二話〘少女とパン〙
瞬きした瞬間周りのスライムが弾け飛んだ。
スライムの少女が驚き焦った顔でそそくさと逃げていった。
黒髪の少女はこちらを見て近づき声をかけてきた。
「え、もしかしてここと違う世界から来た転移者?」
一瞬だけ見えた時は黒髪としか認識できなかったが、とても可愛らしい少女だ。
艷やかなでサラサラの肩より長い髪、きれいな黒目、そして、目がぱっちり二重可愛い。
服は人生と書かれた黄ばんだ白の Tシャツ、青の短パンに靴を履かず裸足。
普通ならだっs………可愛い女の子だと思うだけだが、こんな危機的状況で助けてくれたのは女神に見える。
「あの……大丈夫ですか?」
「大丈夫です。助けていただきありがとうございます」
見惚れている間に黒髪の少女は俺のこと心配して慌てて返事をする。
黒髪の少女は俺の様子を見ながら話し出す。
「日本? から来ました?」
他にも日本から来た転移者がくるなんて、正直びっくりした。
他の被害者がいるなんて。
相手は異世界に来てこんなスライムだらけの状況にあって最悪な状況だと思う。
だが、俺にとっては死にかけたとはいえ同じ日本人がいて安心した。
「はい……突然ゲームの世界に飛ばされたばかりで……助けていただきありがとうございます」
「ゲーム……そうなんだ! 私も突然飛ばされてびっくりしたんだよね。そんなお礼言わなくても!」
黒髪の少女は明るく会話をする。
とにかく境遇の人を見つけて安心した。
「もしよかったら一緒に行動しない? 私一人で不安だったし!」
普段の俺なら初対面の少女についていくのは怪しいしどうかと思う。
だが助けてくれた救世主だし同じ日本人なると話は別だ。
俺も誰かと一緒に居たかったので、答える。
「いいですよ。同じ境遇の人がいて安心しまた。」
そう答えると黒髪の少女は目を輝かせて笑顔で両手で俺の手を触った。
「本当? ありがとう! ありがとう!」
キモいとは思うがこんなことされたら、陰キャの俺は勘違いしてしまうではないか。
そんな気軽に触るのは辞めていただきたい。
変なやつに騙されないか心配なぐらい元気で明るい。
まるで子犬のようだ。
黒髪の少女の心配をしつつ、街並みを2人並んで歩いた。
黒髪の少女はどんどん話しかけてくれる。
無言は無言で厳しいのでとても助かる。
「ええと、始めまして私の名前は『ミア』よろしく!あなたの名前は?」
「俺の名前は、内木 涼です」
ミアは少し不思議そうに聞いていた。
そんな変な名前ではないとおもうのだが。
心配しつつ、ミアは話し続ける。
「リョウでいいよね! そんな丁寧に話さなくていいよ! 同じ転移者だし!」
気を使っているのがばれたか。
初対、尚且つ俺と街を救ってくれた救世主に敬語を外すなんて出来なかったが、ミアが外してと言ったので外す。
「わかった。じゃあ敬語外す」
俺にとってミアは眩しすぎるがさっきまで絶望的だった俺にはちょうどよかった。
「へへ〜ナイフ持っててよかった!」
「よくナイフを持ってたな」
「護身用なんだよね!」
「よく持ってたな」
「へへ〜」
ミアが持っていたナイフはサバイバルナイフのようで刃の部分が赤紫に輝いている。
照れながらナイフを見せつける。
騙されそうと思ったが騙したら命がなさそうだ。
銃刀法違反に引っかかりそうなナイフだが、ミアのおかげで助かったのでこれ以上突っ込まないようにした。
「これからどうしようか。金は持ってないし、言葉が分からないから助けてもらうこともできない」
「うーん」
そんな事を話していると近くの人がミアに声をかけた。
住民が紙袋いっぱいのパンをミアに渡す。
何を言っているかは分からないが、スライムの事でミアに感謝をしているように見えた。
それにミアはニコニコの笑顔でお礼を伝わるるようにお辞儀をしている。
「パン貰ったやった!」
「それはミアが街の人を助けたからな」
「そんな大したことはしてないけどね! リョウ! あそこの噴水の近くのベンチで一緒に食べよ! お腹すいた!」
「いいけど俺も食べていいの?」
「いいの! みんなで食べたほうがおいしいし、仲間だからね!」
笑顔でミアは噴水のベンチに指を差した。
住民がミアにあげたパンなのに俺が食べるのもおかしな話だが、ミアが良いなら俺もお腹空いてるし一緒に食うことにした。
俺とミアはベンチに腰をかける。
ミアは紙袋からパンを出し、フランスパンより長いパンを半分こした。
半分にしたパンを俺に渡す。
「あはは、半分にしてもこのパンでかいね」
「そうだな。二人で食べ切れるか心配だな」
ミアはパンを細かくちぎって口の中に頬張る。
少し欠片がでかいのかハムスターのように口が膨れていた。
「んーんんん!」
「食べてからでいいから。」
急にゲーム世界に飛ばされたとは思えないほど微笑ましい光景になっている。
さっきまでの出来事はなかったかのように。
これからの事はわからないが今はこのパンを噛み締め味わう。
こんなのんびりしていていいのだろうか。
「なんか私たちの方に近づいてきてない?」
ミアが見ていた方に鉄の鎧を着た二人の男がいた。
とうやらこちらに近づいてきているようだ。
ガシャガシャたてながら歩いてき明らか俺達の方を睨んできた。
────おい、そこの黒髪の二人異世界人か?
「異世界人なら返事をしろ!」
「は、はい!」
ミアが急いで返事をした。
「ゼントル王様が待っている!」
「城に案内する! ついてこい!」
「い、痛っ」
パンを食べてるのに容赦なく二人の鎧が俺達の腕を力強く掴み、城に連れて行かれた。