【12】魔力操作
22階層を無事に終えた朧は、その後も順調に探索を続け、25階層まで到達していた。この階層は特に職業探索者が多く集まるエリアで、草原地形に加え、散在する小さな岩場が視界を遮る構造になっている。
「ここが25階層……噂通り確かに人が多いわね。」
朧は隠密の指輪の効果を信じつつ、気配を抑えて草むらを進む。遠くの岩陰に見える職業探索者たちは、鍛え抜かれた装備を身にまとい、熟練の動きで魔物を仕留めている。その姿を観察しながら、朧は静かに息をついた。
「一々避けるのも面倒だけど、目立たない方がいいわよね?」
慎重に進みながら、朧は戦闘を最小限に抑えつつ、この階層を通り抜けることに成功した。
25階層を過ぎたあたりから、探索者の数は徐々に減り、代わりに魔物の密度が増していった。そして28階層に到達した朧は、そこでさらに強力な群れと遭遇することになる。
草原地形の中心部に広がる開けた空間。その中央には、大量の魔物が蠢いていた。
《グラッシーストライダー》──跳躍力に優れた草食獣型魔物。群れで行動し、敵を取り囲む戦法を取る。推奨レベル22。
朧の視線の先には、10体以上のグラッシーストライダーが集結していた。その鋭い蹄と素早い動きは、単純に数が多いだけでも十分に脅威となる。
「……派手にやるしかないわね。」
朧は腰の鞭“風裂の鞭”を手に取り、左腕には軽盾“フォールバック”を構えた。そして、静かに短剣“深淵の牙”を確認しながら、魔力を練り始める。
「ここで試してみる……魔力操作をね。」
朧は【魔力操作】を発動させた瞬間、体内を流れる魔力が高まり、武器にまとわりつくように広がっていく。鞭の先端が淡い光を帯び、まるで手足が拡張される感覚が伝わってきた。
「まずは……牽制よ!」
鞭を振り抜いた瞬間、魔力の増幅によって鞭先が風の刃のような威力で、敵の群れを正面から薙ぎ払った。グラッシーストライダーたちは驚いたように一斉に跳び退くが、すぐに体勢を立て直して四方から朧を取り囲む。
「なるほど……動きが速いわね。でも!」
敵が距離を詰めてきた瞬間、朧は再び【魔力操作】で攻撃の形状を変化させ、鞭を円を描くように振り回し、魔力を込めた刃で自身の周囲を包む。
「これならどう?」
範囲攻撃によって3体の敵を同時に叩き伏せた朧は、次に短剣を構え、攻撃の後隙を狙って接近してきた1体を瞬時に仕留める。
残る魔物たちはさらに連携を深め、息を合わせて朧に襲いかかる。跳躍力を活かした攻撃が四方八方から繰り出される中、朧は盾を巧みに使いながら反撃を続けた。
「もっと来なさい……!」
左腕で敵の蹄を受け流しながら、右手の鞭で敵を絡め取る。そして、接近した魔物を深淵の牙で正確に仕留めていく。
激しい戦闘の末、最後の1体が地面に崩れ落ちたとき、朧は静かに息を整えた。
「ふぅ……悪くない戦いだったわ。」
《レベルアップしました。現在のレベル:20》
朧の成長が目に見える形で現れる。だが、その達成感も束の間、彼女は周囲の気配に違和感を覚えた。
「……誰かいる?」
視線を向けた先、遠くの草むらに複数の人影が立ち尽くしているのが見えた。それは職業探索者たちで、朧が繰り広げた大立ち回りを目の当たりにしていたようだった。
「見られてたのね……。」
一瞬、帰還結晶を使用して離脱しようかと考えた朧だが、すぐに首を振る。
「こんなことで帰ってたらキリがないわ。気にしないことにしましょう。」
朧はその場を後にし、探索を続けることにした。
★
「な、なんだあいつ……?」
「急に現れてあんな大群相手に……しかも余裕そうだったぞ。」
「そうだな…いや、でも……見た事ないよな?あんなデブ……いや、ほんとすごいデブ……。」
「お、おい!静かにしろ!聞かれたらどうする!」
こうして、朧は一部の探索者たちに「急に現れたすごく強いデブ」として認知されることとなった。




