【9】21階層
朧が洞窟の暗がりを抜けた瞬間、目の前に広がる景色は一変した。これまでの湿った地形とは打って変わり、青々と茂る草原がどこまでも続いている。頭上には光苔ではなく、人工的に設置されたかのような光が、空を模倣したように淡い青白さで全域を照らしていた。
「……これが草原エリア、ね。」
朧は足元の柔らかな草を踏みしめ、周囲を見回した。草原地形はゲーム時代から難所とされる場所だった。理由は単純で、全体的に素早さが高いのが特徴である獣系の魔物が群れで出現するから…特に今の私のように範囲攻撃を持たない者とはかなりきつい。それにこの世界では……
「プロの探索者ね……。」
朧の脳裏に一瞬、注意深く警戒する必要性がよぎった。この世界の最高到達階層はたった36階層…だけど残念ながら全員がそこらへんでまごついているわけじゃない。調べた所によれば一般的な職業探索者がいる階層は20階層の序盤から中盤にかけてもし職業探索者にスキル【鑑定】を使われれば現在のステータスが露見する可能性がある。
クラス無し、スキルがほぼ無いことが露見したら何か厄介や事が起こるような気がするのよね。
「……でも、まだ特別なことはしてない。大丈夫、目立たない限り平気よ。」
朧は気持ちを切り替え、特別警戒せずに進むことを決めた。今の自分はただの新人探索者に過ぎない。わざわざ注意を引くような行動を取らなければ、職業探索者たちも興味を示すことはないだろう。
草原の風が吹き抜ける中、朧は耳を澄ませながらゆっくりと歩を進めた。この階層には獣系の魔物が多く、生息している魔物の種類も多様だ。
《フェロウウルフ》──群れで行動し、俊敏な動きと連携で敵を追い詰める狼型魔物。推奨レベル19。
《スティングライオン》──鋭い爪と毒針を持つ獅子型魔物。単独で出現し、推奨レベル20。
朧は草むらの奥でフェロウウルフの影を見つけた。その群れは5匹ほどで、こちらに気づいている様子はまだない。
「集団戦は避けたほうが良さそうね……。」
朧は一度足を止め、獣たちの配置を慎重に観察する。群れから少し離れた位置にいる一匹のフェロウウルフが、視線をそらした瞬間を狙い、静かに接近した。
「一匹ずつ減らしていけばいい……まずは試させてもらうわよ。」
深淵の牙を抜き、朧は静かに構えた。そして、次の瞬間──一閃が闇を裂き、孤立したフェロウウルフの喉元を正確に捉え切り裂いた、当然近くにいた個体にバレて襲いかかってくるけど…たかだか一レベル上の魔物に負ける程私は弱くない。死体を片手で持ち上げて近付いてきて来た敵に投げ付つけ、飛びかかって来た敵は深淵の牙で切り裂き、その後に続いて襲いかかって来た敵をすり抜けて死体を投げつけられてまごついている二匹にトドメを刺し、方向転換して戻って来た最後の一匹を倒して終了。
「特に問題は無さそうね。…それにしても、もうこんな時間なのね、名残惜しいけど今日の所は帰りましょうか」
21階層での初日を無事に終えた朧は、素早くダンジョンから脱出し、自宅へと戻った。夕方の光が差し込むリビングには母親いた。
「おかえり、朧。」
母親は朧の姿を見て安心したように微笑んだ。
「今日は早かったじゃない、ちゃんと約束が守れて偉いわよ」
「まぁね」
朧は軽く肩をすくめながら答え、リュックを置いた。
「夕飯まで少し休むわね。」
部屋に戻った朧は、ベッドに腰を下ろし、バッグから魔石を取り出した。その表情には達成感と新たな決意が滲んでいる。
「明日は……どこまで進めるかしら。」
夕日に照らされてオレンジ色に輝く魔石を見詰めながら朧はそう呟いたのだった。




