繰り返した。頬はわずかに紅潮しており、時折朧の方をちらりと盗み見る。
「ふふっ、そう? それならよかったわ。」
朧は狐耳をピクリと動かし、尻尾をふわりと揺らした。新生を果たしたその姿は、遊園地にいた時のぶよぶよとした体型からは想像もつかない、妖艶でグラマラスな美貌を持つものに変わっていた。
巡は変わり果てた朧の姿を全く気にする様子もなく、むしろ今まで以上に自然な態度で接している。
「本当に……変わったね。でも、不思議と違和感がない。」
「ん? どうして?」
「だって、朧さんは……いや、もう“朧”って呼んでもいい?」
「もちろん。」
「じゃあ……朧は、やっぱり朧だからさ。」
巡は笑顔で言った。その言葉を聞き、朧は一瞬目を細めた。
「ふふっ、そう? なら、よかった。」
朧は巡の頭を軽く撫でた。巡は少し照れたように俯きながらも、満更でもない表情を浮かべる。
甘いやり取り──巡との新たな関係
「……ねぇ、巡。」
「ん?」
「キス、してあげようか?」
朧が冗談めかして囁くと、巡の顔が一瞬で真っ赤になった。
「な、なななっ……!?」
「冗談よ、冗談。そんなに慌てないで?」
狐耳をピンと立て、楽しそうに笑う朧。その姿に巡はますます顔を赤くしていた。
「……い、いつか本当にしてもらうからな。」
「ふふっ、期待してるわ。」
二人の影が夜道に並び、ゆっくりと歩いていく。
巡を家まで送り届けた後──孤独な帰路
巡の家の前に到着すると、巡は玄関の前で立ち止まった。
「……今日は本当にありがとう、朧。」
「ううん、こちらこそ。楽しかったわ。」
「じゃあ……また明日!」
巡が手を振ると、朧も小さく手を上げて応えた。巡の家のドアが閉まる音を聞き、朧は一人きりの帰路を歩き出した。
夜風が肌を撫でる。新生を果たした後の身体は以前とは全く異なるが、朧自身の中には何も変わったものはないように思えた。
「……さてと。」
家路の途中、朧はふと立ち止まり、夜空を見上げた。
「問題は、家族ね。」
自宅──変わり果てた姿と家族の反応
玄関の前に立ち、深呼吸を一つ。
(……まぁ、事前に言っておいたし、何とかなるでしょう。)
「ただいま。」
扉を開けて中に入ると、リビングから両親の声が聞こえた。
「おかえりなさい──……え?」
「……誰?」
両親の声が重なった瞬間、朧は心の中で苦笑した。
(まぁ、そうなるわよね。)
母親はキッチンから顔を出し、父親はソファから立ち上がった。二人とも、目の前に立つ狐耳と尻尾を持つ妖艶な女性を見て、完全に固まっている。
「え、ちょっと待って。どちら様?」
「朧さんのお友達……?」
「……私だけど?」
朧はサラリと言った。
「………………は?」
両親は声を揃えて絶句した。
同一人物の証明──ちょっとした手間
「嘘、でしょ? そんなわけ……だって……。」
母親は目を丸くし、父親は眉間に深い皺を寄せている。
「言ったでしょ? 姿が変わるかもって。」
「え……本当に……朧……?」
「本当に私よ。」
そう言って、朧は家族しか知らないような昔話を語った。幼少期に起きた些細な出来事、両親の口癖や好物の話──一つ一つが、確かに「朧」である証明となった。
「ほら、信じた?」
狐耳をピクピクと動かしてみせると、ようやく両親は息を呑んだまま頷いた。
「本当に……朧なのね……。」
「はあ……本当に驚いたよ……。」
父親は頭を掻きながらため息をつき、母親は安堵の表情を浮かべた。
「……で、その変わった姿、どうしてなの?」
父親がソファに座り直しながら尋ねる。
「ちょっとね。強くなるために必要だったのよ。」
「ふうん……朧らしいと言えばらしいか?まぁ、無事ならいいさ。」
母親は笑いながら、台所へと戻った。
「晩ご飯、すぐにできるからね。」
「ありがと。」
朧はリビングのソファに座り、尻尾をふわりと揺らした。
(巡も、家族も──私の変わった姿を受け入れた。)
窓の外では、夜空に星が瞬いていた。




